2021年10月08日開催

パネルディスカッション

新しい価値を創造し、生産性を高めるオフィス環境「マイクロソフトの働き方改革」

パネリスト
小柳津 篤氏 日本マイクロソフト株式会社 エグゼクティブアドバイザー
山下 正太郎氏 コクヨ株式会社 ワークスタイル研究所 所長
WORKSIGHT 編集長
京都工芸繊維大学 特任准教授
佐久間 誠 ニッセイ基礎研究所 准主任研究員
コーディネーター
岩佐 浩人 不動産調査室長

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3―5. オフィスをどう変革していくか
■岩佐 小柳津様、ありがとうございました。それでは、ここからはマイクロソフトさんが目指す働き方、またテクノロジーによるソリューションの提供についてお聞きしてまいります。
 
■佐久間 大変興味深いご講演を頂きましてありがとうございます。マイクロソフトでさえ、いろいろ失敗があったということも受けて、やや安心しました。先ほど山下さんのセッションで、ビッグテックの今後の動向という話がありました。マイクロソフトはまさしくビッグテックなので、ぜひここで小柳津様にマイクロソフトが今後オフィスをどのように活用していこうと考えているのかをお聞かせいただければと思います。

特に先ほど生産性のところで、生産性を上げるときには何かをやめたり託したりすることが必要だとご指摘いただきました。多分、このコロナ禍において、オフィスのぜい肉のような部分も少し見えてきたのではないかと思います。それによってオフィスの捉え方がどのように変わってきたのかを教えていただけますか。
 
■小柳津 ありがとうございます。これはコロナの前から一貫してわれわれが狙っているところがありまして、物理空間はまさにイノベーション、コラボレーションの現場そのものだという考え方です。私たちは2011年に、この写真の右側にあるような品川オフィスに移りまして、いわゆるフリーアドレスと当時はいわれているオープンオフィスに変わっていって、いろいろな賞も頂いているのですけれども、他の多くの受賞企業とわれわれのこのオフィス空間は少し違いがあります。何かというと、ないものが多いです。多くの受賞企業は、言葉があれですけれども、すごくサービスリッチだと思います。いろいろなゾーンがあって、いろいろな設備があって、至れり尽くせりです。

一方で私たちは最初から、これを計画した今から11年前から、空間に対してはコラボレーションとイノベーションの役割を集中的に見直しました。品川オフィスには、例えば託児所がなかったり、仮眠室がなかったり、自転車置き場がなかったり、フィットネスルームがなかったり、いろいろないものが多いです。社員からの要望はありました。お金もありますし、土地もあるのですが、そうではなくて、これはコラボレーションオフィスですから、コラボレーションに対してのゾーニングはありますけれども、それ以外のサービスや設備はほぼありません。それはセルフマネジメントで対応してくださいということです。

ですから、今ちょうど品川オフィスをリニューアル中ですけれども、基本的な考え方は全く同じで、どうすればコラボレーションとイノベーションを最大化できるかです。ただ、当然ですが10年たちましたので、テクノロジーも変わりましたし、それから何といってもこのコロナで生活様式も働き方の多様性も変わりましたので、そこを織り込んだ上で、でもやはり空間にはコラボレーションとイノベーションのこれ1択で、また集中的に期待値を高めているところだと思います。
 
■岩佐 ありがとうございます。先ほど皆さんと控室で話ししていた時に感じたのは、コクヨさんも、マイクロソフトさんも、働き方の方向性や、お客さまへのソリューションの提供において、似ている部分を感じました。山下様、このあたりご意見を頂けますか。
 
■山下 ありがとうございます。やはりオフィスの機能は取捨選択されるべきだと思っていまして、われわれも実際にそうです。今までは日本の企業の多くが、思考が停止した部分が結構あったのではないかと思います。つまり、オフィスに毎日来ることをある種当たり前のように考えてしまったが故に、オフィスの機能はこれがあるべきであろうという、ある種当たり前をずっと引きずってきたことがあったかと思います。実際に今、日本全国で大きくリモートに転じたことによって、ワーカー側も企業側も、本当はこの空間は要らないのではないかとか、逆にもう少し特化すればもう少し生きてくるのではないかということがようやく見えてきたと思います。

そういう形でこれからどんどんとオフィス自体の機能の取捨選択が進み、われわれも1990年代からずっとこういった分散型の働き方にトライしていく中で、現在のオフィスはかなり絞られた形でデザインされているのかなと思います。ただ、1回それを両側に振ってみない限りはなかなか見えてこないところがあるので、今は非常にいいタイミングなのではないかと思います。
 
■佐久間 今が変わるべきタイミングなのだという、山下さんのご指摘もまさしくその通りだと思います。一方で変わることは大変だし、つらいと思うのです。今ご紹介いただいたマイクロソフトのオフィスを拝見すると、非常に大胆に変わっているように見受けられます。その過程では、いろいろハレーションもあっただと思います。どのようにして、このような大きな変革をこの10年間で着々と遂げることができたのかをお伺いできますか。
 
