2015年12月24日

保険業法の法改正は保険比較サイトのあり方を変えるか?そして消費者契約法改正の動向は

生活研究部 部長   松澤 登

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1――課題意識

昨今、商品の販売手法あるいは消費行動が多様化している。これまではTVCMやチラシなどの「広告」を見て、販売店に足を運んで商品を買うといった消費行動が普通であった。さらにたとえば化粧品や家電など選択が必要な商品については販売店等で販売員からさらに「勧誘」を受けて購入するものであった。つまり「広告」と「勧誘」はある程度明確に線を引けるものであった。

ところが最近、テレビショッピングCMがずいぶん多く見受けられるようになった。またインターネット通販サイトもかなりの人が利用した経験があるだろう。いままでは単なる広告としてしか利用されていなかったメディアも、今ではそれを見て、あとは電話一本で申し込むだけ、あるいはキーボードをたたけば商品が購入できるようなものとなった。すなわち「広告」と「勧誘」の境界線が判然としなくなった。

消費者関連の法では「勧誘」という概念によりルールを定めているものがある。本稿では現在改正に向けて審議されている消費者契約法と、少し前にこの点に関して議論がなされた保険業法を取り上げて、その議論状況を見ていきたい。

2――消費者契約法における議論

勧誘の現行解釈における限界

現在、消費者委員会の部会では消費者契約法の改正審議を行なっている。消費者契約法とは民法の特則を定めるもので、事業者と消費者との間の契約関係を定める法律だ。たとえば不動産を売買する契約を結ぶとする。売買契約については通常、民法のルールが適用されるが、不動産会社と一般の消費者が契約をした場合は、民法に優先して消費者契約法のルールが適用される。不動産に限らず、事業者と消費者の間の契約(消費者契約)にはすべて消費者契約法のルールが適用される。
 
消費者契約法にはいろいろな規律があるが、その柱のひとつが、消費者が契約をする際に事実と異なる重要情報に基づいて誤って判断をした場合には契約を取り消せるとするルールである (消費者契約法第4条)1。ただ、このルールは「消費者契約の締結について勧誘をするに際し」、事業者が事実と異なることを告げた場合等に消費者は契約を取り消すことが出来ると定めていることから、消費者が受け取った情報が「勧誘」の際であったかどうかで法的な取扱が変わってしまう。

この点、消費者庁の編集した「逐条解説消費者契約法」では、「勧誘」とは「消費者の契約締結の意思に影響を与える程度の勧め方」をいうとされている。そして特定の者に向けた勧誘方法は「勧誘」に含まれるが、不特定多数のものに向けられ、特定の消費者に働きかけていないものは「勧誘」に含まれないとしており、例として「広告」が挙げられている。つまり、消費者契約法では、事実と異なる内容の勧誘につられて契約した場合には契約取消が出来る。一方、事実と異なる内容の広告につられて契約した場合では契約取消が出来ないということになる。どうしてこのような整理になったのか。
 
それは消費者契約法が15年前に作られた法律であり、従来のCMやチラシを見て店で買うような消費行動、あるいは店頭等で勧誘を受けて購入する行動を想定して作られたから、と推測される。前者のCMやチラシは不特定多数に向けた広告であり、ここでの誤記載があっても契約を取り消せないが、後者のような個人に向けた勧誘の際に誤った説明があれば取り消せるとの解釈を消費者庁は立法以降採用してきた。

しかし、テレビショッピングCMや通販ウエブサイトなど確かに不特定多数に向けたものではあるが、個別の消費者の意思決定に大きな影響を与えると考えるべきものが増えてきた。これらを従来の一般的なCMやチラシ同様不特定多数向けのものだから契約取消はできないというままでいいのか、というのが現在の消費者委員会部会の問題意識となっている。審議の過程では「勧誘」要件をはずしてはどうか、という案が出たこともある。しかし、これでは広告にすべてこのルールが適用されてしまう。しかし、これには問題がある。

