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2025年06月26日

自社株買いの取得期間は長期化、より柔軟な買付姿勢へ~2025年4-5月の自社株買い動向~

金融研究部 研究員 森下 千鶴

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5――なぜ買付ペースは変化したのか

こうした買付ペースの変化にはいくつかの理由が考えられる。
 
第一に、自社株買いの設定金額が年々拡大している点である。金額の増加に伴い企業の予定取得期間も長期化している。図表5は、自社株買いを設定した企業について当初計画した取得期間に設定金額を加味した平均値を年度別に集計したものである。2018年・2019年の平均予定取得期間は約6か月だったが、2022年には8カ月、2023年から2025年は9カ月と、2019年と比較して2025年には約3か月延びている。
図表5 予定取得期間は3か月延びた
第二に、企業の自社株買いに対する考え方の変化がある。2015年にコーポレートガバナンス・コードが導入された当初は、設定後できるだけ早期に買い付ける傾向が見られた。その後、2020年のコロナ禍による先行き不透明感から一時的に自社株買いが減少したが、2023年には東証が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請したことなどを受け、企業の姿勢に変化が生じた。現在では自社株買いは、株主還元に加えて資本効率の向上や政策保有株の解消など多様な目的での活用が定着してきている。こうした変化を背景に、企業は市況や株価動向を見極めながら、より柔軟かつ機動的な対応を重視するようになったと考えられる。

6――まとめ 

6――まとめ

本稿では、特に自社株買いの設定が集中する4-5月の動向について、設定額・株価反応・買付ペースの観点から振り返った。2025年4-5月の自社株買い設定額は過去最高となり、発表翌営業日の株価もプラスに反応するなど、自社株買いに対して投資家は引き続きポジティブに受け止めている様子がうかがえた。
 
買付ペースについては、企業は取得期間に余裕を持たせ、市場環境を見極めてより戦略的に買い付ける姿勢へと移行している。7月は決算発表等に加え、今年はトランプ政権の追加関税の発動の有無という市場の変動要因も控えており、仮に夏場に株価が急落するような局面があれば、自社株買いが指数の下支え要因として一段と注目される可能性がある。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年06月26日「基礎研レポート」)

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金融研究部   研究員

森下 千鶴 (もりした ちづる)

研究・専門分野
株式市場・資産運用

経歴
  • 【職歴】
     2006年 資産運用会社にトレーダーとして入社
     2015年 ニッセイ基礎研究所入社
     2020年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)

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