2018年11月08日

【フィリピンGDP】7-9月期は前年同期比6.1%増~物価上昇による消費減速で成長鈍化

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2018年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比6.1%増1と、前期の同6.2%増から低下し、市場予想2(同6.2%増)を下回る結果となった(図表1)。

7-9月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に民間消費の鈍化が成長率低下に繋がった。

民間消費は前年同期比5.2%増(前期:同5.9%増)と低下した。民間消費の内訳を見ると、住宅・水道光熱(同8.5%増)や家具・住宅設備(同7.4%増)が堅調だった一方、シェア最大の食料・飲料(同2.8%増)や交通(同0.2%増)、通信(同4.7%増)が伸び悩んだ。

政府消費は同14.3%増となり、高水準だった前期(同11.9%増)から更に上昇した。

総固定資本形成は同16.5%増(前期:同21.2%増)と好調を維持した。まず建設投資は同14.8%増(前期:同13.6%増)と上昇した。公共建設投資(同25.4%増)が引き続き大幅に増加し、民間建設投資(同12.1%増)も二桁増まで上昇した(図表2)。一方、設備投資は同17.5%増(前期:同28.2%増)と、高水準ながらも伸び率は低下した。設備投資の内訳を見ると、全体の4割を占める道路運送車両(同15.1%増)や電気通信装置(同15.6%増)、鉱業・建設機械(同29.4%増)は高い伸びとなったが、前年の水準が大きかったオフィス機器(同8.4%減)はマイナスに転じた。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲4.1%ポイント(前期:▲4.1%ポイント)となり、引き続き大幅なマイナスとなった。まず輸出は同14.3%増(前期:同12.6%増)と上昇した。輸出の内訳を見ると、財輸出が同16.9%増(前期:同13.9%増)と主力の電子部品が持ち直して大きく上昇した。一方、サービス輸出は同2.2%増となり、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)産業と外国人旅行者数の鈍化により前期の同8.4%増から低下した。輸入は同18.9%増(前期:同18.5%増)と小幅に上昇して、引き続き輸出の伸びを上回った。
(図表1)フィリピン 実質GDP成長率(需要側)/(図表2)建設部門の粗付加価値額(GVA)
供給項目別に見ると、主に第二次産業の鈍化が成長率低下に繋がった(図表3)。

まず第二次産業は同6.2%増(前期: 同6.5%増)と低下した。製造業(同4.0%増)が食品加工や化学製品を中心に伸び悩んだほか、鉱業・採石業(同1.1%減)は石炭などへの物品税増税等が響いて2期連続のマイナスとなった。一方、建設業(同16.1%増)は大幅に増加し、電気・ガス・水供給業(同5.0%増)も底堅く推移した。

また第一次産業は前年同期比0.4%減と、前期の同0.3%増からマイナスに転じた。コメとトウモロコシ、キャッサバの生産が落ち込んだ農業(同0.2%減)が減少したほか、水産業(同1.1%減)と林業(同16.1%減)もそれぞれマイナスに転じた。

一方、GDPの約6割を占める第三次産業は同6.9%増(前期: 同6.8%増)と小幅に上昇した。不動産・事業活動(同5.3%増)や商業(同5.6%増)、運輸・通信(同5.4%増)は低下したものの、金融(同7.6%増)と行政・国防(同17.8%増)が引き続き好調だった。
 
1 11月8日、国家統計調整委員会(NSCB)が国内総生産(GDP)統計を公表。前期比(季節調整値)は1.4%増と前期(同1.5%増)から低下した。
2 Bloomberg調査

7-9月期GDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済は昨年こそ6%台後半の高成長を続けていたが、直近2四半期は3年ぶりの6%強の水準まで成長率が鈍化している。フィリピン政府は10月中旬に、今年の成長率目標を従来の7~8%から6.5~6.9%に引き下げたが、2期連続で景気が伸び悩んだことから引下げ後の目標達成すら難しい状況になった。

成長率低下の主因は、GDPの約7割を占める民間消費が5%台前半まで減速したことにある。消費を巡る環境は、物価上昇(図表4)や就業者数の減少、物品税増税後の新車販売の落ち込みなど悪化してきている。またフィリピンの旺盛な消費需要を支える海外出稼ぎ労働者からの送金額(ペソベース)は、7-8月が前年比7.2%増と堅調に拡大したものの、4-6月(前年比10.0%増)と比べると増勢は鈍化した。こうしたなか、消費者信頼感指数は年明けから低下してきている。
(図表3)フィリピン 実質GDP成長率(供給側)/(図表4)フィリピンのインフレ率と政策金利
とりわけ深刻なのは物価上昇である。10月の消費者物価上昇率は前年同月比6.7%増と、昨年末から+3.8%ポイント上昇して2009年以来の高水準を記録している。物品税増税を背景とする値上げやコモディティ価格の上昇、ペソ安に伴う輸入インフレに加わり、9月の大型台風による農業被害で食品価格が一段と上昇したためだ。インフレ率は足元では頭打ちの兆しもみられるが、エネルギー価格上昇に伴う公共交通運賃・電気料金の値上げ、インフレ加速を背景に国内各地で相次ぐ最低賃金の引き上げなどがインフレ圧力となり、年末までは物価上昇が見込まれる。

インフレ対策としては、政府が9月に食品供給の拡大に向けて非関税障壁を取り除く行政命令を発令しているほか、11月には輸入関税引下げが国会で可決される見通しである。また来年には物品税増税のインフレ要因が剥落することからインフレ率は年明けから和らぐ可能性が高く、消費は再び持ち直しに向かうだろう。
 
ただし、ペソ安に伴う輸入インフレが加速する展開には注意する必要があるだろう。

中央銀行はインフレ率が物価目標(2~4%)を上回ったことから、5月以降から4会合連続で政策金利を引上げている。現行の物価水準を踏まえると追加利上げが実施される可能性はあるが、今回のGDP統計で消費の落ち込みが確認されたことから、11月15日に予定される金融委員会では先行きのインフレ圧力の後退を考慮して追加利上げが回避されることになりそうだ。

フィリピンはインフラ投資を背景に資本財輸入が大きく増加しているが、今後は食品輸入が拡大することから貿易赤字は更に拡大するだろう。この上、中央銀行が景気減速を受けて追加利上げを回避することになれば、国際金融市場ではペソ安が加速して、インフレ率が高止まりする展開も考えられる。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2018年11月08日「経済・金融フラッシュ」)

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