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2021年01月22日

住宅団地の多世代居住に向けた取り組み~持続可能な地域社会を築くために

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任   塩澤 誠一郎

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<広島市住宅団地の活性化>
広島市には、1960年代以降に開発された住宅団地が169団地あります。その面積は約3,910㏊に及び、市域面積の約5%で、居住人口は26万人を超えて全市の約23%を占めています。これら住宅団地は前述のとおり、人口減少と高齢化が同時に進行しているものの、市が団地居住者を対象に実施した調査では、その住環境を高く評価しており、住み続けたいとする人が6割以上を占めていました6

そこで市は、2015年に、今後も住宅団地が将来の市の人口を維持する受け皿としての役割を担っていくと宣言し、すべての住宅団地を対象に、「住み続けられるまちづくり」、「多様な世代が集うコミュニティの再生」を行っていくとして、様々な施策を打ち出しました。

その数は70に及び、支援内容も、空き家・空き地活用、団地内への住み替え・近居誘導、乗合タクシーの導入、ネットスーパー利用などと多岐にわたります。住宅団地それぞれの実情に応じて、住民自らより効果的な施策を選択し、組み合わせて実施することを前提としているのです。

ここではその中から、多世代居住につながる支援事業を紹介します。

「三世代同居・近居事業補助金」は、小学生以下の子どものいる世帯が、親世帯の近くに住み替えたり、同居したりする場合に引越し費用等の一部を助成する制度です。住宅団地から進学・就職等により団地外に転出した子ども世代が、子育て世代になった頃に、生まれ育った住宅団地に戻ってきてもらい、親子間で子育てや介護など生活を支え合うとともに、地域コミュニティの次世代の担い手になることを期待して導入したものです。

「住宅団地における住替え促進モデル事業」は、子育て世帯の住替えを促進するため、住宅団地において一定期間空き家となっている住宅を活用して、住み替え用賃貸住宅にする場合に、オーナーが実施するリフォーム費用や、入居者が支払う家賃の一部を補助するものです。住宅団地の町内会・自自治会が「空き家活用計画書」を作成し、これに掲載された空き家が対象です。

この事業の実績は今のところわずかですが、三世代同居・近居事業補助金の方は、制度導入後着実に転居者を獲得しています。(図表4-1、4-2)
図表4-1 広島市三世代同居・近居事業補助金の実績
図表4-2 広島市住宅団地における住替え促進モデル事業助成実績
以上は、若い世帯の住宅団地への住み替えを促す制度ですが、住宅団地住民自らが、コミュニティの活性化に向けて主体的に取り組むことを支援する制度も充実しています。その中の一つ、「“まるごと元気”住宅団地活性化補助事業」は、空き家等を活用した住民間の交流拠点づくり、空き地を活用した菜園・花壇づくり、プラチナ世代・リタイヤ世代等の地域デビュー支援など、7つのメニューから選択・実施する取り組みに対し補助する制度です。これらは住宅団地において住民同士で社会活動の場を設けるものと言えます。7

広島市の職員によると、以上のような取り組みによって、徐々にではありますが成果が見えるようになってきた住宅団地もあるそうです。安佐南区内の、2020年時点で人口約6,700人の住宅団地は、いち早く同制度を活用してまちづくりに取り組んできました。この間の人口の推移を見ると、高齢化率は上昇したものの、総人口がわずかに増え、その要因は40歳代以下の若い層の増加によるものであることが分かります。団地内のスーパーマーケットが最近建て替えて営業を継続したことも、成果の現れと言えるかもしれません。こうした成果が他の住宅団地にも着実に広がっていくことが期待できそうです。
図表5 安佐南区内住宅団地人口増減数の推移
 
6 2013年8月実施。回答団地住民4,496人。
7 詳しくは、「まちづくりレポート|住宅団地活性化なるか!-広島市戸建住宅団地活性化の取り組み」参照。https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=54432?site=nli
<兵庫県明舞団地学生シェアハウス>
兵庫県神戸市と明石市にまたがる明舞団地は、兵庫県と兵庫県住宅供給公社が開発した、実に総面積約197㏊に及ぶ、いわゆるニュータウンです。入居開始は1964年で、ピーク時は3万7,000人を超える人口がありました。その後人口減少、高齢化が進み、平成27年国勢調査人口は2万513人となっていて、高齢化率は42%近くに達しています。住宅は集合住宅、戸建て住宅合わせて1万1,219戸ありますが、世帯数は1万0,086世帯(平成27年国勢調査)で、空き家、空き室が多いことが分かります8

兵庫県は、2011年から集合住宅の空き室を、「学生シェアハウス」として近隣大学の学生に提供しています。入居した学生には、住居を低廉な家賃で提供する代わりに、自治会活動、地域活動への参加を求めています。

元々、団地自治会の発案で、県が制度化したもので、空室が出た場合に募集することから一度にたくさんの学生を入居させることはできませんが、2011年から2018年までにのべ20人の学生が入居しています。

入居した学生は、月1回の自治会定例会に出席し、高齢者主体の自治会メンバーと交流し、地域の課題を共有しています。自治会のパソコン教室では学生が講師を務め、老人会イベントでは司会を担うなど、自治会メンバーにとっては孫と同年代の学生に対し、積極的に役割を与えています。学生も、それに応えて取り組むことで、住民から評価される手応えを得られ、一般的なひとり暮らしでは得がたい貴重な経験と受け止めているようです。

中には、住民に生活支援サービスを提供するボランティア組織に登録する学生もあり、そのようなボランティア活動を通じて、学生が媒介役となって、団地内で面識のない住民同士の交流を促すことに貢献しています9
図表6 明舞団地学生シェアハウス入居者数推移
以上、多世代居住に向けた3つの事例を紹介しましたが、こうした取り組みを実施している住宅団地はまだまだ少ないようです。先に紹介した国土交通省が実施した調査の第2次調査では10、当該市区町村内にある住宅団地について、「高齢者・独居高齢者が多い」ことを問題として意識している団地は104団地という結果です。これに対し、若年・子育て世帯転入促進に取り組む団地は50団地と半数以下に留まっています。調査対象となった住宅団地全体ではわずか約8%に過ぎません。

今後、これらの事例を参考に、住宅団地の特性を踏まえた取り組みに着手し、多世代居住が多くの住宅団地で実現することを期待したいと思います。
 
8 明舞団地のまちづくり情報発信基地ウェブサイトhttp://meimai.hyogo-jkc.or.jp/about.htmlより
9 公益財団法人 東京市町村自治調査会との共同調査方式で実施し、筆者が担当した調査に基づく。「住民がつくる自立した地域コミュニティの形成に関する調査研究報告書」公益財団法人 東京市町村自治調査会
10 2017年11月実施。4の第1次調査で収集した団地のうち、100㏊以上の住宅団地の所在する市区町村を対象に実施。のべ490市町村に立地する471団地について回答を得た。
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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

(2021年01月22日「ジェロントロジーレポート」)

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