■小柳津 ありがとうございます。重要なポイントが実はありまして、私のような昭和のおじいちゃんは物事を良くするという課題に直面したときに、カイゼン活動というのをやります。これは日本の製造業発、全業界に広がった考え方で、カイゼンは英語にもなっています。現場の人たちが仕事を見直して、現場の人たちがしっかりと物事を良くしていく。例えば、現場の人たちが仕事を分類し、棚卸しをして、その結果、仕事を1分、1秒、1円、1グラム削っていく、こういう成功体験は私たち昭和の世代にはものすごくあります。これがひいては日本人の成功体験としても結構根強くありまして、それをやっていた時代がこの写真の左の状態です。

本社があれだけ変革を促して、あれだけいろいろなアドバイスや方法論をくれても、私たちは現場の人たちに委ねたのです。現場の人たちは1分、1秒、1円、1グラムは削りますが、この写真で見るような大胆な変更はしない。別の言い方をすると、現場の人たちは1分、1秒、1円、1グラムを削ることに関しては喜んでやりますが、仕事を大連にアウトソースしたり、このプロセスをAI化したり、業務自体の手続きをやめてしまうという権限をそもそも彼らに与えていないのです。ですから、この写真で見るような大きな変更、カイゼンではなく構造改革、連続ではなく非連続の様子を望むのであれば、現場の人に最後まで委ねるカイゼン活動に期待していては非連続にはなりません。

つまり、ある部分でものすごくトップマネジメントやガバナンスのリーダーシップが必要で、現場の人ではない人たちが何かを徹底するスキームを作らないと、社長が何か気付いても全部、あとはよろしくで、最終的に全部現場に委ねるのであれば、それはやはり1分、1秒、1円、1グラムしか削られないし、それをどれだけ続けても右の状態にはならない。

ですから、変革のモデルというか、変革のスキームをどう設計するかというところから考えないと、こんなに大きな構造改革や非連続な物事の変化は難しいのではないか、偉そうに言っていますがわれわれは世界で一番、この左側で長く変われなかったからこそ、申し上げているということだと思います。
 
■佐久間 それでは、山下さんにご意見を伺います。コクヨも最近、新しいオフィスに移られました。私もネット上でオフィス見学をして、これまでの日本のオフィスには見られない様々な特徴があると思いました。どのようなコンセプト、またどのような変革を行おうと思い、オフィス移転を進められたのかをご教示いただけますか。
 
■山下 1990年代以降、ずっとわれわれは分散型の働き方にトライしてきた中で、いよいよコロナになったときに、都心のセンターオフィスにはどういう機能があるべきなのだろうかをもう一度考えたのが、今の品川本社屋の「THE CAMPUS」というオフィスです。

一つは、機能をもう一度取捨選択して特化していくという流れがあります。今までそういった働き方をやっていたとはいえども、オフィス空間はある程度柔軟で、何にでも使える空間が少し多かったのですが、これだけ自由度が高まっていくと、わざわざオフィスに行く理由が存在しない限り行かなくなっていくわけです。そういう意味では一つ一つのフロアに、これまでは考えられなかったある種特化した、さらにグレードを上げた機能を設けることによって、わざわざそこに行くことによって生産的に働ける、あるいはいろいろな顧客とのコラボレーションができる、そういったことを一つ一つ見直したというのが大きな方向性の一つになります。

そしてもう一つは、今回のプロジェクトの特に新しいところですが、地域の中で自分たちが何に貢献できるのかというところをかなり意識した場所になっています。具体的に言うと、このオフィスの大体50%をパブリックエリアとして市民の方に開放しています。われわれは消費財、文具や家具など、人々に愛されるプロダクトを作り続けていく中で、オフィス街というのがどうも人を阻害する街であったりビルであったりということで、生活者の顔が見えない空間というのがわれわれの思いとしてあったわけです。そこを大胆に地域の方に開放していくことで、自分たちの存在が社会に対してどれだけ認められていくのか、あるいは生活者の顔を見ながら仕事をすることによって自分たちの開発やサービスの設計に生かしていくのか、そういった観点を今回は意識して作ったところがポイントかと思います。
 
■佐久間 先ほど、コロナ禍におけるテレワークの拡大によって住宅とオフィスの境界線が曖昧になったと申し上げました。山下さんのご発言からすると、オフィスと周りの都市との間の境界線もどんどん曖昧になってきて、それが今後、イノベーションを起こす新しいつながりを生みだし、生産性を高めるのではないかという点が非常に興味深くお伺いしました。

今回のコロナ禍で多くの日本企業がテレワークの良さに気付いたと思っております。しかし、小柳津様からは、その導入過程では、ハードをまねるだけでは駄目で、業務スタイルを変更するような根本的な変革が必要だとご指摘を頂きました。これは非常に重要なポイントだと思います。

そして最後に、小柳津様にお伺いしたいのは、コロナ禍を受けて、新しく見えてきたテレワークの課題はありますか。また、その克服に向けてどのような対策をされているのかご紹介いただけますか。
 
■小柳津 ありがとうございます。かなり難しいことにわれわれはチャレンジしているという自覚があります。先ほどハイブリッドワークというスライドをご紹介しましたとおり、本当の意味でいろいろなことが多様であることが、社会としても、企業としても、それから人生の選択としても必要になってくるのだろうと思っています。

