2025年07月31日

2024年度生命保険決算の概要-利差益増により基礎利益は増加、国内債券は含み損だがほぼ問題なし

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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5|ソルベンシー・マージン比率~高水準を維持、一部の会社のESRも開示され、大きな変動なし
健全性の指標であるソルベンシー・マージン比率(9社合計ベース)をみたものが図表-10である。ソルベンシー・マージン総額と保有リスクとの関係を見るため、形式的に9社計で算出した比率は前年度の934.4%から887.0%へと下がってはいるが、引き続き高水準にある。
【図表-10】ソルベンシー・マージン比率(大手中堅9社計)
2024年度は、当期利益の使途でも述べたように、これまで増加していた内部留保の増加は2024年度には鈍化し、ほぼ横ばいとなった。さらに、マージンについてはのちに社外流出する配当金を差し引いて算出するので、オンバランス自己資本(貸借対照表上の資本の一部、危険準備金、価格変動準備金の合計)が減少し、その他有価証券の含み益も減少したことで、マージン全体(=分子)は減少した。

一方、リスク(=分母)の方では、資産運用リスクが減少している(さらなる詳細は不明だが、有価証券の時価下落によるリスク対象資産額の減少によるものか)。こうしてマージンとリスクがともに減少して、ソルベンシー・マージン比率は、若干低下したものの、高水準を維持している。

これまで現行方式によるソルベンシー・マージン比率の内訳をみることにより、保有リスクとそれに対する準備金等の対応状況は、ある程度窺い知ることができていたが、それに加えて、経済価値ベースのソルベンシー指標(ESR :Economic Solvency Ratio)を、大手4社グループなど一部の会社が開示し始めている。

これは新たな算出方法(例えば資産、負債とも経済価値、いわば時価ベースで評価するなど)による、会社のリスク量に対する自己資本の率である。開示された大手社の数値はおよそ200%~220%程度で、前年度から大きな変動はみられない。全社が開示するのは2025年度分からとされている。

3――かんぽ生命の状況

3――かんぽ生命の状況

かんぽ生命は他の国内大手の生命保険会社とは歴史的な経緯も異なり、規模も大きいので、別途概観しておく。
 
個人保険・個人年金保険の業績動向を見たものが図表-11である。新契約年換算保険料は、49.8%の増加となった。また、保有契約年換算保険料の減少率は▲5.5%と、近年、大手中堅9社計より減少幅が大きい傾向がある。
【図表-11】かんぽ生命の業績
【図表-12】かんぽ生命の基礎利益
基礎利益の状況は、図表-12のとおりである。

利差益については、平均予定利率は低下、基礎利回りは上昇しており、利差益は1,425億円と大幅増加となった。一方、危険差と費差の合計は減少しており、これらを合計した基礎利益は2,422億円に増加した。

かんぽ生命の資産運用は、有価証券については、国債・地方債・社債がほとんどを占めており、中でも国債の構成比が有価証券全体の76%となっている(前年度も76%)。株式への投資は、もともとほぼゼロであったものが、近年構成比を高めているが、まだ小さい。こうした点は、他の伝統的な大手中堅生保とは異なっており、安全性を重視した運用ポートフォリオとなっている(一方、9社合計では、有価証券中の国債の構成比は近年平均40%強程度)。

そうしたこともあり、基礎利回りが低い反面、ソルベンシー・マージン比率については、2024年度は893.40%と低下したが、引き続き高水準である(前年度は1,016.8%)。こうした高水準は、リスク性資産の構成割合が従来から低いことに加え、内部留保が厚いことに起因する。例えば、民営化前の旧簡易保険契約(貯金・簡易生命保険管理機構からかんぽ生命が受再している形態)を含め約1.2兆円の危険準備金を保有している。かんぽ生命を除く民間生保約40社の合計額が、ここ数年増加してきてはいても5.3兆円程度であることからも、水準の厚さがうかがえる。また逆ざやに備えるための追加責任準備金が累計で5.0兆円と、引き続き厚い水準にある。

4――トピックス 国内債券の状況と今後の各社運用方針など

4――トピックス 国内債券の状況と今後の各社運用方針など

もう少しく詳しく国内債券の保有状況と売却損益などの関連状況について、みておくことにする。
【図表-13】有価証券売却損益の資産別内訳(大手中堅9社計)
キャピタル損益をさらに内訳をみてみると、図表-13の通りである。

2024年度には国内債券の売却損が急増している。これは価格が下落(金利が上昇)した債券を売却したことによるものだが、その損失については、国内大手社の場合、全般的には好調な株式等の売却益を得ることにより、バランスを保っているようだ。また売却しただけ、国内債券の保有残高が減少しているわけではないことも図表-13でわかる。つまり、国内債券については、低い金利のものを、高い金利のものに入れ替えたということで、残高水準については維持または増加させている。
 
2024年度末時点では、ほぼすべての生命保険会社において、保有する国内債券は含み損の状況にある。しかしこのことが、各社の決算説明でもあまりとりあげられていないのは、特段の問題はないとされているからだろう。これはどういうことなのか、先の「運用環境と有価証券含み益」の項でも既に触れたが、もう少し詳しく確認しておこう。

まずは、会計上は現れないが、金利が上昇するにつれて、対応する保険負債(責任準備金)の時価ベースの評価額の方も下落しているはずなので、準備金積立の負担が実質的には小さくなっている。この保険負債と債券の対応関係は、経済価値ベースのソルベンシーでみるようになれば、問題ないことが確認できる。

負債の時価評価まで見なくとも、債券の含み損は満期まで保有すれば解消する性質のものであるから問題ないとも言える。この場合心配なのは、金利がさらに上昇して、競合する金融商品の利回りが高くなってきた時に、生命保険を解約してそちらに大量に移っていくことである。資金確保のため、満期まで債券を持てないことになるからである。

それにしても、大手の場合、株式の保有も一定程度あるので、その含み益、売却益で損失をカバーすることが可能であろう(例えば図表-4参照)。株式をほとんど持たない会社でも、これまでの各種の準備金などの内部留保でカバーできると考えられる。

といったそもそもの仕組みや準備金により、債券の含み損があってもまず問題はないといえそうである。
 
現在、超長期債は金利が上がってはいるが、これは生命保険会社が購入しないから価格が下がっている、という事情も考えられる。経済価値ベースのソルベンシー規制に対応するために、生命保険会社は長期の負債を考慮して、それに規模や年限が見合うような、ある程度長期の国債を保有する必要があった。2025年度に入り、すでに規制に対応する準備は終えているということかもしれない。2025年以降も債券と負債をマッチさせるための投資方針は、会社の負債の状況、すなわち保証利率の水準や保険期間によって、超長期債を必要とするかどうかにもよると考えられ、結果として各社により異なってくるかもしれない。

また、金利上昇を受けて、他の金融商品との競合に備えて、保険商品の予定利率が引き上げられていくこととも考えられ、すでに一部にそうした動きも現れている。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年07月31日「基礎研レポート」)

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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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