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「札幌オフィス市場」の現況と見通し(2025年)

金融研究部 上席研究員 吉田 資
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3.札幌オフィス市場の見通し
内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI3」(北海道財務局)は、コロナ禍を受けて2020年第2四半期に「▲41.8」と一気に悪化した。その後は、回復と悪化を繰り返しながら推移し、2025年第2四半期は「+1.4」となった(図表-14)。
「従業員数判断BSI4」(北海道財務支局)は、人手不足を表わす「+36.1」(2020 年第1四半期)から「+12.3」(同第2四半期)へ低下した。その後は回復に向かい、2025年第2四半期は「+35.7」となった。全国平均(+26.9)と比較して、北海道では一貫して人手不足の状況が継続している(図表-15)。
3 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感
が悪いことを示す。
4 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
札幌市の「札幌市企業経営動向調査」によれば、テレワークを活用していると回答した企業の割合(2024年度下期)は25%であった。大企業に限定すると「活用している」との回答は40%、業種別ではオフィスワーカー比率の高い「情報通信業」において87%に達している(図表-16)。
また、テレワークの効果を尋ねたところ、「従業員の育児・介護との両立」(44%)との回答が最も多く、次いで「多様な働き方の導入による人材確保、離職防止」(42%)、「災害時等(大雪や感染症の拡大等)における事業継続の観点」(36%)の順に多かった(図表-17)。
札幌においても、コロナ禍を経て、大企業やオフィスワーカー比率の高い「情報通信業」等を中心に、テレワークの活用が進んでいる。今後も、育児や介護などにより就業時間や勤務地に制約のある 人材の活躍を後押しする観点や、BCP対応からテレワークの活用が一層進むと考えられる。
自治体によるテレワーク導入支援5等にも後押しされて、テレワークの普及がさらに進展した場合、ワークプレイスの見直しや、サテライトオフィスの開設等の増加が想定され、引き続きオフィス需要への影響を注視したい。
5 「令和7年度札幌市働き方改革テレワーク導入補助金」等
札幌市は、コールセンターの運営をサポートする様々な施策を講じてきたほか、比較的オペレーターを確保しやすい環境にあることから、コールセンターの集積が進んでいる。リックテレコム「コールセンター立地状況調査」 によれば、札幌市におけるコールセンターの拠点数は84拠点(2023年度)から86 拠点(2024年度)へと増加し、地方都市の中でトップを維持している(図表-20)。ただし、札幌市の「コールセンターの新設・増設補助制度6」の新規申請受付は、2023年9月末で終了している。
また、コールセンターにおいてもテレワークの導入が広がっている。一般社団法人日本コールセンター協会「2024年度コールセンター実態調査」によれば、「在宅コミュニケーター」を採用しているとの回答は全体の54%を占めた。その導入目的としては7、「働き方の多様化」(86%)が最も多く、次いで「BCP対策」(63%)が挙げられている。今後、コールセンターのビジネスモデルは、(1)「テレワーク」の導入、(2)拠点分散による大規模コールセンターの減少、(3)AI等を活用した顧客対応の自動化など、大きく転換する可能性があり、拠点戦略の見直しを検討する企業が増加するおそれもある。
以上を鑑みると、札幌のオフィス市場において存在感を高めてきたコールセンター等の新規需要が頭打ちするリスクに留意が必要であろう。
6 「コールセンター・バックオフィス立地促進補助金」
7 「在宅コミュニケーター」の採用企業が対象。
AI 技術の進展等に伴い、半導体市場の拡大が期待されるなか、2023年2月に、半導体メーカーのラピダスが千歳市の工業団地「千歳美々ワールド」に工場を設立することを発表した。2025年4月に試作ラインの稼働を開始し、2027年に量産開始を目指すとしている8。
一般社団法人北海道新産業創造機構の推計9によれば、ラピダス立地に伴う北海道経済への波及効果は、2023年度から2036年度までの14年間累計で、約18.8兆円と試算されており、札幌のオフィス需要にもプラスの効果が期待されている。
また、半導体量産の波及効果を北海道内全域に広げることを目的に、2025年5月に、ラピダスの関連企業や自治体など36団体によって「北海道バレー10ビジョン協議会」が発足した。同協議会は、2050年までに、半導体関連企業約340社の誘致、半導体関連企業の総生産額3兆円、就業人口約2万人の実現を数値目標に掲げており、ラピダス工場近くでの新駅建設や、新千歳空港の発着枠拡大に向けた滑走路の増設といった構想も示している11。
一方、工場建設の開始に伴い、建設業における人手不足の深刻化や12、工場稼働後の電力および水不足への懸念13が指摘されている。
札幌市は、2024年5月より半導体関連の設計・研究・開発を行う企業に対して、オフィスの新設には最大1億円、増設には最大2,400万円の賃料補助の交付を開始した。半導体投資拡大がもたらすオフィス需要への影響について、引き続き動向を注視したい。
8 日本経済新聞 「ラピダス社長「年内に顧客の形みえる」 7月に試作品確認」(2025年4月1日)
9 一般社団法人北海道新産業創造機構「Rapidus 株式会社立地に伴う道内経済への波及効果シミュレーション」(2023年11月21日) ※「IIM-1」と「IIM-2」の2棟の半導体成城工場を建設したケース
10 苫小牧市と石狩市を結ぶ地域。
11 朝日新聞 「(ラピダス始動)バレー構想「340社誘致を」 協議会設立、2050年向け目標案」(2025年5月8日)
12 日本経済新聞 「縮む建設業、工事さばけず 未完了最大級15兆円 投資に影、成長下押し(チャートは語る)」(2025年6月8日)
13 朝日新聞 「(現場へ!)半導体列島、国策の行方:5 工場の水・電力、足りるのか」(2025年7月4日)
2024 年6月に、政府は、(1)東京都、(2)大阪府・大阪市、(3)福岡県・福岡市、(4)北海道・札幌市の4 都市を「金融・資産運用特区」に指定すると発表した。
「金融・資産運用特区」では、 (i)国内外の金融・資産運用業者の集積、(ii)金融・資産運用業者等による地域の成長産業の育成支援、(iii)成長産業自体の振興・育成、という観点から取組みを進めていくとしている。 また、上記の4地域は、各地域の特色を活かした特区コンセプトを掲げており、北海道・札幌市は、「GX14金融・資産運用特区」として、GXに関する資金・人材・情報が集積するアジア・世界の金融センターの構築を目指すとしている。
特区の指定を受けて、北海道と札幌市は、道外から道内に進出してGX事業を手がける企業等に対し、地方税を10年間優遇する案15を取りまとめて、2025年度中の運用開始を目指している16。また、札幌証券取引所は、ESG(環境・社会・企業統治)債に限定した機関投資家向け市場17を2025年秋に開設する予定であり、GX関連産業の集積と投資の呼び込みを目指すとしている18。
これらの施策の後押しにより、GX関連企業の進出が増加する可能性があり、札幌におけるオフィス需要の高まりが期待される。
14 グリーントランスフォーメーションの略。
15 法人道民税などの道税と法人市民税などの市税を優遇。最初の5年間は最大で全額、6年目以降は同半額を免除。GX関連事業に投資する金融事業者などは10年間にわたり最大で全額免除。
16 日本経済新聞 「GX税優遇、来年度開始めざす」(2024年11月8日)
17 「北海道ESGプロボンドマーケット」
18 日本経済新聞 「札証、ESG債市場 今秋にも開設 海外取引所と連携も 評価・格付け、上場要件に」(2025年6月21日)
19 「自動車」と「自動車の部分品」
(2025年07月25日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
2025年7月より現職
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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