コラム
2007年08月27日

人事院勧告が映す人件費の上昇

櫨(はじ) 浩一

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1.6年ぶりのプラス勧告

人事院は8日2007年度の国家公務員の給与を0.35%引き上げるという勧告を公表した。人事院勧告がプラスとなったのは6年ぶりだが、1999年度から2001年度まではボーナスの支給月数削減を同時に勧告したので、年収ベースではプラスにはなっていなかった。今回は、期末・勤勉手当(ボーナス)も現行の4.45カ月から0.05カ月引き上げるように勧告しており、年収ベースでの引き上げを勧告したのは、実に9年ぶりということになる。

人事院による久しぶりのプラス勧告は、これまで低迷が続いてきた賃金動向の変化を表す材料ではないだろうか。

2.賃金はすでに上昇している?

景気回復が長期に続き失業率が3%台に低下するなど労働市場の需給改善は明らかだが、一人当たり賃金は2007年に入ってから減少基調となっている。経済が好調に推移する中でなぜ賃金は上昇しないのかは、多くの議論を呼んできた。先日発表された経済財政白書も、かなりのページを割いて賃金の問題を扱っている。

労働需給が大きく改善する中でも平均賃金が上昇しないのは、団塊世代の賃金が年功序列型賃金のピークを超えて減少し始めたこと、賃金の低い若年労働者が増加していることなどが指摘されており、それぞれの労働者の特性を固定すれば、実際には賃金の上昇がすでに起こっているのではないかという見方もあった。

例えば、民間企業では初任給の引き上げが行われており、2006年度の初任給は全ての学歴で上昇となっていた。今回の人事院勧告では中高年層の月額給与は据え置きとなっていて、引き上げ対象は初任給を中心に若年層に限定されている。勧告は年齢によってかなりのメリハリがついた異例の内容だが、人口減少による若年労働者の不足の影響で、まず初任給が上昇してきたことを反映している。

人事院勧告は、公務員と民間企業の給与を年齢や勤続年数、役職など様々な観点から比較して行われる。この結果プラスの勧告が出たということは、実質的にはすでに賃金の上昇が起こっていることを示すものではないだろうか。

3.公務員給与は民間給与の鏡

人事院勧告は民間給与の動きを反映して決められる反面、民間給与にも公務員給与準拠という側面がある。この意味ではプラスの勧告は、公務員給与が上昇し、これが民間給与に反映されるという循環が起こることを予感させるものではないか。
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