2018年10月17日開催

パネルディスカッション

働き方改革と企業の成長戦略「なぜ、女性の就労環境の整備が必要なのか?」

パネリスト
村木 厚子氏 津田塾大学 客員教授
大竹 文雄氏 大阪大学大学院経済学研究科 教授
小林 文彦氏 伊藤忠商事 代表取締役専務執行役員CAO・CIO
久我 尚子 ニッセイ基礎研究所 主任研究員
コーディネーター
櫨(はじ) 浩一

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4——なぜ、女性の就労環境の整備が必要なのか?

■久我 よろしくお願いします。こちらのテーマにつきましては、既に村木先生から深くそして広く、いろいろなデータを出していただいて、お話しいただきましたので、私の方からは弊社のデータなどを用いながらごく簡単に、そして個人的なエピソードなどを交えてお話しさせていただきます。
4—1.進む「女性の活躍」と理想のライフコース

今、共働きが非常に増えていて、子育て世帯の様相も随分変わっています。20年前のグラフを見ますと、過半数が専業主婦世帯でしたが、2000年代に入り、共働き世帯が上回るようになりました。直近では黄色の部分の共働きが54.4%、専業主婦世帯が29.9%で、今の子育て世帯というのは、共働き世帯が専業主婦世帯のおよそ2倍存在しているのです。

今後もこの流れは続く見込みですが、そもそも女性たちはどのようなライフコースを望んでいるのでしょうか。弊社が7月に女性5000人を対象に調査した結果をご紹介いたします。「あなたが理想とするライフコースに最も近いものをお選びください」という問いに対して、九つのライフコースの選択肢を提示しました。こちらの結果を見ますと、どの年代も一番右側のグリーンの部分、結婚して出産した後も仕事を辞めないでずっと続ける「両立コース」を歩みたいという女性が多いのです。

下から2番目の50代前半の女性ですと、水色の「再就職コース」、いったん仕事を辞めて、子育てが落ち着いてからまた戻るということを希望する方が若干多いのですが、年齢が若くなればなるほどグリーンの「両立コース」の割合が多くなっています。

ただ、この両立コースは、一番実現率が低いのです。ライフコースがおおむね固まった40代以上の女性に関して、理想のライフコースと現実に歩んでいるライフコースの一致度を見ました。理想のライフコースは両立が1位なのですが、理想と現実の一致度は、両立コースが28.7%と最下位です。3人に1人も実行できていません。一方で、一致度が高いのは一番上の独身就業コースで、おおむね自分の意思で決定できるため歩みやすいということです。2位は再就職コース、おおむね半分ぐらいが実現できています。

一方、両立コースは、7割の女性が、理想が結局、実現できていません。この7割の中で多いのが再就職コースです。子育てでいったん仕事を辞めざるを得なかった、仕事を続けたかったのだけれども辞めざるを得なかったということです。
4—2.両立コースのネック

村木先生のお話にもありましたか、やはりネックは出産後です。出産後の就業継続率があまり高くありません。今、第1子出産後の就業継続者は、女性全体のまだ4割でしかありません。

そして、出産後の就業継続率は雇用形態によって大きく違います。折れ線グラフのブルーの部分、正規雇用者では、最近では7割が出産後も就業継続するようになっています。一方で、ピンクのパート・契約社員などの非正規雇用者では、25%しか就業継続しません。4分の3が出産後に辞めてしまいます。どうしてかというと、育休を取りにくいからのようです。

今、若い年代ほど、足元では新卒の採用状況は良くなっていますが、長らく続く景気低迷の中で企業が新卒採用を絞っていったため、若い年代の女性ほど非正規雇用が多くなっています。ただ、非正規雇用の場合は育休が取れないというわけではありません。条件を満たせば取れますし、その条件も緩和されています。でも、人手不足に苦しむ中小零細企業、契約社員だと育休を取りたいということを言い出しにくい状況、そして、そもそも契約社員でも育休を取れるということの認知度があまり高くないようです。

