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プレコンセプションケア5か年計画始動-今後5年で認知度の引き上げと相談支援体制の充実へ、性別や世代を問わず「当事者意識の醸成」が鍵-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛
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1――はじめに
これを受けて、子ども家庭庁は、国立成育研究センターを中心とした「プレコンセプションケアの提供の在り方に関する検討会」にて3、関連する課題と対応について整理を実施したうえで、2025年5月22日に「プレコンセプションケア推進5か年計画(最終報告)」を公表するに至った4。
本稿では、この「プレコンセプションケア推進5か年計画」の概要について、基本的な考え方や今後5年間の集中的な取り組みの中身について、筆者の意見も交えながら概説する。
1 乾 愛 基礎研レポート「プレコンセプションケアとは?(3)」(2022年10月31日)
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72831?site=nli
2 「経済財政運営と改革の基本方針2024」(令和6年6月21日閣議決定)(抄)
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/19f3feb3-912a-4741-9bd9-7f523d28e971/19bf7086/20240808_councilsA_kodomonojisatsutaisaku- kaigi_19f3feb3_11.pdf
3 子ども家庭庁「プレコンセプションケアの提供のあり方に関する検討会 ~性と健康に関する正しい知識の普及に向けて~」https://www.cfa.go.jp/councils/preconception-care
4 子ども家庭庁「プレコンセプションケア推進5か年計画~性と健康に関する正しい知識の普及と相談支援の充実に向けて~」https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/355db5bf-037d-4d17-bd25-d1382da80d5f/0b580c68/20250701_councilspreconception-care_05.pdf
2――プレコンセプションケアの概念と課題に対する基本的な考え方
まず、プレコンセプションケアの起源を辿ると、元々周産期死亡率の低下や新生児予後の改善を目的とする「妊娠前のケア」という概念であったが、現在はその概念の普及拡大により捉え方も柔軟に変化してきた。現在の日本では、「性別を問わず、適切な時期に、性や健康に関する正しい知識を持ち、妊娠・出産を含めたライフデザイン(将来設計)や将来の健康を考えて健康管理を行う」という概念が基本的な考え方である。
この新しいプレコンセプションケアの概念については、適切に理解し、十分な知識を得て、実践につなげることで、現在のみならず将来の健康や、未来の家族の健康が保持増進されることとなり、自分自身の可能性(人生の選択肢)を広げることに繋がるとされている。
その一方で、調査結果によると、9割以上が「知らなかった」と回答しているため、そもそも言葉自体の認知度が低い状況にあることが分かる。筆者が健康施策推進を目的に来場した参加者に認知度を調査した際にも「プレコンセプションケア」という言葉の認知度は2割程度であったため、推進の前にまずは言葉の認知(概念の普及)が必須の条件となる。
5か年計画では、性別を問わず、全ての世代の人々がこのプレコンセプションケアという概念を知り、正しい知識を身に着けることが重要であることから、「プレコンセプションケアに関する概念の普及」を促進し、今後5年間で国民の認知度を8割程度に引き上げることが目標として設定されている。
プレコンセプションケアに関する相談内容は多岐にわたり、避妊や性感染症等の性行為に関する相談に予期せず妊娠など、非常に繊細な相談内容も想定されている。筆者が以前ご紹介したように5、相談先のひとつとして、「性と健康に関する相談センター」が存在する。この相談事業における実際の相談内容は、その他を除き、「妊娠・避妊に関する相談」が最も多く、次に「心身に関する相談」、「メンタルケア」と続いている。配置職種は保健師が最も多いが、思春期のメンタルヘルスに関する相談に対応するためには心理職やカウンセラーなどの活用も重要な視点となる。
5か年計画では、人員不足や住民のニーズに添った相談支援体制になっていないことも指摘されており、特に若い世代の方が相談しやすくなるように、今後5年間で「性と健康の相談センター事業」の自治体実施率100%を達成することが目標として示されている。
また、5か年計画では触れられていないが、プレコンセプションケアに関する国際的な指標のひとつに、「かかりつけ産婦人科をもつ割合」というものが存在する。最近では、個人医院においても思春期外来やプレコンセプションケア外来が開設されており、相談支援体制の充実を図る方法の一手段として、地域のかかりつけ産婦人科を有する割合を指標に掲げることができれば、医学的な相談支援体制を構築することが可能になると筆者は考えている。
5 乾 愛 基礎研レター「プレコンセプションケア 性と健康の相談事業とは?-令和5年4月時点で全国574か所で展開、最も多い相談内容は「妊娠・避妊に関する相談」-」(2025年4月22日)
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=81766?site=nli
