2016年10月14日

中期経済見通し(2016~2026年度)

経済研究部 経済研究部

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対外純資産残高の推移 (第一次所得収支の黒字は高水準が続く)
海外生産シフトの拡大は輸出の下押し要因となる一方、直接投資を中心とした対外資産の増加を通じて第一次所得収支の増加をもたらすというプラス面もある。日本の対外資産は1990年末の279兆円から2015年末には949兆円まで増加し、対外資産から対外負債を差し引いた対外純資産も2015年には339兆円、GDP比で68%に達している。

経常黒字の蓄積による対外資産の増加と大幅な円安を反映し、2015年度の第一次所得収支は20.6兆円(GDP比で4.1%)まで黒字幅が拡大した。ただし、2016年度入り後は円高の進展に伴う円換算額の目減りから黒字の水準は低下しており、2016年度の第一次所得収支は8年ぶりに黒字幅が縮小する公算が大きい。

今回の予測では、為替レートは2019年度まで円安が続いた後、2020年度以降は円高傾向で推移するとしている。このため、第一次所得収支の黒字幅は2016年度17.0兆円から2020年度にかけて20兆円程度まで拡大した後、予測期間後半は黒字幅が徐々に縮小すると予想する。
(2020年代半ばに経常収支は赤字へ)
中長期的には、経常収支は貯蓄投資バランスによって決定される。部門別の貯蓄投資バランスの推移を見ると、貯蓄超過が続いていた家計部門は2013年度には小幅な貯蓄不足となったが、2014年度には再び貯蓄超過に戻った。一般政府はバブル期に貯蓄超過に転じた局面もあったが、バブル崩壊後は赤字を続けている。また、企業部門(非金融法人)は1998年度から一貫して貯蓄超過が続いている。
家計貯蓄率の見通し 家計貯蓄率は高齢化の影響などから長期的に低下傾向が続き、2013年度は消費税率引き上げ前の駆け込み需要で個人消費が高い伸びとなったことからマイナスに転じた。しかし、2014年度に消費増税の影響で消費が大きく落ち込んだことから0.1%と小幅なプラスに転じた後、2015年度以降も消費の低迷が続いているため、足もとの貯蓄率はプラス幅が拡大している可能性が高い。しかし、先行きは高齢化がさらに進展することから再び低下傾向となり、2023年度以降はマイナスとなることが見込まれる。これに伴い家計部門の貯蓄投資バランスも2020年代半ばには投資超過となることが予想される。
企業部門は、設備投資の伸びが高まることや予測期間終盤には金利上昇に伴い利払い費が増加することから貯蓄超過幅は縮小に向かう。政府は財政赤字の削減が緩やかながらも進展することから投資超過幅は縮小傾向となるだろう。今回の見通しでは、政府の投資超過幅は縮小するものの、家計が貯蓄超過から投資超過に転じ、企業の貯蓄超過幅が縮小する結果、経常収支は予測期間終盤に小幅ながら赤字化すると予想する。
制度部門別貯蓄投資バランス/経常収支の推移
(財政収支の見通し)
内閣府が2016年7月に公表した「中長期の経済財政に関する試算」では、実質2%以上、名目3%以上の経済成長率が想定されている「経済再生ケース」でも、2020年度の国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の名目GDP比は▲1.0%となっており、2020年度までに基礎的財政収支を黒字化するという政府目標は達成されない形となっている。

今回の見通しでは2020年度まで消費税率引き上げの前提は内閣府試算と同じだが、当研究所の予測では2020年度の基礎的財政収支は▲2.7%とこれよりも赤字幅が大きくなっている。当研究所の名目成長率の見通しが内閣府試算よりも低い(内閣府試算の前提は2016~2020年度の平均成長率が3.1%となっているのに対し、当研究所の見通しは平均1.6%)ことが両者の差の主因と考えられる。
 
今回の予測では、2019年度、2024年度にそれぞれ消費税率を2%引き上げ、予測期間末の消費税率は12%になるが、軽減税率の導入により食料(酒類、外食を除く)の税率は8%に据え置かれることを想定している。このため、税率1%引き上げによる消費税収の増加は従来の約4分の3にとどまる。支出面では、高齢化に伴う社会保障給付の着実な増加が続く中、東京五輪開催に向けて公共投資の伸びが高まることが見込まれる。

安倍政権発足後、景気の回復基調が続く中でも経済対策による補正予算が毎年編成されている。補正予算の編成が恒常化していることも財政再建を遅らせる一因となるだろう。また、2014年度は消費税率引き上げによって実体経済は低迷したものの、大幅な円安や原油価格下落によって企業収益が堅調を維持したことなどから、税収への悪影響は小さかったが、次回以降の増税時にも外部環境が改善する保証はない。消費税率引き上げによって消費税以外の税収がある程度低迷することは避けられないだろう。このため、基礎的財政収支の赤字は縮小傾向が続くものの、2026年度でも▲1.7%の赤字となり、財政収支の黒字化は実現しないと予想する。

この結果、すでに名目GDP比で約200%を超えている国・地方の債務残高は増加を続け、2026年度には約1400兆円、名目GDP比で230%程度まで上昇することが予想される。

なお、予測期間の前半は長期金利がほぼゼロ%で推移することにより、利払い費が抑制された状態が続くが、債務残高の拡大が続く中で予測期間末にかけては長期金利が上昇するため、利払い費(ネット)を含む財政収支は基礎的財政収支に比べ改善ペースが遅くなるだろう。
シナリオ別基礎的財政収支(対名目GDP比)の比較/国・地方の債務残高
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