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長期再保険事業のストレステスト(バミューダ)-バミューダ金融当局の評価結果の公表

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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1――はじめに
1 2025 Global Financial Crisis Stress Test-Long-Term Reinsurers (2025.9.15 BMA)
https://www.bma.bm/pdfview/10943
(報告書の翻訳や内容の説明は、筆者の解釈や理解に基づいている。)
2――報告書の内容
想定するのは、2008年の世界金融危機(いわゆるリーマン・ショック)に生じた経済的なストレスを、概ね踏まえたものとする(具体的なストレス項目については後述)。その上で以下のような狙いを持った試算を行うことが目的である。
・長期再保険セクターの回復力を評価すること
・再保険協定における解約トリガーなどの条項の範囲と、その関連データを収集すること
・監督のさらなる強化や、規制上の対応が必要な分野を特定することで、BMAの今後の監督に役立てること
・通常時の保険会社のストレステストを補完すること
また、こうしたストレス前提は、保険監督者国際機構(IAIS)のストレステスト方法に基づいたものにすることで、国際標準に準拠するよう設定された。
バミューダの長期再保険を取り扱う保険会社(106社)が引き受けている出再保険会社の地域的な分布は、
米国70.7%、日本18.9%、英国5.5%、欧州(英国以外)2.2%、その他アジア1.6%、
その他南北アメリカ1.0%
となっている(再保険の責任準備金の金額ベース)。
バミューダ市場の再保険事業の大部分は、北米と日本からのものであることがわかる。次に多いのは英国で、その他欧州等は非常に限定的である。今回のストレステストにおいては再保険事業が対象なので、地域別の影響を見る場合、保険契約者ではなく出再保険会社の分布が重要である。
2007年11月から2008年11月の間に観測された各種金融市場の変化に基づき、IAISによって調整されたものとほぼ同じ前提が設定された(ユーロ圏との関係の深さなど、地域性を考慮すると少し異なる)。具体的には、以下のようなものである。
・金利ストレス 通貨別に、米ドル-1.47%、ユーロ-1.29%、ポンド-1.08%、円-0.68%など
・信用スプレッドのストレス 米ドル+2.98%、ユーロ+1.53%、ポンド+2.10%、円+0.33%など
・株式ストレス おおむね時価総額が-45%下落
・不動産ストレス 不動産価格-25%評価減など
・負債はBMAが提供するストレス後の(上昇した)金利カーブを用いて再評価する。
ストレス後の結果概要は、以下の通りである。
・もともとの拡張資本要件(Enhanced Capital requirement :ECR)2は平均424%であるが、それがストレス後にも347%を維持した。
・参加した106社のうち75社が150%を超えるカバレッジを維持した。また、103社が、ストレス後もECRカバレッジ比率100%を上回っていた。この103社のうち95社は直接維持できており、8社は事前の経営計画の発動により維持できた。
(この事前の管理アクションには、現金や優良資産の注入、株主からの資本追加、資産ポートフォリオのリバランス、株主配当停止などの方策がある。)
・金額ベースでは、セクターで利用可能な資本合計で、393億ドル、26%減少した。これは、もし十分な財務基盤がなければ、直接的・間接的に出再保険会社の損失を招き、大きな負担となっていたはずのものである。
2 BMAの定めに従って算出する、バミューダに本拠を置く保険会社の最低資本・剰余金水準などの要件
再保険会社の財務状況が悪化し、出再保険会社が、契約に基づいて出再を解除する権利を行使できるレベルに達する可能性についても評価した。
ストレスシナリオ下で潜在的に抵触する可能性がある再保険契約のトリガーまたはオプションを有し、かつ、再保険による損失を阻止するのに十分な経営措置が講じられていない会社が、3社特定された。そのうち1社は関連会社向け事業のみ扱っており、さらなる再保険の活用による再建計画をもっていたので、ある程度はカバーできると見込まれるが、残りの2社は、この結果をもとに今後、監督サイドと再建計画について協議する予定である。
総合的なテスト結果を見ると、バミューダの長期再保険セクター全体としては十分な資本バッファーを維持しており、2008年世界金融危機レベルの深刻な経済危機にも耐えうる強力な財務基盤を持っていることが示された。
大多数の保険会社がそれぞれ適切な資本を有し、出再解除となることなく対応できることが示された。そのことから、当該セクターのリスクエクスポージャーと保有資本が、バミューダ内あるいは世界の生命保険市場の財務安定性を脅かすものではないことが示された。
しかし、いくつかの保険会社については今後も継続した注意と監視が必要であり、それぞれの保険会社においてしっかりとした再建計画と資本管理が重要であることもあらためて認識された。
懸念点のあった保険会社は、資本不足に対処するための経営措置を特定してはいるが、その実現可能性やタイミングについては、監督当局の慎重な評価が必要と思われる。今後、それらの対応案の改善について審査していく予定である。
このストレステストへの参加保険会社の地域的分布でも言及した通り、日本からの出再はバミューダにおいては重要な部分を占めており、なお成長を続けている。今回調査時点での、日本の保険会社からの再保険責任準備金は1,060億ドル(全体の18.9%)であり、これは日本の保険の責任準備金の約5%にあたる。日本の保険会社からの出再を保有する再保険会社は18社であり、うち3社は深刻な財務ストレスを示しており、経営措置が講じられなければ一部の特約において、出再保険会社が回収権を行使する権利が生じる可能性がある。3社とも財務体質を十分に回復させ、出再保険会社が回収権を行使しなくてすむような契約上の緩和策が講じられていた。
回収リスクのあるこれらの協定のうち、準備金の56%は関連会社または関連当事者から出再されている。これらの出再保険会社は、再保険会社を財務的に支援する可能性が高く、再保険契約を解約する可能性は低いと見られる。
再保険会社の財務難から出再保険会社をさらに保護するため、日本の出再保険会社をもつ再保険会社のうち10社は、破綻に先立つ回収トリガーを設定していた。この10社で、バミューダに出再されている日本の責任準備金総額の36%に相当する。ソルベンシー比率に応じたトリガーによる解約権は110%から130%の範囲にあり、加重平均は123%であった。
責任準備金総額の66%は関連会社と関連当事者から出再されており、この場合出再保険会社は、再保険会社に対してより高度な管理・監督権をもつため、さらなる安全性が確保されている。この割合はバミューダの長期再保険市場全体の平均59%よりわずかに高いので、全体よりもリスクは低いと評価される。
3――おわりに
(2025年10月03日「保険・年金フォーカス」)
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03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
安井 義浩のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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