- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 経済予測・経済見通し >
- 中期経済見通し(2016~2026年度)
中期経済見通し(2016~2026年度)

経済研究部 経済研究部
このレポートの関連カテゴリ
文字サイズ
- 小
- 中
- 大

海外生産シフトの拡大は輸出の下押し要因となる一方、直接投資を中心とした対外資産の増加を通じて第一次所得収支の増加をもたらすというプラス面もある。日本の対外資産は1990年末の279兆円から2015年末には949兆円まで増加し、対外資産から対外負債を差し引いた対外純資産も2015年には339兆円、GDP比で68%に達している。
経常黒字の蓄積による対外資産の増加と大幅な円安を反映し、2015年度の第一次所得収支は20.6兆円(GDP比で4.1%)まで黒字幅が拡大した。ただし、2016年度入り後は円高の進展に伴う円換算額の目減りから黒字の水準は低下しており、2016年度の第一次所得収支は8年ぶりに黒字幅が縮小する公算が大きい。
今回の予測では、為替レートは2019年度まで円安が続いた後、2020年度以降は円高傾向で推移するとしている。このため、第一次所得収支の黒字幅は2016年度17.0兆円から2020年度にかけて20兆円程度まで拡大した後、予測期間後半は黒字幅が徐々に縮小すると予想する。
中長期的には、経常収支は貯蓄投資バランスによって決定される。部門別の貯蓄投資バランスの推移を見ると、貯蓄超過が続いていた家計部門は2013年度には小幅な貯蓄不足となったが、2014年度には再び貯蓄超過に戻った。一般政府はバブル期に貯蓄超過に転じた局面もあったが、バブル崩壊後は赤字を続けている。また、企業部門(非金融法人)は1998年度から一貫して貯蓄超過が続いている。
内閣府が2016年7月に公表した「中長期の経済財政に関する試算」では、実質2%以上、名目3%以上の経済成長率が想定されている「経済再生ケース」でも、2020年度の国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の名目GDP比は▲1.0%となっており、2020年度までに基礎的財政収支を黒字化するという政府目標は達成されない形となっている。
今回の見通しでは2020年度まで消費税率引き上げの前提は内閣府試算と同じだが、当研究所の予測では2020年度の基礎的財政収支は▲2.7%とこれよりも赤字幅が大きくなっている。当研究所の名目成長率の見通しが内閣府試算よりも低い(内閣府試算の前提は2016~2020年度の平均成長率が3.1%となっているのに対し、当研究所の見通しは平均1.6%)ことが両者の差の主因と考えられる。
今回の予測では、2019年度、2024年度にそれぞれ消費税率を2%引き上げ、予測期間末の消費税率は12%になるが、軽減税率の導入により食料(酒類、外食を除く)の税率は8%に据え置かれることを想定している。このため、税率1%引き上げによる消費税収の増加は従来の約4分の3にとどまる。支出面では、高齢化に伴う社会保障給付の着実な増加が続く中、東京五輪開催に向けて公共投資の伸びが高まることが見込まれる。
安倍政権発足後、景気の回復基調が続く中でも経済対策による補正予算が毎年編成されている。補正予算の編成が恒常化していることも財政再建を遅らせる一因となるだろう。また、2014年度は消費税率引き上げによって実体経済は低迷したものの、大幅な円安や原油価格下落によって企業収益が堅調を維持したことなどから、税収への悪影響は小さかったが、次回以降の増税時にも外部環境が改善する保証はない。消費税率引き上げによって消費税以外の税収がある程度低迷することは避けられないだろう。このため、基礎的財政収支の赤字は縮小傾向が続くものの、2026年度でも▲1.7%の赤字となり、財政収支の黒字化は実現しないと予想する。
この結果、すでに名目GDP比で約200%を超えている国・地方の債務残高は増加を続け、2026年度には約1400兆円、名目GDP比で230%程度まで上昇することが予想される。
なお、予測期間の前半は長期金利がほぼゼロ%で推移することにより、利払い費が抑制された状態が続くが、債務残高の拡大が続く中で予測期間末にかけては長期金利が上昇するため、利払い費(ネット)を含む財政収支は基礎的財政収支に比べ改善ペースが遅くなるだろう。
(2016年10月14日「Weekly エコノミスト・レター」)
このレポートの関連カテゴリ
経済研究部
経済研究部
経済研究部のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/10/11 | 中期経済見通し(2024~2034年度) | 経済研究部 | Weekly エコノミスト・レター |
2023/10/12 | 中期経済見通し(2023~2033年度) | 経済研究部 | Weekly エコノミスト・レター |
2022/12/20 | Medium-Term Economic Outlook (FY2022 to FY2032)(October 2022) | 経済研究部 | Weekly エコノミスト・レター |
2022/10/12 | 中期経済見通し(2022~2032年度) | 経済研究部 | Weekly エコノミスト・レター |
新着記事
-
2025年05月02日
金利がある世界での資本コスト -
2025年05月02日
保険型投資商品等の利回りは、良好だったが(~2023 欧州)-4年通算ではインフレ率より低い。(EIOPAの報告書の紹介) -
2025年05月02日
曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その11)-螺旋と渦巻の実例- -
2025年05月02日
ネットでの誹謗中傷-ネット上における許されない発言とは? -
2025年05月02日
雇用関連統計25年3月-失業率、有効求人倍率ともに横ばい圏内の動きが続く
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【中期経済見通し(2016~2026年度)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
中期経済見通し(2016~2026年度)のレポート Topへ