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2025年06月26日

自社株買いの取得期間は長期化、より柔軟な買付姿勢へ~2025年4-5月の自社株買い動向~

金融研究部 研究員 森下 千鶴

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1――はじめに

2025年4-5月のTOPIX構成銘柄の自社株買い設定額は前年同期比18%増の8.8兆円と、過去最高を記録した。株主還元に加え、資本効率の向上や政策保有株の解消など多様な目的での活用が定着してきている。本稿では4-5月の自社株買い設定額と株価反応を確認したうえで、設定額が増加するなか、実際の買付ペースに変化についても考察した。

2――自社株買いは4-5月に集中、2025年4-5月は8.8兆円

2――自社株買いは4-5月に集中、2025年4-5月は8.8兆円

自社株買いは例年、決算発表と同時期に設定されることが多く、なかでも本決算発表が集中する4-5月に設定が増加する。2025年4-5月におけるTOPIX構成銘柄の自社株買い設定額は前年同期比18%増の8.8兆円と、過去最高を記録した(図表1)。
図表1 自社株買い設定額の推移

3――自社株買い発表後の株価は堅調

3――自社株買い発表後の株価は堅調

自社株買いは理論上は株価に中立とされるが、自社の株価が割安であるとのアナウンスメント効果を伴うため、一般的に株価にプラスに作用すると考えられている。過去の分析では、自社株買いを設定した企業の株価は発表の翌営業日にTOPIXを平均2%前後上回る傾向が確認されている。

では2025年4-5月においてはどのような株価反応が見られたのだろうか。図表2は、2020年から2025年の4-5月に自社株買いを設定した企業について、設定日を基準日(0日)として、TOPIXに対する超過収益率の推移を単純平均でまとめたものである。
図表2 株価は堅調に推移
2025年4-5月に設定を発表した企業(TOPIX構成銘柄)の株価は、翌営業日に平均してTOPIXを1.6%上回り、その後もおおむね横ばいで推移した。自社株買いの発表は、引き続き投資家からポジティブに評価されているようだ。

4――取得計画に対する実際の買付ペースに変化はあるか

4――取得計画に対する実際の買付ペースに変化はあるか

ここ数年、自社株買い設定額が増加するなかで、設定後の実際の買付ペースにも変化が見られるのだろうか。筆者が2022年1に、2018年から2022年の5年間について各年4-5月に設定された自社株買いの買付の実施率を集計したところ、2020年のコロナ禍を境に企業の買付ペースに変化が見られた。全体としてはどの年もおおむね計画通りのペースで買い付けていたが、2022年においては、2018年・2019年と比較して取得計画そのものが慎重に設定され、実際の買付ペースも抑制的である傾向がみられた。
 
そこで本稿では、対象期間を2018年から2024年の7年間に拡大し、買付ペースに変化があったのか改めて確認したうえで、もし変化が見られた場合は、その背景について考察した。まず、2018年から2024年について、各年4-5月の自社株買い設定額に対する買付額の進捗率を算出した。図表3は年別に4-5月の設定額に対する買付進捗率を月次で集計し累積したものである。ただし、2020年はソフトバンクグループ、2021年はかんぽ生命保険、いずれも1社で全体の設定額に与える影響が大きかったため、今回の分析からは除外した。
図表3 設定額に対する実際の買付進捗率
図表3の結果を確認すると、最終的な買付進捗率はどの年も95%前後で推移しており、設定した上限金額に対してほぼ買い進められたことがわかる。かつて問題視された「設定だけして実施しない(かつ説明もない)」企業は減少し、現在では企業のコミットメントが実行に結びついている状況が見て取れる。設定額に対して買付進捗率がはじめて50%を超えた月を確認すると、2018年・2019年は7月、2022年は8月、2023年・2024年は9月が最初の50%超えの月となった。このように、図表3からは年が進むにつれて設定額の増加とともに、実際の買付ペースも慎重になっていることがうかがえる。
 
次に、企業の取得計画をもとに計算した月ごとの予定買付ペースを巡航速度と仮定し、それに対する実際の買付額から算出した買付率を確認した(図表4)。予定買付ペースは、各企業の設定額を当初計画された取得期間(月)で割って月次の予定取得額を算出し、それを累積して月ごとの予定取得額とした。なお、4月と5月は設定のタイミングにも依存するため、比較が容易な6月から買付率を示した。100%を超えていた場合、企業の取得計画をもとに筆者が計算した月次の予定買付ペースより多く買い付けたことを示し、100%を下回っていたら少なく買い付けていたことを示す。
図表4 企業の取得計画に対する買付率 
図表4の企業の取得計画に対する実際の買付率を見ると、2022年・2023年の6月から8月の買付率は100%を下回ってはいたものの90%は超えており、概ね計画通りのペースで推移していた。一方で2018年・2019年はより前倒しでの買付が行われていた可能性がある。2024年については6月の買付率が77%と他の年と比べて慎重だったが、9月には115%と一気に計画を上回って買付を進めている。背景には、日米の金融政策の不透明感、米国の景気後退懸念、円高、自民党総裁選を巡る思惑などにより夏場の相場が不安定となり、株価指数が7月から9月にかけて3ヶ月連続で下落したことがある。企業はこうした局面でタイミングを見計らい、株価が大きく下落した場面で自社株買いを積極化させた可能性がある。
 
1 森下千鶴『自社株買いの設定は増加も、買付ペースは慎重』ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート(2022年8月30日)

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年06月26日「基礎研レポート」)

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金融研究部   研究員

森下 千鶴 (もりした ちづる)

研究・専門分野
株式市場・資産運用

経歴
  • 【職歴】
     2006年 資産運用会社にトレーダーとして入社
     2015年 ニッセイ基礎研究所入社
     2020年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)

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