コラム
2015年08月05日

地方創生、賛否割れる中での決断

経済研究部 チーフエコノミスト   矢嶋 康次

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安倍政権は地方創生を重要な政策課題と位置付け、昨年末の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」で、地方の人口減少抑制や経済の活性化策として、企業の地方移転を促す税制などを創設した。同時に2015年度中に各自治体に「地方版総合戦略」の策定を求めている。いま多くの自治体が戦略策定を行っている。

地方創生とは、中核都市経済圏を一つの国とみて、他の経済圏との貿易を通じて独り立ちできるようにすることといってもいい。国のGDPと同じ概念で地方の実態をみると、現在、多くの地方経済圏は大幅な貿易赤字、経常赤字になっている(図表)。

域際収支(対県内総生産比)

この現状を打開するためには、(1)都市機能の集約化によってコストを極力抑えながら、(2)観光、農業、サービス業などで付加価値のある地場産業を作り上げ、他の経済圏に販売できる商品・サービスを生み出す、さらには(3)地産地消を進めて輸入を減らし、収支をバランスさせなければならない。こうした取組みをとことん進めて「強い経済圏」を作ることができなければ、若者の安定した雇用はなく、若者が定着することはない。強いということは地域間の競争であり、勝者のみが創生を果たせるということを意味する。
   とマクロな理解はコンセンサスにはなりやすいが、地方自治体で実際に創生にかかわっている方からは、「わかるけどさあ、無理だなあ」という感想も多くいただく。

定期的に出演させていただいているテレビ番組で、国家戦略特区「兵庫県養父(やぶ)市の取り組み」を紹介した。84%が山林と農業に不向きな市だが、1年前、地域限定の規制緩和で活性化を目指す国家戦略特区の「農業特区」に指定された。
   農地の権利移転などの権限を農業委員会から市長に移譲する特例が認められ、企業の農業参入が後押しされた。大手企業、地元JAと自治体が農業生産法人を設立し、活動を始めている。
   廃校となった小学校の体育館を植物工場に改造してレタスを栽培。生産・販売・物流の体制を確立し、1日3000株を出荷、1個200円程度で関西圏などのスーパーで販売している。雇用も地域住民から生まれているといった内容だ。
   反響はいつもいろいろだが、今回は二つに割れた。「企業、地元JA、自治体の三者が手を組んでやるとはすごい」「しかも山林の多い農地で稼ぎ、雇用を生み出している」など称賛の声があった。一方「特区だからできることで、他地域ではうまくいくはずがない」「雇用が生まれたとか、販売が増えたといってもほんの少しの人数、金額でしょう」と否定的な感想もいただいた。
   私は、過疎化が進む地域の創生にはコンパクトシティーは避けて通れないと考えている。限られた人手、予算の中で、質の高い医療・介護や生活の利便性を提供していくには、効率化とコミュニティーという視点から人の住む地域を集約化する必要があると思う。
   しかし、最近ある首長さんとお話をしたら「反対」といわれた。コンパクト化は人が住まない土地を増やすことになる。人の手の入らない土地はすぐ荒廃する。荒廃した土地が増えれば、創生どころか、地域消滅を加速させるだけとのご意見だった。う~ん、やはり意見は割れる。

国の施策と違って市町村は、それを決める人、賛成する人、反対する人の顔が良くも悪くもよく見える(分かる)。創生でよく使われる言葉「地方創生は千差万別」は、賛否両方の意見を飲み込み、ぼやけたものにするということではない。両意見を飲み込む事はぼやけた戦略になり失敗につながる。
   地方創生の原点は何か。限られた人手、予算の中で、住民に対する質の高い医療、介護や生活の利便性を提供していくこと。地方創生はすぐに効果は見えない。その中でもリーダーは進むべき方向性を示し、多くの住民のコンセンサスをとりながらも、それでも反対する方にはきっちり「嫌われる」ことをやりきれるかだ。そのリーダーシップが今問われている。

(※本稿は2015年7月25日掲載された新潟日報の原稿を加筆・修正したものである。)

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経済研究部   チーフエコノミスト

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融、日本経済

(2015年08月05日「研究員の眼」)

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