一方、正規雇用者では7割が就業継続しているのですが、育休や時短などの制度が整っているのにも関わらず、3割の方は辞めています。これはどうしてでしょうか。

こちらは村木先生のグラフと全く同じものですが、職場の環境は制度などが整い始めていても、家庭の環境が整っていないということです。夫婦の家事・育児分担は妻に偏っています。どの国でもそうなのですが、日本では特に偏っています。そして、この他にもまだまだ壁はあります。夫婦の育児時間は分担できたとしても、都市部では保育園待機児童問題があります。預けたくても預け先がありません。

そして、預けられたとしても、さらに課題はあります。マミートラックという問題です。これは何なのかといいますと、最近制度が整ってきたので、育休や時短を利用して子育てを続けながら仕事も続けます。そして、いったん落ち着いたのでフルタイムに戻ってみると、かつてのキャリアコースではなくて、昇進・昇格とは縁遠い、ママが固定されてしまうコースにはまってしまうということです。これによって高学歴であったり、ハイキャリアのコースを歩んできた女性ほどモチベーションが下がってしまいますし、そもそも両立する生活は大変ですので、そのような困難さもあって退職につながってしまうという問題です。
4—3.働き方改革による環境整備 

このような中で、働き方改革でさまざまな政策が進められています。赤で囲った部分が女性に関係が深いと考えている部分です。この中で4点目の「柔軟な働き方がしやすい環境整備」というのは非常に効果が高いのではないかと思っています。テレワークや副業・兼業の推進です。その他、男性の育休取得なども、女性の家事・育児時間が減るので非常に効果が高いと思います。

ここでちょっと個人的なお話をさせていただきたいと思います。私自身も小学4年生の男の子と3歳の保育園児の2人を育てながら働いている共働き世帯です。40代前半なのですが、夫も同じ年で、夫は企業の中間管理職、上からのプレッシャーもありますし、下からのプレッシャーもある。そして出張もあって非常に忙しい。

そのような中で、私もいろいろな壁を乗り越えながら、よけながら、働き続けているわけですが、こういう制度があって非常に助かっている、こういう制度があったら助かる女性が多いのではないかというお話を2点させていただきます。

まず1点目です。テレワークの仕組み、在宅勤務の仕組みは非常にありがたいです。特に3歳までの子どもというのは、すぐ熱を出します。37度5分を過ぎると、すぐ保育園から「お迎えに来てください」という要請が来ます。仕事の途中でも、資料の作成の途中でも、すぐ飛んでいかないといけません。ですので、日頃周りの方々には非常にご迷惑もおかけしているかと思います。会社を出て保育園へ迎えに行き、そして小児科へ連れていきます。お薬を出していただいて、帰宅して薬を飲ませるわけですが、発熱した子どもは、薬を飲むと案外3時間ぐらいまとまって寝てくれるのです。そのほっとした時間にテレワークの仕組みがあると、中途半端で放り投げてきてしまった仕事にすぐ戻れますし、メールの処理などもできます。非常に助かっています。

そして、私自身は裁量労働なので、9時から5時まで勤務といったようなガチガチの勤務体系ではないのですが、世の中、就業時間が決められている方も多くいらっしゃると思います。そういう方に向けて、1時間休の仕組みなども非常にありがたいのではないかと思います。1日休とか半日休という制度はどこでもあると思うのですが、その1日や半日をもっとばらして、1時間単位で取る。9時から5時までの就業時間の間、どこで取ってもいいというような柔軟性を持つ会社も増えているようです。どうしてありがたいかといいますと、保育園の時代というのは、子どもが発熱をしなければ延長保育などもありますし、そもそも夕方まで見てもらえるので、至れり尽くせりで意外と仕事にまい進できてしまうのです。

でも、次に小学校に上がるとまた話が変わります。保育園の時代は、お母さんたちが全員働いていますので、保護者会や面談を土曜日や夕方の遅い時間にやってくれるのです。でも小学校になると、保護者会、面談は普通に平日の真っ昼間にあります。「保護者会を2時から2時45分までやりますので来てください」と。先生との面談も、2時半から2時45分までの15分しか話さないのですが、「昼間に来てください」と。

