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「札幌オフィス市場」の現況と見通し(2025年)

金融研究部 上席研究員 吉田 資
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日本不動産研究所「全国賃貸オフィスストック調査(2025 年1月時点)」によれば、札幌市では、新耐震基準以前(1981 年以前)に竣工したオフィスビルの割合が23%となり、大阪市や福岡市と並んで、主要都市のなかで最も高い水準にある。
こうした状況を踏まえ、札幌市は、都心部を対象とした「都心における開発誘導方針20」等を策定し、容積緩和やビルの建て替えに関する補助制度を策定した。また、北海道新幹線の全線開通(札幌駅までの延伸)が予定されていることから、札幌中心部では大規模な再開発プロジェクトが複数進行している。以下では、「札幌駅周辺」と「大通駅周辺」のオフィス開発計画を概観する。
20 開発を誘導する期間は2032年度まで。
「札幌駅周辺」では、サッポロ不動産開発が、北4条東4丁目で「創成クロス」(延床面積約1.4万m2・地上8 階建て)を開発し、2024年5月に竣工、8月に開業した21(図表-22 ①)。
今後も、「札幌駅周辺」では大規模開発が相次ぐ見込みである。ヒューリックは、「ヒューリック札幌 NORTH33 ビル」と「ヒューリック札幌ビル」をI期・II期に分けて段階的に建て替えを行い、大型複合施設「ヒューリックスクエア札幌」を開発中である。I期工事は、2022 年8月に完了し、地上11階建てのオフィスビル(延床面積約1.1万m2)が開業済みである。II期工事では、ホテル等が入る複合ビル(20階建て・延床面積約2.2万m2)が2025年9月に竣工予定である(図表-22 ②)。北二条西3丁目では、いちご地所が「THE VILLAGE SAPPORO」(延床面積約1.2万m2・地上13階建て)を開発中で、2026年4月に竣工予定である22(図表-22 ③)。
また、NTT都市開発は、北1条西5丁目の北海道放送(HBC)本社跡地において、ホテル「ハイアット セントリック 札幌」や商業施設などで構成される地上26階建ての複合高層ビル「アーバンネット札幌リンクタワー」(延床面積約6.1万㎡)を開発中で、2026年6月に竣工予定である23(図表-22 ④)。
また、JR札幌駅の東側に隣接する「北5西1・西2地区」では、JR北海道等を中心とする「札幌駅交流拠点北5西1・西2地区市街地再開発組合」25が2028年の開業を目指し、大規模複合ビルの開発を進めていた。しかし、2025年3月にJR北海道は、資材価格や人件費の高騰を受けて計画を見直し、ビルの建設を2段階に分けて行い26、全体の完成時期を2034年度に延期すると発表した27(図表-21 ⑥)。
21 サッポロ不動産開発株式会社「~創成イーストエリアに新たなビジネスの拠点として誕生~オフィス・商業ビル「創成クロス」2024年8月1日開業(2024年7月29日)
22 いちご株式会社 「札幌オフィス開発案件「THE VILLAGE SAPPORO」に「WeWork」の北海道初となる拠点開設が決定」(2025年2月4日)
23 NTT都市開発株式会社 「(仮称)札幌北 1 西5計画物件名称を「アーバンネット札幌リンクタワー」に決定 札幌市で 3 件目となる「ゼロカーボン推進ビル」認定を取得」(2024年12月12日)
24 北4西3地区第一種市街地再開発事業HP
25 [権利者]:北海道旅客鉄道株式会社、札幌駅総合開発株式会社、ジェイ・アール北海道バス株式会社、JR北海道ホテルズ株式会社、札幌市。 [参加組合員]:株式会社朝日新聞社、朝日生命保険相互会社、日本都市ファンド投資法人、芙蓉総合リース株式会社、東宝株式会社、株式会社メディカルシステムネットワーク、札幌ステーションフロント特定目的会社。
26 旧「エスタ」跡地と西2丁目を先行し整備し、2030年度の竣工を目指す。
27 北海道新聞 「札幌駅前再開発 今後の進め⽅について」(2025年3月16日)
