2015年10月22日開催

基調講演

「労働力減少と企業」後編 非正規雇用の増加と無限定正社員 【人手不足時代の企業経営】

講師 樋口 美雄 氏

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5——非正規雇用の増加と無限定正社員

前回はこちら:【人手不足時代の企業経営】「労働力減少と企業」中編 労働力人口の減少

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こうなってくると、正社員として働き続ける社会をどうやってつくっていくかが問題になってきます。その場合に、非正規からの転換の問題、非正規の雇用条件をどう改善するのかということが言われますが、同時に進めていかなければならないのが、正社員における拘束と保障の関係で、働き方の拘束をいかに和らげていくかということです。

よく言われる言葉が「無限定正社員」というものです。会社は選べるけれども、いつ働くのか、勤務時間、あるいはどれだけ働くのか、残業を含めた労働時間、どこで働くのかという勤務地、転勤の問題、そして何を仕事とするのかという職務、配置転換などは、全て会社が自由に選択し、拘束する、これが無限定正社員です。

採用の段階において限定が付いてないことが特徴だと言われます。若い人たちが多いということであれば、これに耐えられるかもしれません。ところが、高齢層、中高齢層、あるいは女性が増えてきたりすると、こういったものに耐えられない。そうなってしまうと、非正規にしかなれないといった状況になっていることはないのでしょうか。

非正規の雇用条件の改善という問題と並んで考えなければいけないのが、正社員の働き方についての改革ではないかと思います。年間の労働時間は1735というのが日本の時間です。アメリカより短い、韓国よりは短いではないかということですが、しかし、これらの数字には、かなりパート労働者が含まれています。

パートも含めた平均労働時間は右下がりです。前川リポートで約束した1800時間を割ること、短縮することは達成しました。ただ、その理由はパート労働者が増えたからです。

一般労働者に限定すると2000時間で、ほとんど変わっていないという状況が起こっています。週休2日制になったではないかとよく言われます。確かに働く日数は減りました。しかし、平日の残業時間がその分延びたというのが、この裏側にあるということです。結果的にこれだけ長時間労働のような問題が起こってきている。

さらには教育訓練の費用、掛けるコストも節約されてきているということです。自己啓発が重要だといっても、自己啓発を実際にやっている人たちはそう多くない。労働者数の減少とともに、その人々の能力はどうなのかというように質の方も問われる状況になっていると思います。

6——労働力人口の減少とマクロ・シナリオ

最後に、マクロ経済とミクロ経済においてどういうインプリケーションを持っていくのかをまとめて終わりたいと思います。

実質の経済成長率について、今後2012~2020年、2020~2030年ということで、二つのケースを想定して経済成長シナリオを考えています。一つは経済成長が、参加(働き方改革)も適切に行われて、高齢者、女性、そして先ほど見た若い人たちの働き方改革が進むことによって就業率を高めることができたら、どうなのか。

それが進まずに、今のままであったとすれば、どうなるのか。その結果、高齢化の影響は大きく就業率を引き下げてしまうだろうと言われています(厚生労働省「雇用政策研究会」)。こうなってくると、まさに縮小均衡のシナリオになっていくと思います。

実はいろいろ計算・シミュレーションをしてみると、かなり働き方改革によって、違ってきます。今のままの状況であれば、2020年に、2012年に比べて323万人ほど働く人たちは減るだろうという予想になっています。

ところが、その改革が進むと、340万人増ですから、ネットで現在と比べても21万人増加する。2020年になっても今の状況をほぼ維持できることになります。2020年というと、まさに東京オリンピックの開かれる年です。その5年後にどうなっているのかということだけでも、これほど差が出てくるということです。

さらに2030年ということで考えていくと、650万人ほど増えますが、それでも167万人は今に比べれば減るだろうということです。この減り方は、まさに成長率がどうなるのか、働き方改革がどう進んでいくかにとって非常に重要です。

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