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- 保育士の賃金を考える~賃金カーブの改善と保育の質の確保を~
2018年01月16日
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2|福祉業界の労働生産性
次に、保育所等を含む福祉業界の経営構造の特徴をみるために、労働生産性という観点からみておきたい。2012年経済センサスによると、従業員1人あたりの付加価値額を示す労働生産性が最も高いのは、「情報通信業」909万円で、「卸売業」は747万円、「製造業」は607万円である(図表4)。これに比べて「社会福祉・介護事業」は288万円と低く、「飲食サービス業」はそれより低い165万円だった。
また、給与総額を付加価値額で除した労働分配率は「情報通信業」64.9%、「卸売業」62%、「製造業」70.3%、「社会福祉・介護事業」85.8%である。情報通信業や卸売業、製造業に比べると社会福祉・介護事業の労働生産性は低く、労働分配率は高くなっている。「教育、学習支援業」も同じような傾向を示している。福祉や教育産業は労働集約型であり、人件費割合が高いためと考えられる。
次に、保育所等を含む福祉業界の経営構造の特徴をみるために、労働生産性という観点からみておきたい。2012年経済センサスによると、従業員1人あたりの付加価値額を示す労働生産性が最も高いのは、「情報通信業」909万円で、「卸売業」は747万円、「製造業」は607万円である(図表4)。これに比べて「社会福祉・介護事業」は288万円と低く、「飲食サービス業」はそれより低い165万円だった。
また、給与総額を付加価値額で除した労働分配率は「情報通信業」64.9%、「卸売業」62%、「製造業」70.3%、「社会福祉・介護事業」85.8%である。情報通信業や卸売業、製造業に比べると社会福祉・介護事業の労働生産性は低く、労働分配率は高くなっている。「教育、学習支援業」も同じような傾向を示している。福祉や教育産業は労働集約型であり、人件費割合が高いためと考えられる。
4――保育士と全職種の賃金比較
ただし、他の条件を比べてみると、全職種では平均勤続年数が11.9年であるのに対し、保育士は7.7年と4.2年も短い。保育士は、結婚などを機に退職する人が多く、離職率が高いためである。また所定内実労働時間は保育士の方が全職種より5時間長く、残業時間(同調査でいう「超過労働時間」)は9時間短かった。そこで、上記の条件をすべて保育士と同じに補正して月給を試算した結果は約30万円10になり、保育士との差額は約8 万円となる。次に、年収についても条件をそろえて試算すると445万円11となり、保育士との差額はまだ約118万円もある(図表6)。このように、条件の違いを補正しても、保育士の月給や年収は全職種に比べて相対的に低いことが分かった。
9 「決まって支給する現金給与額」×12か月分+「年間賞与その他特別給与額」で算出。
10 まず勤続年数の差は以下のように補正する。厚生労働省の2016年「賃金引上げ等の実態に関する調査」によると、全産業の平均定期昇給額(加重平均)は5,031円であるから、月給に4.2年の昇給分21,130円(5,031円×4.2)を増額する。次に労働時間の差は以下のように補正する。所定内給与額(30.4万円)を所定内労働時間(164時間)で除すると、全職種の1時間当たりの給与は1,854円であるから、5時間分にあたる9,270円(1,854円×5時間)を増額する。残業1時間当たりの給与は、1,854円に労働基準法で定められた割増率1.25を乗じて2,318円となるので、9時間分20,862円(2,318×9)を減額する。すべて補正した後の月給は30万1,278円(334,000-21,130+9,270-20,862)になり、保育士との差額は約7万8,000円(301,278-223,000円)である。
11 勤続年数の差については、全職種の4.2年の昇給分253,562円(5,031円×12×4.2)と賞与への反映分61,277円(5,031×2.9×4.2)を差し引いた。2.9は、1年で何ヶ月分のボーナスが支給されるかを示す倍数で、全職種の「年間賞与その他特別給与額」を「所定内給与額」で除して求めたものである。労働時間の差については、所定労働時間の増加分111,240円(1,854円×5×12)を加え、残業時間の短縮分250,344円(2,318×9×12)を差し引いた。
2|賃金カーブの違い
次に、勤続年数の差が与える影響について、より細かくみていきたい。図表7は、全職種と保育士について、各勤続年数区分の労働者割合と所定内給与を試算し、賃金カーブを比較したものである12。
まず勤続年数区分ごとの労働者の割合をみると(棒グラフ)、14年以下までは保育士(青色)の方が全職種(緑色)を上回っていたが、15年以上では逆転している。これは保育士の離職率が相対的に高いことを示している。次に所定内給与額をみると(折れ線グラフ)、全勤続年数の平均では、全職種30万4,000円に対して保育士が21万6,000円で、8万8,000円の差があるが、就業時の勤続年数0年でみると全職種23万1,000円に対して保育士18万5,000円で、4万6,000円の差にとどまっている。その後、勤続年数が長くなるほど両者の差は開き、15年以上では全職種39万1,000円に対し保育士は25万4,000円で、13万7,000円もの差がある。
つまり、保育士の賃金カーブは、全職種とは異なり、昇給幅が小さく直線に近く、長く働けば働くほど差が広がるという特徴をもつことが分かる。10年近く働き続けても、新人時代と比べて所定内給与は平均2万円ほどしか上がらない。これは、保育士に資格区分や昇給システムがほとんどないためである。保育所単位でみると、所長と主任保育士がいる他は、皆が同じ保育士で、大して変わらない賃金で働いているという状態である。これが、やりがいのある仕事と評価されているにもかかわらず、長く働き続けようという意欲を損ねてきた一因だと考えられる。
次に、勤続年数の差が与える影響について、より細かくみていきたい。図表7は、全職種と保育士について、各勤続年数区分の労働者割合と所定内給与を試算し、賃金カーブを比較したものである12。
まず勤続年数区分ごとの労働者の割合をみると(棒グラフ)、14年以下までは保育士(青色)の方が全職種(緑色)を上回っていたが、15年以上では逆転している。これは保育士の離職率が相対的に高いことを示している。次に所定内給与額をみると(折れ線グラフ)、全勤続年数の平均では、全職種30万4,000円に対して保育士が21万6,000円で、8万8,000円の差があるが、就業時の勤続年数0年でみると全職種23万1,000円に対して保育士18万5,000円で、4万6,000円の差にとどまっている。その後、勤続年数が長くなるほど両者の差は開き、15年以上では全職種39万1,000円に対し保育士は25万4,000円で、13万7,000円もの差がある。
つまり、保育士の賃金カーブは、全職種とは異なり、昇給幅が小さく直線に近く、長く働けば働くほど差が広がるという特徴をもつことが分かる。10年近く働き続けても、新人時代と比べて所定内給与は平均2万円ほどしか上がらない。これは、保育士に資格区分や昇給システムがほとんどないためである。保育所単位でみると、所長と主任保育士がいる他は、皆が同じ保育士で、大して変わらない賃金で働いているという状態である。これが、やりがいのある仕事と評価されているにもかかわらず、長く働き続けようという意欲を損ねてきた一因だと考えられる。
12 4. 1|で用いた賃金構造基本統計調査の「きまって支給する現金給与額」は、勤続年数区分ごとの数値が公表されていない。
(2018年01月16日「基礎研レポート」)
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03-3512-1821
経歴
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
坊 美生子のレポート
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