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2025年09月16日

タイの生命保険市場(2024年版)

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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5―資産運用状況

2024年のタイ株式市場は、上半期が低調で年初来で8.1%の下落となった(図表8)。世界経済の減速懸念や政局不安などにより投資家心理が悪化、外国人投資家による資金流出も続いた。しかし、下半期に入ると、政府の新たな経済政策(デジタルウォレット、消費刺激策)や企業業績の改善が鮮明となり市場が反発した。タイの代表的な株価指数であるSET指数は小幅ながら上下動のある一年となり、通年で前年比1.1%下落する結果となった。

債券市場では、2022年から2023年にかけてタイ中銀が段階的な利上げを進めた影響により、タイ10年国債金利が2%台後半まで上昇、概ねコロナ前の水準まで戻っていたが、2024年はインフレの低下や利上げ打ち止めの影響で2%前半まで低下することとなった。

タイ生命保険会社の運用資産構成割合を見ると、2024年は公共債が62.5%、民間債が20.6%、株式等が9.6%、貸付が4.7%だった(図表9)。2024年は株価が小幅に下落する一方、金利が比較的高めの水準で推移したため、民間債や株式等のウェイトが縮小する一方で公共債のウェイトが拡大した。

運用費用を差引いたネットの運用収益は、国債や社債の安定した利息収入を中心に1,284億バーツとなり、前年から35億バーツ増加(前年比+2.8%)した。
(図表8)タイ株価と10年国債金利の推移/(図表9)資産構成比の推移

6―収支動向

6―収支動向

2024年の生命保険業の収支動向を見ると、保険料等収入が前年比+1.9%の5,905億バーツと増加した。上述の運用収益等と合わせると経常収益は同+1.9%の7,242億バーツと、小幅の増加ながら6年ぶりに過去最高を更新した(図表10)。また経常費用は事業費の増加や責任準備金等繰入等により、前年比+2.5%の6,734億バーツとなり、経常収益の伸びを上回った。結果として、経常利益は前年比▲5.7%の508億バーツとなり、3年ぶりに減少した。
(図表10)生命保険業の収支動向

7―まとめと今後の見通し

7―まとめと今後の見通し

2024年のタイ生命保険市場は前年比+3.1%となり、名目GDP成長率(前年比+3.5%)と同程度の伸びだったが、上半期の景気回復の遅れが影響して2023年の増加率(同+3.6%)を下回った。高齢化を背景に医療保険や年金保険などの販売が好調だったほか、国際金融市場における投資家心理の改善を受けて投資型保険であるユニット・リンクの販売が3年ぶりに増加した。

2025年の生保市場はどうだろうか。タイでは出生率の低下や労働力の減少により、従来の生命保険商品を必要とする潜在的な顧客が減少する一方、高齢者や老後のニーズに応える保険の需要は増加している。したがって、医療保険と年金保険が引き続き生保市場をけん引するだろう。2025年上半期(1~6月累計)のタイ生命保険料収入は前年同期比4.9%増となっており、これまでのところ順調のようにみえる。しかし、今年はトランプ関税の動向によって世界経済が混乱している。上半期は追加関税導入を控えた駆け込み輸出の増加がタイ経済を押し上げたが、下半期は駆け込み輸出の反動減や世界貿易の縮小によりタイ経済の低迷が予想される。タイ中銀は今年後半の景気減速に備えて過去1年で4回の利下げを実施しており、長期金利は低下傾向で推移している。貯蓄型保険の販売は伸び悩む可能性が高そうだ。タイ生命保険協会(TLAA)は今年の保険料収入額は+2~3%増加すると予測している。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年09月16日「保険・年金フォーカス」)

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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