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- 家計消費の動向(二人以上世帯:~2025年7月)-実質賃金改善下でも「メリハリ消費」継続、娯楽支出は堅調を維持
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2025年09月17日
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1――はじめに~実質賃金は昨年末以来のプラス、消費は底堅く推移しコロナ禍前と同水準へ
個人消費は緩やかな改善傾向が続いており、2025年7月の水準はコロナ禍前の2020年2月と同程度まで回復している(図表1)。また、これまで賃金の上昇を上回るペースで消費者物価が上昇していたが、7月は逆転し、実質賃金はプラスへと転じた(図表2)。2025年7月の実質賃金(速報値)は、消費者物価指数のうち持ち家の帰属家賃を除く総合指数で計算した従来値では前年同月比+0.5%、総合指数で計算した値では同+1.0%となり、2024年12月以来のプラスとなっている。
昨年も実質賃金がプラスに転じた時期があったが、消費の回復は鈍く、消費者は慎重な姿勢を崩さなかった。すなわち、収入の一時的な増加に安易に反応するのではなく、将来を見据えて支出を抑制する傾向が続いていた。こうした消費行動が土台にあることで、2025年に入って実質賃金の減少が続いてきた中でも、個人消費は賃金動向と連動せず、底堅く推移してきたと考えられる。
今回の実質賃金のプラス転換は、今後の消費動向にとって重要な転換点となる可能性がある。ただし、過去の経験を踏まえると、消費者の慎重な姿勢が短期間で変化する可能性は低く、夏季賞与等の季節要因も含めて、その影響を慎重に見極める必要がある。
こうした状況を踏まえ、本稿では、総務省「家計調査」を基に、コロナ禍以降から2025年7月までの二人以上世帯(世帯の過半数を占める)の消費動向について分析する。
昨年も実質賃金がプラスに転じた時期があったが、消費の回復は鈍く、消費者は慎重な姿勢を崩さなかった。すなわち、収入の一時的な増加に安易に反応するのではなく、将来を見据えて支出を抑制する傾向が続いていた。こうした消費行動が土台にあることで、2025年に入って実質賃金の減少が続いてきた中でも、個人消費は賃金動向と連動せず、底堅く推移してきたと考えられる。
今回の実質賃金のプラス転換は、今後の消費動向にとって重要な転換点となる可能性がある。ただし、過去の経験を踏まえると、消費者の慎重な姿勢が短期間で変化する可能性は低く、夏季賞与等の季節要因も含めて、その影響を慎重に見極める必要がある。
こうした状況を踏まえ、本稿では、総務省「家計調査」を基に、コロナ禍以降から2025年7月までの二人以上世帯(世帯の過半数を占める)の消費動向について分析する。
2――二人以上世帯の消費支出の概観~生活必需品を抑え、娯楽は維持
総消費動向指数は、二人以上世帯に加えて単身世帯なども含めた全世帯の消費支出総額(GDP統計の家計最終消費支出に相当)を対象としているが、世帯消費動向指数は二人以上世帯のみを対象とし、世帯当たりの支出を捉えている。
したがって、二人以上世帯の(世帯当たりの)消費支出は、単身世帯と比べてやや抑制的ということになる。背景には、二人以上世帯では家賃などの固定費の占める割合が相対的に低いため、物価高が続く中で節約可能な支出の余地が大きいことが影響していると考えられる。
二人以上世帯の消費支出の内訳を見ると、2020年以降、減少傾向が続いているのは「食料」や「家具・家事用品」である。一方で、「交通・通信」は増加傾向が続いており、「教養娯楽」は2023年初頭までは増加が見られたが、その後はおおむね横ばいで推移している。
こうした動きからは、コロナ禍の収束に伴って消費行動が平常化する一方で、物価高によって実質的な可処分所得が目減りする中で、消費者が支出先を選別している様子がうかがえる。すなわち、食料や日用品といった日常的な支出を抑える一方で、旅行やレジャーなどの娯楽的な支出やそれに関連する支出は可能な限り維持しようとする、「メリハリ消費」の傾向が見てとれる。
なお、2025年7月に実質賃金がプラスに転じたことから、今後この「メリハリ消費」に変化が生じる可能性もある。ただし、これまでの消費者の慎重な行動パターンを踏まえると、実質賃金の改善が直ちに全般的な消費拡大につながるとは限らない。まずは娯楽関連支出の一層の回復や、これまで抑制してきた生活必需品の支出水準が徐々に正常化するといった形で表れる可能性が高い。
次節では、大まかな分類では見えにくい変化を捉えるため、景気や消費動向に比較的影響を受けやすい主な個別費目に注目する。
1 「家計調査」「家計消費状況調査」「家計消費単身モニター調査」を合成して得られた消費支出を元に、基準年(2020年)を100とする指数。2020年1月以降の値が公表されている。
したがって、二人以上世帯の(世帯当たりの)消費支出は、単身世帯と比べてやや抑制的ということになる。背景には、二人以上世帯では家賃などの固定費の占める割合が相対的に低いため、物価高が続く中で節約可能な支出の余地が大きいことが影響していると考えられる。
二人以上世帯の消費支出の内訳を見ると、2020年以降、減少傾向が続いているのは「食料」や「家具・家事用品」である。一方で、「交通・通信」は増加傾向が続いており、「教養娯楽」は2023年初頭までは増加が見られたが、その後はおおむね横ばいで推移している。
こうした動きからは、コロナ禍の収束に伴って消費行動が平常化する一方で、物価高によって実質的な可処分所得が目減りする中で、消費者が支出先を選別している様子がうかがえる。すなわち、食料や日用品といった日常的な支出を抑える一方で、旅行やレジャーなどの娯楽的な支出やそれに関連する支出は可能な限り維持しようとする、「メリハリ消費」の傾向が見てとれる。
なお、2025年7月に実質賃金がプラスに転じたことから、今後この「メリハリ消費」に変化が生じる可能性もある。ただし、これまでの消費者の慎重な行動パターンを踏まえると、実質賃金の改善が直ちに全般的な消費拡大につながるとは限らない。まずは娯楽関連支出の一層の回復や、これまで抑制してきた生活必需品の支出水準が徐々に正常化するといった形で表れる可能性が高い。
次節では、大まかな分類では見えにくい変化を捉えるため、景気や消費動向に比較的影響を受けやすい主な個別費目に注目する。
1 「家計調査」「家計消費状況調査」「家計消費単身モニター調査」を合成して得られた消費支出を元に、基準年(2020年)を100とする指数。2020年1月以降の値が公表されている。
(2025年09月17日「基礎研レポート」)
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経歴
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/09/17 | 家計消費の動向(二人以上世帯:~2025年7月)-実質賃金改善下でも「メリハリ消費」継続、娯楽支出は堅調を維持 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
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