2015年10月22日開催

パネルディスカッション

「人手不足への対応と課題」前編 ヤマトグループの取り組みについて【人手不足時代の企業経営】

パネリスト
樋口 美雄氏 慶應義塾大学商学部
教授
大谷 友樹氏 ヤマトホールディングス株式会社
上席執行役員
白木 三秀氏 早稲田大学政治経済学術院 教授
トランスナショナルHRM研究所 所長
松浦 民恵 ニッセイ基礎研究所
主任研究員
コーディネーター
櫨(はじ) 浩一

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前回はこちら:【人手不足時代の企業経営】「労働力減少と企業」後編 非正規雇用の増加と無限定正社員

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■司会 それでは、パネルディスカッションに移りたいと思います。本日のパネルのコーディネーターを務めさせていただきますのは、ニッセイ基礎研究所専務理事、櫨浩一でございます。では、以降の進行は櫨にバトンタッチいたします。どうぞよろしくお願いいたします。

1——はじめに

■櫨  それでは第2部のパネルディスカッションに移らせていただきます。最初にパネリストの皆さまをご 紹介させていただきます。私の隣にいらっしゃいますのが第1部で基調講演をしていただきました慶應義 塾大学の樋口美雄先生でいらっしゃいます。

 

■樋口 よろしくお願いします(拍手)。

 

■櫨  その隣にいらっしゃいますのがヤマトホールディングス株式会社、上席執行役員、大谷友樹様でいらっしゃいます。

 

■大谷 大谷でございます。よろしくお願いします(拍手)。

 

■櫨  大谷様はヤマトホールディングスで人事戦略などを担当されていらっしゃいます。

その隣にいらっしゃいますのが、早稲田大学教授、白木三秀先生でいらっしゃいます。

 

■白木 白木です。よろしくお願いします(拍手)。

 

■櫨  白木先生はグローバル人材の育成、海外で人を使うような人たちを育成するということを長年研究していらっしゃいました。

その隣におりますのが当ニッセイ基礎研究所の松浦民恵主任研究員でございます。

 

■松浦 松浦です。よろしくお願いいたします(拍手)。

 

■櫨  松浦主任研究員は、ワークライフバランスなど、働き方の問題について長年研究をしてまいりました。

それでは、パネルを始めさせていただきたいと思いますが、具体的な論点について議論を始める前に、パネリストの皆さまから、お一方一つずつのテーマについて、簡単にお話をいただきたいと思います。

最初はヤマトホールディングスの大谷様から「ヤマトグループの取り組みについて」というタイトルで、企業で今、人手不足の問題がどのようになっているかについてお話を伺いたいと思います。

それでは大谷様、よろしくお願いいたします。

2——ヤマトグループの取り組みについて

■大谷 皆さま、こんにちは。ご紹介いただきました、ヤマトホールディングスの大谷でございます。少しお 時間を頂戴したので、あまり人手不足と大々的にお伝えするつもりはないのですが、弊社のグループの紹介 も含めて、今後に備えてのいろいろな取り組みをお話しさせていただきます。

まず、グループの簡単な概要ですが、当社は2019年に創業100周年を迎える予定の歴史の長い会社で す。ご存じのとおり、宅急便などのデリバリー事業を中心にサービス提供しており、皆さんに日ごろより大 変お世話になっている会社です。

社員数は約19万7000人と、まさに労働集約産業です。樋口先生の講演 ではないですが、これからどのように皆さんのご家庭に荷物をお届けする担い手を確保していくか、生産性を上げていくかという課題に直面している産業の一つです。

当社は、10年前からグループ経営を進める方向にかじを切りました。そして、宅急便のヤマト運輸以外 の事業を増やしながら、企業としての生産性を高める事業戦略を推進しています。そのために、グループ としてどのような取り組みをしているか、簡単に三つの観点でご紹介させていただきます。

まず、社員一人一人の生産性を高めるために、ワークシェアも含めて、社員約19万人がどれだけイキイキ と活躍できる環境をつくれるか。また、「個々の社員の経験、勘」に頼って集配を行うのでは、これからの 時代、効率的な経営ができないので、ITを使ったデジタル戦略の推進。

そして、行政と民間がどのように 混ざっていき雇用を生み出すか、または地域にどのようなサービスを提供していくかといった、最後は少し 違う視点で紹介させていただきます。


2—1.ダイバーシティ戦略
まず、いわゆるダイバーシティの推進ですが、社員約19万人のうち、ヤマトグループでは約7万人の女性が勤務しています。これは全社員の約35%に当たりますが、業界の中でいち早く女性を、皆さま方のご家庭に集配で伺うセールスドライバーとして活躍してもらうようにしました。

今ではフルタイマーの他に、1日2時間だけ、朝8時から10時まで、ご家庭の主婦の方がパートタイマーとして荷物をお届けする短時間の勤務の形態も増やしています。また、自動車の運転免許はなくても働ける雇用の機会の創出をずっと続けております。

