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2025年07月25日

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1.はじめに

札幌のオフィス市場では、大規模ビルの竣工に伴い需給環境はやや緩和したものの、空室率は引き続き低い水準で推移し、成約賃料は前年と同水準を維持している。一方で、今後も大規模ビルの開発が複数進行している。本稿では、札幌のオフィスの現況を概観した上で、2029年までの賃料予測を行う。

2.札幌オフィス市場の現況

2.札幌オフィス市場の現況

2-1.空室率および賃料の動向
三幸エステートによると、札幌市の空室率(2025年7月時点)は3.6%となり、前年比+0.4%上昇した(図表-1)。「創成クロス」や「CONNECT SAPPORO」などの大規模ビルが竣工したことに伴い、需給環境はやや緩和したものの、空室率は引き続き低い水準で推移している。

空室率をビルの規模1別にみると、「大型3.1%(前年比▲0.4ppt)」が低下した一方、「大規模4.0%(同+0.9ppt)」、「中型3.3%(同+0.3ppt)」、「小型3.4%(同+0.7ppt)」は上昇した(図表-2)。
図表-1 主要都市のオフィス空室率/図表-2 札幌オフィスの規模別空室率
高水準の新規供給を受けて空室率がやや上昇したものの、成約賃料は前年と同水準を維持している。2024年下期の成約賃料は、前年同期比▲0.7%となった(図表-3)。
図表-3 主要都市のオフィス成約賃料(オフィスレント・インデックス)
2024年の空室率と成約賃料の動き(前年比)を主要都市で比較すると、空室率は、東京都心5区、名古屋市、福岡市が低下し、仙台市は概ね横ばい、大阪市と札幌市はやや上昇となった。また、成約賃料は、札幌市が概ね横ばい、その他の都市は上昇となった(図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した札幌市の賃料サイクル2は、2013年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」の局面が続いていたが、足元では空室率がやや上昇している(図表-5)。
図表-4 2024年の主要都市のオフィス市況変化/図表-5 札幌オフィス市場の賃料サイクル
 
1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2.オフィス市場の需給動向
三鬼商事によると、札幌ビジネス地区では、札幌駅周辺エリアにおいて、複数のビルが解体されたことに伴い、2024年末の賃貸可能面積(総供給面積)は 51.0万坪(前年比▲1.3万坪)に減少した。一方、2024年末のテナントによる賃貸面積(総需要面積)は49.1万坪(前年比▲1.5万坪)となり、空室面積は1.9万坪(前年比+0.2万坪)と前年比+15%増加した(図表-6)。
図表-6 札幌ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
表-7 札幌ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積の増減
2-3.空室率と募集賃料のエリア別動向
三鬼商事によれば、2024年末時点で最も賃貸可能面積の大きいエリアは「駅前東西地区(29.4%)」であり、次いで「駅前通・大通公園地区(23.2%)」、「創成川東・西11丁目近辺地区(16.7%)」、「南1条以南地区(15.6%)」、「北口地区(15.1%)」の順となっている(図表-8)。

賃貸可能面積は、「創成川東・西11丁目近辺地区」(前年比+0.5万坪)や「南1条以南地区」(同+0.2万坪)等で増加した一方、「駅前通・大通公園地区」(同▲1.8万坪)と「駅前東西地区」(同▲0.2万坪)で減少し、合計▲1.3万坪の減少となった。

これに対して、テナントによる「賃貸面積」は、「創成川東・西11丁目近辺地区」(前年比+0.3万坪)や「北口地区」(同+0.2万坪)等で増加した一方、「駅前通・大通公園地区」(同▲1.7万坪)と「駅前東西地区」(同▲0.3万坪)で減少し、合計▲1.5万坪の減少となった。

この結果、空室面積は、「北口地区」(前年比▲0.1万坪)等で減少した一方、「南1条以南地区」(同+0.2万坪)や「駅前通・大通公園地区」(同+0.1万坪)等で増加し、札幌ビジネス地区全体で+0.2万坪の増加となった(図表-9)。
図表-8 札幌ビジネス地区の地区別オフィス面積構成比(2024年)/図表-9 札幌ビジネス地区の地区別オフィス需給面積増分(2024年)
エリア別の空室率(2025年6月時点)を確認すると、「南1条以南地区7.6%(前年比+5.8ppt)」、「駅前通・大通公園地区2.8%(同+0.2ppt)」、「駅前東西地区2.1%(同+0.5ppt)」で上昇した一方、「北口地区4.6%(前年比▲2.8ppt)」と「創成川東・西11丁目近辺地区3.4%(同▲0.8ppt)」で低下した(図表-10左図)。

エリア別の募集賃料(2025年6月時点)は、「南1条以南地区:前年比+9.7%」、「駅前通・大通公園地区:同+4.9%」、「駅前東西地区:同+3.4%」、「創成川東・西11丁目近辺地区:同+3.3%」、「北口地区:同+0.7%」となり、いずれのエリアも上昇基調で推移している。(図表-10右図)。
図表-10 札幌ビジネス地区の地区別空室率・募集賃料の推移(月次)

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年07月25日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   上席研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所
     2025年7月より現職

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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