一方で、短期的に組織マネジメントだけのことを考えると、先ほどのうまくいかなかったというわれわれの調査結果からも分かるとおり、組織のエンゲージメントが弱まる可能性があります。実際そういう現象が出ています。ですから、多様性は尊重したいのですが、組織のエンゲージメントも確保したい。この一見排他的に見えるような状況を、私たちはテック企業なのでテクノロジーで両者を合体できないかということを考えています。
 
ですから、ここに書いてあるとおり、みんなが全然違う価値観と人生観で働きながらも、組織に対するエンゲージメントを強めたい。これをテクノロジーでどう考えるかというと、まず一つは人と人とのつながり、コラボレーションですね。これをいかに技術によって利便性と安全性を保証するか。もう一つが、これだけの新しい体験でいろいろなことに気付いて、成長した人たちの知の対流、還流にどれだけ利便性と安全性を保証するか。これはもちろんテクノロジーだけでは成立しませんが、テクノロジーでできることがものすごくいっぱいあることも分かっています。

ですからわれわれは、多様性が拡大する過程で、短期的には、もしくはスナップショットではエンゲージメントが弱まるということを十分リスクとして理解した上で、でもこれを両立させるために、人材の交流と知の対流を技術によって利便性と安全性を保証する。こういう世界観を今実際に社内でいろいろとチャレンジしています。ですから、それがうまくいくかどうかは、いいことも悪いこともレポートしていきますので、ぜひわれわれのチャレンジを、期待を多めに見ていただくといいのではないかと思っています。私自身はすごく明るい未来を実感していて、この会社で働いている一つの大きな理由にもなっています。

最後に

■岩佐 ありがとうございました。そろそろお時間が近づいてまいりました。今後のオフィス戦略、ワークプレイス、ワークスタイルをどうしていくのか、悩まれている視聴者の方も大勢いらっしゃるかと存じます。最後に視聴者へメッセージを、それでは小柳津様からお願いします。
 
■小柳津 いろいろな状況の中で、いろいろな議論があるというのも承知しております。話し合うことも重要かと思います。でも、われわれの体験談を振り返ると、議論したときよりも体験・経験したときの方が、はるかに気付きが多いです。ですから、議論ももちろん大事ですが、その100倍ぐらい実践というところにぜひ踏み出していただいて、いいこともある、悪いこともある、それも承知の上でいろいろなことに気付いていただいたり、理解を進めていただいたり、新しい期待につなげていただくといいのではないかと思います。
 
■岩佐 ありがとうございます。山下様、お願いします。
 
■山下 小柳津さんのコメントに重ねる形になりますが、今まで日本の働き方、働く環境は基本的にどこかの国にベンチマークがあって、それを新しく輸入していくような形でずっとアップデートされてきたと思います。ですが、コロナで1回、全世界がゼロの段階、ゼロリセットされて、同じスタート地点に立っている状況だと思います。つまり、ベンチマークというものが今は失われている、全世界で実験が始まっているという状況ですので、ぜひ日本企業の方、今日ご覧になっている方の多くも、まず自分が試してみる、実践に一歩踏み出してみるということが非常に重要だなと感じています。ぜひ事例探しではなくて、どうやって実験するかということをまず考えていただければと思っています。
 
■岩佐 ありがとうございます。それでは最後に佐久間さん、お願いします。
 
■佐久間 コロナ禍によってテレワークが拡大したことで、多くの方がそのメリット・デメリットについて認識されたのだと思います。そして、テレワークのいいところを活用していこうとの機運が高まったと思います。その際に、ツールやハードなど、形から入りがちなのですが、今日議論して改めて認識したのは、それをいかにソフトで運用していくか、オペレーションによって改善していくかというのが非常に重要なポイントだと思いました。これからまた、様々な課題が出てくると思うのですが、それをデータで明らかにして、テクノロジーやソフト、オペレーションでいかに解決していくかを模索することが今後求められると強く感じました。
 
■岩佐 ありがとうございました。本日は、ハイブリッドワークにおける生産性とオフィスの役割について議論を進めてまいりました。そして、パネリストの皆さま、柳川先生から非常にたくさんの共通するワード、お言葉を頂いた感じがしております。多様性、フレキシビリティ、空間の共有、人とのつながり、知のつながり、スピード、体験する、やってみる、そして、テクノロジーの活用、その他にもたくさんあったかと思います。

そして、全てのことが創造性やイノベーションの発揮につながっていくこと。そして、何よりも働くことがもっと楽しくなる、つまりは生きることがもっと楽しくなる。その中で、オフィスの役割や重要性も明確になったのではないでしょうか。本日のシンポジウムが皆さまの経営戦略のご参考になれば、幸いに思います。

それではこれにてパネルディスカッションを終了します。パネリストの皆さま、どうもありがとうございました。そして、視聴者の皆さま、最後までご視聴くださり、ありがとうございました。これでニッセイ基礎研シンポジウムの全てのプログラムを終了します。
   

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