また、高齢者雇用の視点ですが、ヤマト運輸においては定年を既に65歳まで延ばしています。ただ、正社員で65歳まで働き続ける他に、当社グループの派遣会社を通じて、それ以降も働き続けたい方をエイジレスで雇用する取り組みも行っております。

7割ぐらいの方は65歳でお辞めになるのですが、それ以外の2~3割の方はもう少し頑張って、短時間でも構わないから昔取った杵柄を活かしてヤマトグループで働く。または、グループ外の会社で働く派遣社員の形態ではありますが、エイジレスで働く選択の道も用意しています。極端に言うと、70歳でも80歳でも働く場を提供するように、企業として努力を進めてきています。

2—2.デジタル戦略
ダイバーシティの推進の他に、もう一つの視点は、生産性の向上ですが、皆さま方のご家庭、企業にお届けをする上で、いかに物の流れ、情報の流れを社内で可視化するかを含めて、当社はデジタル戦略を掲げて取り組んでおります。

宅急便は一つずつ荷物の追跡ができるITの仕組みを活かして、あらかじめ荷物をお預かりした段階で、どこの地域の、どのセールスドライバーに明日、いくつ荷物が届くかを社内でビッグデータとして活用することで、翌日の効率的な集配体制を確保しています。

または、これからは一つ一つの荷物情報をデジタル化することで、当社の会員制サービス、クロネコメンバーズ会員になっていただいたお客さまを中心として、お客さまのご希望の在宅時間、届けて欲しい希望の時間を社内にデータで蓄積して、在宅時にいかに配達をするか。

または、今、スマートフォンを活用して、セールスドライバーとお客さまの間で、自宅に届く荷物の受取場所を変更したい、というやりとりをリアルタイムでできるデジタルな仕組みを構築しながら、社内の集配効率も上げ、かつ、お客さまに対する宅急便のサービスの品質向上にもつなげていくことを全面的に進めております。

2—3.商圏・雇用の拡大と地域へのサービス
これからは、労働力とは少し違う視点でお話しします。日本の中で商売を完結する時代ではないと改めて感じたのが、最近、新聞等で話題となったTPPです。

マーケット、商圏がこれから確実に日本からアジアに広がっていくわけです。そうすると、日本で獲れたおいしい野菜、果物をアジア圏の消費者に届けるといったビジネスが拡大していく。または、日本で作ったものではなく、現地で作ったものを現地で買っていただくことも含めて、商圏を日本だけにとらわれる時代ではないだろうと思います。そうすると、これまでと比べて商圏が広がるので、日本全体の事業の拡大と労働力の確保にもつながると思っております。

当社は今、台湾、シンガポール、マレーシア、上海、香港に宅急便のエリア拡大をしており、日本の生鮮品を保冷のまま、最短翌日にはアジアの消費者に届ける「国際クール宅急便」という武器もできました。これらを利用しながら、マーケットの拡大を含めて取り組むことが当社のグローバル戦略です。そして、これが結果的に労働力の確保にもつながるのではないかと考えています。

次に、当社が「プロジェクトG」と呼んでいる、地域活性化、生涯生活支援のトライアルをご紹介します。先ほどのグローバルもG(Global)ですが、こちらのGはGovernmentです。当社が宅急便で張り巡らせた、地域に根差したネットワークを地方自治体や地元企業、NPO法人などに使っていただき、地域の生活支援や地域産業の活性化のトライアルを進めています。

例えば、宅急便をお届けしたときに、過疎地に住まわれている高齢者の健康状態などをヒアリングして、行政にその情報をお届けすることなどの取り組みを進めています。フルタイムのセールスドライバーではなくて、もしかしたら、地域の中で今まで民生委員としてやっていた方が、当社でそのサービスの担い手になって、2時間だけその仕事をやっていただくということも、将来的にはできるのではないかと思います。

また最近では、過疎地で走っているバスの一部を、宅急便が積めるスペースに改造してヒト・モノを同時に運ぶ取り組みを、岩手県などで始めました。これにより、過疎地が進み維持が難しいバス会社の地域路線、バス運転手の雇用も守れて、宅急便の輸送も効率化できます。地域と民間がいかに一体化してビジネスをつくっていくかということも、労働力不足、またはマーケット維持の観点ではつながっていくと捉えています。

ただ、これらの取り組み全てを続け、抜本的な労働力人口の確保ができるのかというと、私もまだ解は持っておりません。IoTやダイバーシティなど、いろいろな取り組みや言葉が聞かれますが、まずは社内で一歩ずつ進めていくことが、これからの対策につながっていくわけです。

今までやっていなかったことにもトライするようなチャレンジ精神も必要ではないかと思います。長くなりましたが、当社グループの取り組みをお話しさせていただきました。
 

■櫨  どうもありがとうございました。

それでは続きまして、白木先生から「海外人材の活用の可能性と課題」というタイトルで、外国籍の人材を活用することの意義や関連する課題などについてお話をお伺いしたいと思います。よろしくお願いします。

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