そういうとき、午後半休を取るわけです。仕事をもっとしたいし、やることもあるのに、半休を取らないといけない。今、労働管理も厳しいので、ちゃんと休まないといけない。面談に関しても、先生と話す15分、小学校の往復を考えても45分ぐらいしか必要ないのに、午後丸々休まないといけない。そのようなときに1時間休やテレワークの仕組みがあると、スムーズに仕事に復帰することができると思います。

ここまで女性という視点でお話しさせていただきました。女性の仕事と子育ての両立について、仕事と生活の両立として見ると、育児が終わってしばらくすると、親の介護という問題に直面します。今、介護の状況は随分変わってきています。グラフをご覧いただきますと、2000年代初頭というのは、主な介護者はお嫁さんでした。お嫁さんがやっていました。つい最近までそうだったのです。

ですが、このピンクの折れ線はどんどん低下しまして、最近ではお嫁さんではなくて息子が介護する割合の方が高いのです。介護は、嫁から息子に移っているのです。介護をされる年代というのは50代ぐらいで、企業からすると本当に戦力層、主戦力です。この人たちが働きやすい環境をと考えると、時間短縮勤務や月単位の長期休みということになります。それは何なのかというと、今、育児中の女性が使っている制度です。

ですので、実は女性で見られる両立環境の整備というのは、女性だけではなくて男性も必要、みんなに必要な制度であるというのが私のプレゼンのメッセージです。以上です。ありがとうございました。
■櫨 どうもありがとうございました。以上、3人のパネリストの皆さんのお話と、村木先生の基調講演を題材にして議論に入りたいと思います。

5——労働力率を高めるには

■櫨 大竹先生から、1人当たりのGDPを高める、労働力率を高めるという話と、それから生産性そのものを高めるという二つに分解してお話を頂きましたので、ディスカッションの方も、労働力率を高める、つまりは村木先生がおっしゃった支える側で働く人を多くするという話と、時間当たりの労働生産性を高める話にテーマを分けて議論をさせていただきたいというふうに思います。

最初に、支える側の人を増やすという話ですけれども、今まで以上に多様な人材、いろいろな事情を持った人たちが働くようにするということで、女性や高齢者、あるいは健康に問題のある方、さらには外国人など、それぞれ事情が違う人たちが働くことになるわけです。今の時点では、それほどうまくいっているとは考えられません。では、なぜ日本でそういう人たちが活躍できないのだろうか、どの辺に問題があるのか、現状はどうなのかということを少しお話を頂きたいと思います。

順番を少し変えまして、大竹先生、小林様、それから久我主任研究員の順にお考えを伺いたいと思います。最初に大竹先生は大学にいらっしゃいますのが、専門的な職種であれば自由度が高くて、いろいろな事情の人も働きやすいというのが高度プロフェッショナルの考え方だったわけです。それでは、最も専門性の高い人たちが集まっている大学は、今どのような状況なのかということと、それからマスコミなどでもよく、日本の大学では欧米などに比べるとまだまだ女性や外国人の研究者の活躍の程度が低いということがいわれますけれども、その辺は一体どこに課題が残っているのだろうかということも付け加えていただければと思います。では、大竹先生からお願いします。

■大竹 確かに大学は、先ほどのゴールディンの分析でも、研究者というのは柔軟性の高い職場であり、私たちは裁量労働制ですから、子どもが小さいときは私も幼稚園に行ったり保育園に行ったりしていましたけれども、それが別に普通にできる職場です。ですから、女性も働きやすいというのは間違いないのですけれども、それは実は分野によって、働きやすいのですけど実は私の経済学の分野、それから理工系もそうなのですけれども、特に教授職だと女性比率が非常に低いです。

多分、大阪大学の中でも文系で圧倒的に女性教授比率が低いのは経済学部なのですが、それは理由がありまして、先ほど司会をしていた宮垣さんは私と京大経済学部の同期生なのですが、200人が1学年にいて、当時女性は3人でした。忘れもしませんけれども、私はフランス語を取ったのですけれども、クラスに1人も女性がいなかったというのを覚えています。