なぜなら事業者は「事実と異なる」とされないために、広告に注意書きを記載したり、あるいはセールス文言とともに不利益事実を列挙したりしなければならなくなるおそれがあるからだ。事業者にとっては、単なる企業イメージ的なCMやごく簡単な商品内容を説明する短時間のCMにまでこんなことを求められてはたまらないであろう。
 

2勧誘要件の解釈の変更という方向性

現段階では、消費者委員会の部会では、「勧誘」要件を残しつついわゆる広告のなかにも勧誘に該当するものがあるとの解釈を明示する方向で議論が進められている。広告か、勧誘かという線の引きようのない二分法で議論をするのではなく、不特定多数に向けた広告の形態をとっていても、勧誘に該当するものもあるというのは現状に照らせば否定しにくいであろう。ただ、そうであれば重要なのは、事業者に適時適切に商品説明を行なわせるとともに、事業活動の萎縮を招かないために、勧誘とはどのような行為をいうのかをできるだけ明確にする必要があるということだ。
 
今後、消費者委員会あるいは消費者庁で勧誘の解釈を明確化するべく検討が行なわれるものと思われる。その際には、事業者に契約取消による損害が発生するとしても契約が取り消されるべき行為の範囲あるいは形態がどのようなものか、を探るという作業が行なわれることになる。しかし、この作業はそう簡単ではない。この点に関連して、最近、勧誘の範囲が議論された保険業法での状況を見つつ、この問題を見ていきたい。
 
1 消費者契約法では消費者の利益となる重要事項を告知しながら不利益を告知しなかったり、断定的判断を提供したりした場合に取消が出来るなどのルールがあるが、これらも「勧誘に際し」との要件がかけられている。

3――保険業法における議論

金融審での問題意識

最近の保険業界では、インターネット利用人口の拡大に伴い、ネット専業生保会社のほか、各社の保険商品を比較するサイトや、いわゆる独立FPと呼ばれる保険募集人を紹介するサイトなどが多々見られるようになった。商品比較サイトや保険募集人紹介サイトでは形式上募集の形態をとっていないように見えるものがある。これら募集行為を行なっていないとも見えるサイトに関して保険業法上「勧誘」についてどのように整理されてきたかを紹介したい。
 
なお、保険会社や保険募集人などによる保険募集を規制する保険業法本体では「勧誘」ではなく「募集」という言葉が使われている。保険業法では「募集」を保険契約の締結の代理又は媒介を行うことと定義している(第2条第26項)が、これら代理等行為の前段となる、保険契約締結に向けた意思決定に影響を及ぼす行為である「勧誘」プロセスも含むと一般に解されている2
 
金融審議会の「保険商品・サービスの提供等の在り方に関するワーキング・グループ」(以下、WG)では募集について活発な議論が行なわれた。そして説明義務規定や意向確認義務規定を保険業法に設けるよう報告書3が出され、法改正がなされた(施行日は平成28年5月29日)。説明義務規定等の導入に比べ注目度は低かったものの、WGでは募集とは何かについても議論された。議論の中心は先ほど述べた各種インターネットサイトが募集に該当するかどうか、という点であった。

特に、保険会社や保険募集人が運営していない商品比較サイトや、保険募集人紹介サイトのような見えるサイトは広告か、勧誘かが問題とされた。勧誘(募集)であるならば、その行為は保険募集人として登録していない者が行なえば違法である。さらにもうひとつの問題がある。これらのサイトから誘導された顧客の一部はそのままの流れで保険加入に至ることになる。仮にこれらのサイトが勧誘(募集)に該当しないとしても、サイトの不適切な記載等により顧客に不利益を及ぼしかねない点に関しどう取り扱っていくか、という問題である。
 
2 山下友信「保険法」(有斐閣、2005年)146ページ。また、金融庁の監督上の指針となる「保険会社向けの総合的な監督指針」(監督指針)でも「勧誘」が「募集」に含まれることが明確に示されている。
3平成25年6月7日金融審議会報告書「新しい保険商品・サービス及び募集ルールのあり方について」

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生活研究部   部長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
生活研究部統括

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