- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 社会保障制度 >
- 医療保険制度 >
- 医薬品・医療機器の現状 2015年度総まとめ
医薬品・医療機器の現状 2015年度総まとめ

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
新薬開発は医薬品メーカーの中核業務であり、各メーカーが日夜、研究に取り組んでいる。その過程や薬価設定について、概観することとしたい。
(1)新薬開発の過程
1つの新薬の開発には9~17年の時間を要し、300億円以上もの費用が必要となる。新薬開発は、創薬、前臨床試験、臨床試験、審査を経て、薬事承認された後に、薬価収載を経て販売に至る。販売後は、モニタリングが行われる。

新薬開発は、多くの化合物の候補をふるいにかけていく作業と言える。そのために、医薬品候補となる化合物(「化合物ライブラリー」と言われる。) をどれだけ有しているかが、新薬メーカーの基礎体力となる。典型的には、創薬段階で、医薬品候補の化合物が3万程度あり、そこから前臨床試験までに250程度にまで絞られ、臨床試験に入るのは5つ程度となる。この5つ程度の候補について、フェーズⅠ~Ⅲの過程を通じて、有効性や副作用の有無などをテストする。特に、フェーズⅢは数千人規模の患者を対象とする本格的な臨床試験であり、ここで研究開発費の約半分が費やされる。もしフェーズⅢを実施した後に化合物が1つも残らなければ開発中止となり、新薬メーカーにとって巨額の費用損失となる。また、希少な病気に対する新薬を開発する際には、臨床試験を行うために必要な一定数の患者をどのように確保するか、が大きな課題となる。
(2)新薬の薬価設定
新薬の薬価を設定するには、「類似薬効比較方式」と「原価計算方式」の2つの方式がある。
(a)類似薬効比較方式
既存の新薬と類似性のある新薬を開発する場合、類似薬効比較方式がとられる。
新薬に新規性があれば、既存新薬の薬価に、補正加算として、画期性、有用性、市場性に応じた加算や、小児加算、先駆導入加算を行う。その上で、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスにおける価格の平均額との乖離が大きい場合、その平均額を踏まえて外国平均価格調整33を行う。
新薬の新規性が乏しければ、補正加算はせずに、外国平均価格調整のみを行う。そして、類似薬の汎用、非汎用規格の価格の関係をもとに、新薬の非汎用規格の価格を設定する、規格間調整を行う。
(b)原価計算方式
既存の新薬とは類似性のない新薬を開発する場合、原価計算方式がとられる。
この方式では、原材料費、労務費、製造経費から製造原価を算定する。これに、販売費・一般管理費、営業利益34、流通経費、消費税等を上乗せして薬価が算定される。各費目の算定には、原則として、医薬品製造業の直近3ヵ年の実績平均による係数が用いられる。

なお、販売後に、新薬が売れ過ぎると、特別に薬価の引下げが行われることがある。これは、「市場拡大再算定」と呼ばれている35。想定以上に売上げが出た医薬品について、単価を引き下げても新薬メーカーの収益確保が可能と見られる。このことを踏まえて、医薬品費の引下げのために調整する目的でこの再算定が行われている。しかし、新薬メーカーの側は、売上げが増えると、薬価の切り下げにつながるため、イノベーションを阻害し、新薬開発の意欲が削がれるとして反対している。
33 次に該当する場合は、当該価格を外国平均価格とする。(1)価格が2カ国以上あり、最高価格が最低価格の3倍を上回る場合は、当該最高価格を除外して平均した額、(2)価格が3ヵ国以上あり、そのうち最高価格がそれ以外の価格の平均額の2倍を上回る場合は、当該最高価格をそれ以外の価格の平均額の2倍相当とみなして平均した額。
34 なお、営業利益には、既存治療と比較した場合の革新性や有効性、安全性の程度に応じて-50%~+100%の範囲内でメリハリをつける。
35 類似薬効比較方式で薬価が算定された新薬は、年商150億円超かつ実際の売上高が想定の2倍以上となった場合に、最大で15%、薬価が引き下げとなる。原価計算方式で薬価が算定された新薬は、年商150億円超かつ実際の売上高が想定の2倍以上 又は 年商100億円超かつ実際の売上高が想定の10倍以上となった場合に、最大25%、薬価が引き下げとなる。
(2016年06月28日「ニッセイ基礎研所報」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
篠原 拓也のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/28 | リスクアバースの原因-やり直しがきかないとリスクはとれない | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
2025/04/22 | 審査の差の定量化-審査のブレはどれくらい? | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
2025/04/15 | 患者数:入院は減少、外来は増加-2023年の「患者調査」にコロナ禍の影響はどうあらわれたか? | 篠原 拓也 | 基礎研レター |
2025/04/08 | センチネル効果の活用-監視されていると行動が改善する? | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年05月02日
金利がある世界での資本コスト -
2025年05月02日
保険型投資商品等の利回りは、良好だったが(~2023 欧州)-4年通算ではインフレ率より低い。(EIOPAの報告書の紹介) -
2025年05月02日
曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その11)-螺旋と渦巻の実例- -
2025年05月02日
ネットでの誹謗中傷-ネット上における許されない発言とは? -
2025年05月02日
雇用関連統計25年3月-失業率、有効求人倍率ともに横ばい圏内の動きが続く
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【医薬品・医療機器の現状 2015年度総まとめ】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
医薬品・医療機器の現状 2015年度総まとめのレポート Topへ