「大通駅周辺」では、北陸銀行と北海道銀行が、大通西2丁目の北陸銀行札幌支店跡地に、「ほくほく札幌ビル」(延床面積約1.7 万m2・地上13 階建て)を開発し、2024 年2月に竣工した28(図表-23 ①)。また、京阪電鉄不動産が南3条西3丁目で「サザンクロス札幌」(延床面積約0.7 万m2・地上11 階建て)を開発し、2024 年2月に竣工した(図表-23 ②)。南3条西1丁目のディノス札幌中央ビル跡地では、東急不動産が「CONNECT SAPPORO」(延床面積約1.4万m2・地上13 階建て)を開発し、2024 年9月に竣工した29(図表-23 ③)。
また、ダイビルは、南2条西4丁目のPIVOT跡地に、「札幌ダイビル」(延床面積約4.2万m2・地上19階建て)を開発し、2027 年4月に竣工予定である31(図表-23 ⑤)。
札幌駅前通と大通が交差する「大通西4南地区」では、平和不動産が、ホテル「パークハイアット札幌」やオフィス等で構成される複合ビル(地上36階建て・延床面積約10万m2・高さ185m)を開発中で、2028年度の竣工を予定している32(図表-23 ⑥)。
28 株式会社 ほくほくフィナンシャルグループ「「ほくほく札幌ビル」の竣工について~ほくほくフィナンシャルグループの新たな拠点が誕生しました~」(2024年2月26日)
29 北海道新聞 「ディノス跡のオフィスビル完成 コネクトサッポロ 13階建て」(2024年9月4日)
30 鹿島建設株式会社「札幌4丁目プレイスHP」
31 ダイビル株式会社「札幌ダイビル再開発プロジェクトHP」
32 平和不動産株式会社「札幌都心部における「大通西4南地区第一種市街地再開発事業」権利変換計画認可のお知らせ」(2024年10月28日)
前述の新規供給見通しや経済予測、オフィスワーカー数の見通し等を前提に、2029年までの札幌のオフィス賃料を予測した。
需要面では、北海道全体の就業者数は2年連続で増加しており、人手不足感が強いなか企業の採用意欲が高まっている。以上のことを勘案すると、札幌市の「オフィスワーカー数」が大幅に減少する懸念は小さいと考えられる。ただし、札幌市の生産年齢人口は今後も減少が続く見通しであり、引き続き動向を注視する必要がある。
札幌では、コロナ禍を経てテレワークの活用が進むなか、多様な働き方に即したオフィス利用や拠点配置を検討する企業の増加が予想される。また、半導体関連投資の拡大や「金融・資産運用特区」の指定に伴い、企業進出が活発化することで、オフィス需要の拡大も期待される。
一方で、札幌市のオフィス需要を支えてきたコールセンターは、札幌市の新設・増設補助制度が2023年9月末をもって終了した。また、テレワークの普及等に伴い、コールセンターのビジネスモデルが大きく転換する可能性もあり、今後の新規需要が頭打ちするリスクに留意が必要である。
供給面では、札幌駅や大通駅周辺を中心に大規模開発計画が複数進行中である。新規供給面積は2025 年が約1.1万坪、2026 年が約1.5万坪に達する見込みで、4年連続で1万坪超の新規供給となる見通しである。以上を鑑みると、札幌の空室率は上昇傾向で推移すると見込まれる。
札幌市の成約賃料は、ファンドバブル期のピーク水準(2007年)を大きく上回り、現在は高値圏にある。今後は新規供給の増加に伴う需給緩和の影響を受けて、下落傾向で推移する見通しである。2024年の賃料を100 とした場合、2025年は「100」、2026年は「97」、2029年は「95」となると予想する(図表-25)。ただし、2024年対比で▲5%下落するものの、2022年の賃料水準(91)を上回り、大幅な賃料下落には至らない見通しである。
(2025年07月25日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
2025年7月より現職
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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