ということは、その世代の人で女性を増やそうといっても人数がいないのは間違いない。それでは、大学では何もしていないかというと、女性について、先ほど小林さんが伊藤忠で数値目標をやったけどうまくいかなかったということをおっしゃっていたのですが、大学でも外国人の教員比率、女性の教員比率の数値目標を作っています。ところが、母集団の女性が少ないところで急にやっても、これはうまくいくはずがないのです。それで数値目標に合わせようとすると、男性に比べて質の低い人を職に就けなければいけなくなる。そうすると、生産性が下がってしまうということが一時的に起こってくる。

一方で、これはロールモデルが非常に大事で、女子学生が研究者になりたいと思っても、教授で女性はいないではないか、頑張っても教授になれないのではないかというふうに思うと、ならないという問題があります。やはり何らかの形でロールモデルを作っていかないと、厳しい競争のところに入っていこうとする場合に、誰も成功した人がいない、見えていないところには行かないという問題があります。

そこはやはり工夫していくしかないと思うのです。母集団が少ないのだけれども、優秀な女性研究者がいることはいるわけで、そういった人たちにできるだけ、例えば女子学生の目に触れるようにする。例えば外から講演に来てもらう、セミナーをしてもらうときも、女性教員を比較的多くする、研究者を多くするというのもそうです。いろいろなところに写真を飾ったり、役員の写真を飾ったりする。どの企業でもやっているかと思うのですけれども、活躍した女性の写真を貼ることは効果があるということがいわれています。ですから、どの企業でもそういうふうに、先ほど伊藤忠さんの方で茂木健一郎さんの写真がありましたけれども、女性で活躍している人たちの講演会を増やすと、女性社員も意欲を持つということはあると思う。

だから、そういうふうに過渡期は非常に困難を伴うし、だからといってロールモデルを作らないと好循環が発生しないという問題がある。そこは非常に柔軟性が高い職場の大学であっても、世界中どこでも苦しんできたという状況です。

■櫨 大竹先生、ありがとうございました。それでは次に、小林様にご発言いただきます。商社といえばやはり世界中で活躍しているということで、日本人の社員も恐らく海外で活躍していますし、海外からも多くの方が見えていると思います。

日本人と全く文化の違う海外の人たちが一緒に同じ職場で働くことが行われているかと思うのですが、こういったいろいろな人たち、バックグラウンドの違う人たちが一緒に働くというのは、必ずしも日本的なやり方だけではうまくいかないのではないかと思うのです。その辺のご苦労なども交えながら、多様な人たちが働く上で何がネックなのかということをお話しいただければと思います。

■小林 当社は、日本の本社内に外国籍の社員が約50人おります。基本的に日本語が堪能な社員がほとんどです。多くが中国人で、他のナショナリティが若干いるという状況になっております。

現時点で、職場になじめないかというと、その様な状況ではありません。一方で、海外に2000人近くのナショナルスタッフがいまして、この人たちは現地雇用者で本社から非常に遠い所にいる人たちです。会社がどのような方向を向いているのか、どのようなことをやっているのかということに対して、なじみの薄い人たちです。これは全社一体感を醸成するためには、良いこととは言えません。解決するのは簡単ではありませんが、長い間トライ・アンド・エラーを繰り返してきて、明確になっているのは、どのような方も人間であり、言葉も表現もカルチャーも違いますが、うれしいことはうれしい、怒ることは怒るという全く日本人と一緒だということです。そこを構えすぎてしまうとうまくいかないと考えています。この人は自分と全く同じ人だと思った瞬間に、何もやっていなくてもうまくいくということを私は長い間の経験から実感しております。

■櫨 どうもありがとうございました。それでは次に、久我主任研究員に、先ほどもありましたけれども、ご自身の経験も踏まえてこういう点が働きにくいということがあったら、それをお話いただければと思います。