糖尿病や高血圧、子宮内膜症や子宮筋腫を有する女性に対するプレコンセプションケアの提供体制についても言及されている。これは、病状に応じて妊娠の時期や内服薬の選択を含めた治療方法の調整をする必要が生じるためである。例えば、糖尿病の方が妊娠を希望する場合、妊娠前に糖尿病合併症である網膜症や腎症などがないかを確認した上で、「計画妊娠」を実行することが絶対条件となる6。糖尿病の病状が安定しないまま妊娠することは、母体の血糖コントロールが不良な状態で妊娠するため、胎児の巨大化や未熟児、呼吸不全などを招く確率が高くなったり、難産や分娩時間の遅延を引き起こす可能性が高くなるからである。また、妊娠してからも、妊娠期間を通じてインスリン療法が必要となる。妊娠前に経口血糖降下薬やGLP-1受容体作動薬を内服していた方は、胎盤を通じて胎児に薬の影響が及ぶ可能性があり、低血糖を引き起こす可能性があるため、血糖コントロールが良好な方においても妊娠期にはインスリンに療法に変更する必要が生じる。
このように、基礎疾患を有する方は、妊活や妊娠期に留意する点が多く、胎児の健康状態をも左右する可能性があるため、事前の計画妊娠や治療方法の調整が必要となる。特に、基礎疾患を治療しているかかりつけ医と産婦人科との連携体制が重要となるため、必要な連携に資する情報提供がなされることはプレコンセプションケアを展開していくうえで重要な視点であることが指摘されている。以上のことから、5か年計画では、プレコンセプションケアに関する専門的な相談ができる医療機関数を現状の60機関から200機関以上へ引き上げることが目標値として示されている。
6 東京女子医科大学 大森安恵「糖尿病をもつひとの妊娠・出産」
https://www.club-dm.jp/content/dam/Club-Dm/AFFILIATE/www-club-dm-jp/Booklet/PDF/DM_pregnancy_childbirth.pdf
3――今後5年間の集中的な取り組み
性や健康に関する正しい知識の普及と情報提供については、(1)知識の深化、(2)具体的な内容と対象について、(3)自治体・企業・教育機関での取り組みサポート、(4)普及に関わる人材という4つの視点が示されている。
(1) 知識の深化については、対象となる若年者の特性を考慮しSNS等を活用した積極的な情報発信や学習を実施することや、キャッチ―な用語を用いて概念の普及を促進するとともに、正しい概念理解を若い世代から親世代へ普及させることも期待されている。また、知識を深化するためには「生物学的性差」「社会学的文化的性差(ジェンダー)」「ライフステージや年代による変化」を考慮することが重要とされている。
(2) 具体的な内容と対象については、食事・睡眠・運動・飲酒・喫煙などの生活習慣と、健康管理に関する知識、それから妊娠と出産に向けて特に重要となる知識を、自治体・企業・教育機関と連携し提供する方針が示されている。また、若い世代からの「実際にどのような行動をとるべきか分からない」という声を考慮し一般論ではなく、参照事例等を提供し、より具体的な行動について示すべきとされている。さらに、産婦人科への心理的な受診ハードルが存在することを考慮し、学内や企業内の健康管理センター等の相談先を含めて適切対処法に関する情報提供を実施することや、受診勧奨やワクチン情報の提供をする旨が示されている。これらのことから、自治体・企業・教育機関において、性と健康に関する相談先の明確化や適切な対処方法の提示ができる環境整備が求められていることが分かる。
また、健康な妊娠と出産についての知識の深化について、胎児の重篤な疾患予防に必要な予防行動や、基礎疾患と妊娠との関係性、生活習慣が胎児に与える影響、中絶や流産に死産の実態、不妊症の受診目安や男性不妊症の実態、ライフステージを考慮したライフプランに関する知識提供が重要となる。
(3) 自治体・企業・教育機関での取り組みサポートについては、対象者の「当事者意識の醸成」や必要な情報提供を実施する観点から、自治体・企業・教育機関・関係団体等において、プレコンセプションケアに関する講演会を開催することが有用な手段であること、資料作成には国立成育医療研究センターを含めた国によるサポートが実施されることが示されている。既に、一部の自治体や企業、教育機関では、外部講師を招き、プレコンセプションケアに関するセミナーを実施している例が見られている。
(4) 普及に関わる人材育成では、地域・社会への浸透のために普及啓発を実施する人材育成のひとつとして、「プレコンサポーター」の養成を今後5年間で5万人創出することなどが示されている。プレコンサポーターターの担い手としては、自治体では、医師や保健師、助産師、看護師などの医療専門職が想定されている。企業では、産業保健スタッフや人事労務担当者、教育機関では学校医や養護教諭が想定されている。
尚、プレコンセプションケアに関する講演会や研修会の講師などは医療専門職が想定されているものの、所定の研修を修了すれば、医療職に限らずプレコンセプションケアに関する情報発信や企画立案が可能となる。
数量的な目標としては、今後5年間で、自治体(都道府県、指定都市、中核市の129自治体)における「性と健康の相談センター事業」の実施率を100%とすること、企業では健康経営度調査に回答する企業の80%がプレコンセプションケアに関する何らかの取組みを実施していること、支援を必要とする全ての教育機関がプレコンサポーターによる支援を受けられることなどが設定されている。
(2025年07月31日「基礎研レター」)
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03-3512-1847
- 【職歴】
2012年 東大阪市入庁(保健師)
2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了(看護学修士)
2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
・大阪市立大学(現:大阪公立大学)研究員(2019年~)
・東京医科歯科大学(現:東京科学大学)非常勤講師(2023年~)
・文京区子ども子育て会議委員(2024年~)
【資格】
看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者
【加入団体等】
日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会
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