■久我 いかに、いろいろな状況、多様な方々が共に働ける環境を作るかという上で大切なところが2点あると思っています。いかに時間の制約をなくすか、働く場所の制約をなくすかです。時間と場所の制約をいかに外すか、緩和するかということだと思います。先ほどのテレワークや1時間休などもその一つの方策となると思いますし、サテライトオフィスなどもそうだと思います。企業では、事業所内保育所なども増えてきていますが、働く母親にとってみると、満員電車に小さな子どもを乗せて一緒に通勤することが果たして働きやすい環境なのか疑問です。保育園はやはり家の近くにあって、ただ顔を合わせてやらないといけない仕事もある場合、オフィスが家の近くにあると非常にありがたいと思います。労務管理上もその方がいいのではないかと思います。

その他、世の中の流れとして、働く時間と場所の制約を外しているものとして注目しているものがあります。シェアリングサービス、シェアリングエコノミーです。スキルのシェアとして、自分が空いている時間に語学を教えるとか、投資の知識を教えるとか、家事を助けるとか、いろいろあるのですが、そういったスキルを提供したい人と利用したい人をマッチングするプラットフォームが今育ってきています。そのような仕組みを使うと、やはり柔軟な働き方のできる場として非常に有効だと思います。以上です。

■櫨 どうもありがとうございました。皆様から、いろいろな問題点や、こういう風に考えるべきだというお話を頂きました。

6——労働生産性を高めるには

■櫨 次に、生産性の話の方に移りたいと思います。日本の企業は生産性、特に労働生産性が低いというデータを先ほど来いろいろ出していただいています。人手不足の中で企業が成長していこうとすると、労働生産性を上げないとこの後やっていけないということなのですが、一方でわれわれの働き方が非常にまずいのかと考えると、日本の労働者は非常に真面目であり勤勉だといわれてきたわけで、一生懸命働いているはずだとも思います。

それにもかかわらず、時間当たりの生産性が非常に低いというのは一体どういうことなのでしょうか。これは一体どこが悪くて、このように時間当たりの生産性が日本の企業では低くなってしまっているのかということを、皆さんに少し議論していただきたいと思います。

小林様、それから久我主任研究員、そして大竹先生の順でご意見をお伺いしたいと思います。なぜ日本企業は、特に欧米の企業に比べて時間当たりの生産性がこのように低くなってしまっているのかについて、小林様はどうお考えになっていらっしゃいますでしょうか?

■小林 根本的には、日本の場合は労働市場がまだまだ非常に終身雇用の状況になっていることがありますので、自分の全人生を懸けて会社にお勤めするというスタイルが強い。そうすると、時間のスパンが一生ということになってしまい、この中で自分がどのようにこの会社に貢献するかという考え方がDNAに刷り込まれている人が多いと考えています。

欧米では労働市場が活性化しているが故に、限られた時間の中で成果を上げていかなくてはならないということが徹底していますので、そのような考え方は少ないですが、日本人はどうしても、組織に入るとその組織にこのまま終生勤めるのだというスタイルで働いている人が多いので、どうしても上司に忖度する、時間の合理性を主張できない、それから無駄だと思ってもそれはテンポラリーなことだと理解するような風潮が強いので、時間当たりの生産性においてはビハインドな環境にいると私は思います。

なぜ日本で生産性が上がらないという話は、「効率性の追求」ばかりに責任を求めているのも要因です。長時間労働を是正するとか、何とか合理的に会議をやらせろというのも大切なのですが、そこばかり言っている。だけど、生産性を上げるというのは、そこの仕事だけではなくて他の要素が非常に多くあい、それがどうなっているのかということだと思います。

従いまして、生産性を上げようと思ったら、一人一人の社員のモチベーションが高くなければいけないし、元気でなくてはいけないし、能力も高く、このいずれが欠けても生産性が上がらないですよね。そういうふうに考えるべきだろうと思います。ご参考までに、政府が働き方改革の重点分野9分野として纏めていますが、その中で圧倒的に重要なのは長時間労働の是正だと思います。なぜなら、これが解決しなかったら他のことが推進出来ないからです。他のことを阻んでいる最大の要素は長時間労働ですので、ここを解決しないと、例えば柔軟な働き方、病気・治療との両立などできないですよね。

従いまして、私は最初に着手し、一番力を入れ、最初に実現すべきことは長時間労働の是正だと。ここを徹底的にやらなければならないだろうと考えています。

■櫨 どうもありがとうございました。それでは、久我主任研究員はどういうふうに考えていらっしゃいますか。

■久我 なぜ生産性が低いのか、雇用者としての立場、また夫や友人など周囲の状況を見て思うことは、評価制度の仕組みの問題もあるのではないかと思っています。結局、長時間働いて量をこなした方が、良い評価が付きやすい。あるいは育休など月単位で長期休みを取ったり、そういった不在の時期を作らない人の方が評価はやはり付きやすい、昇進・昇格しやすいところが、制度として、評価の仕組みとして多く持っている企業が多いと思います。

もちろん量をこなせることは重要なことですし、ずっといることも重要なのかもしれませんが、今は評価が量に偏っている企業が多い印象もあります。量だけではなくて、時間当たりの生産性という質の評価という軸ももっと取り入れる必要があると思います。

■櫨 どうもありがとうございました。最後になりましたが、大竹先生に同じお話をお伺いしたいとおもいます。大竹先生がお書きになったものに、夏休みの宿題を最後までやらない人は長時間労働をするという話が書いてありました。私はまさにそういう人間だったので、長時間労働になってなかなか仕事が終わらないのは仕方がないのかなと思います。行動経済学の視点から、そういう人が駄目だというのは分かったのですが、ではこうすれば多少は改善するといったことや、生産性が高まるといったお話があれば、ぜひお聞かせいただければと思います。

■大竹 それは後でやろうかと思ったのですけど、今の段階でもいいです。今紹介された研究は、夏休みの宿題を最後にやっていた人は長時間労働をしやすい、さらには肥満である可能性が高い、たばこを吸っている可能性も高い、ギャンブルをする可能性も高いということなのですが、これは全部共通していまして、先延ばし傾向があるということなのです。やめようとか、やらなければいけないということを、今ではなくて後にするというのが特性です。

だから、伊藤忠さんの試み、夜残業できないようにするのは、まさにその選択をシャットアウトするということで、先延ばしをできないようにする。それで、勤務時間内の生産性が上がるという形になっているのです。これは非常に行動経済学的な取り組みだというふうに思っております。

残業を減らすにはどうしたらいいかというのは、ちょっと後でもう少しお話ししようと思いますけれど、一つはそうやって非常に残業しにくくするというのが答えです。それから、どうして日本の生産性が低いのかという話に戻ると、やはり今まで議論があったとおり、男性の労働時間が長くても構わないということを前提に仕事が元々設定されていたということがある。村木さんの講演の中でも、村木さんでさえそう思っていたということがあるわけで、それが結構根強いということ。

それから、仕事が多くなった場合に、長時間労働ができる社員がいるということが前提で作られていますから、仕事がないときもぶらぶらしているということで平均的な生産性が下がる。

それからもう一つは、久我さんがおっしゃいましたけれども、仕事意欲や昇進意欲を労働時間の長さで判断するということがある。これはある時期まで長く働けば成果が出るタイプの仕事が多かったというのは事実で、それはインプットさえ測っていればアウトプットは推測できるという意味で正しかったのですが、現在は裁量労働制が増えてきているように、労働時間と成果は結構無関係になってきているということで、評価の仕方がインプットのままで、そして成果主義という形になってやっているところが問題だというふうに思います。

さらには、平等主義もあると思います。成果が労働者全員で同じになるように、生産性の低い人は長時間働いて埋め合わせをするという特性もあったかと思います。

それが結局、長時間働いてもらえるという前提なので、それを合理化するようなシステムや、訓練によって生産性を上げるということが少ないことが悪循環だというふうに思います。ですから、柔軟な働き方、多様な人が活躍できるようになることこそが生産性を高めるという考え方で、考え方を変えていくしか、発想の転換をしない限りなかなか変わらないのではないかというふうに思っています。以上です。

■櫨 どうもありがとうございました。

 

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