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- マスク着用のコミュニケーションへの影響(2)-コロナ禍の研究を経て分かっていること/いないこと
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2025年06月26日
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2――マスクの着用者の印象への影響:魅力、信頼感、親近感に影響がある可能性
マスク着用者の感情は周りの人に伝わりにくくなる可能性が示唆されてきたが、そのことは、マスク着用者の印象にも影響を与えている可能性がある。それでは、これまでマスク着用者の印象への影響としてはどのようなことが検証されてきているのだろうか。ここでは、マスク着用の顔の魅力への影響、信頼感への影響、親近感への影響の2つに分けて、これまで行われてきた研究を紹介する。
1|マスク着用の顔の魅力への影響
まず、マスクは着用者の顔の魅力を変化させる可能性があることが、これまでの研究で示されてきている。全体としては、マスクが顔の一部を隠すことは、魅力的でない顔の魅力を向上させる傾向があることが知られている。例えば、米国の研究者らによって行われた実験では、魅力度の高い顔、普通の顔、魅力度の低い顔を比較すると、マスクは魅力度の低い顔の魅力を最も高め、普通の顔の魅力もやや高めた一方、魅力度の高い顔の魅力を高める効果は確認されなかった12。他にも、カナダの研究者らによって行われたオンライン実験でも、マスクは魅力度の低い顔の魅力を高める効果が確認されたが、魅力度の高い顔の魅力への影響は確認されなかった13。興味深いことに同研究では、マスクに代わり顔の下半分の画像を切り取った画像を利用した場合にも同様の傾向を確認したことから、マスクが魅力度の低い顔の魅力を高める効果は、マスク特有のものではなく、顔の下半分が隠れることによるものであることを確認している。他にも、同研究では、顔の上半分を隠した場合には、魅力度の高い顔の魅力が下がり、魅力度の低い顔では魅力は変わらなかったことも報告している。
また、日本で行われた実験では、マスクは魅力度が低い顔の魅力を高める一方で、魅力度が高い顔の魅力を下げる傾向が確認されている14。この研究の研究者らは、この現象を顔が隠れることによる魅力度の平均化を用いて説明している。つまり、顔を隠すことによって、魅力度が低い顔は平均に近づくことで魅力度が高まり、魅力度が高い顔は平均に近づくことで魅力度が低下するということである。この研究はコロナ禍で行われたものであるが、同研究者らは、コロナ禍前にも同様の研究を行っており15、コロナ禍前とコロナ禍での結果の変化についても言及している。同研究者らのコロナ禍前の研究では、魅力度の低い顔の魅力度はマスクによって変化せず、魅力度の高い顔の魅力度のみマスクによって下がっていた。同研究者らは、コロナ禍前には、顔が隠れることによる魅力度の平均化に加えて、マスクが不健康な印象を与えていたためにこうした傾向が見られたのだろうと説明している。つまり、コロナ禍前には、マスクは顔に不健康な印象を与えることで、元々の顔の魅力度の高低に関わらず魅力度を低下させ、魅力度の低い顔では不健康な印象の影響が平均化の効果と相殺されることでマスクによる魅力度への影響が見られず、魅力度の高い顔のみで魅力を低下させる影響が見られたということである。一方、コロナ禍では、皆がマスクを着用するようになってマスクの不健康な印象は取り除かれ、平均化の効果のみが残ったことで、魅力度の低い顔については、マスクによって魅力度が高まる傾向が見られたというわけである。ただ同じく日本で行われた実験で、魅力度が高い顔でも魅力度が低い顔でもマスク着用が魅力度に与える影響が見られなかったことを報告している研究もあること16から、マスク着用の魅力度への影響は常に確認されているわけではないようだ。
12 Patel, V.B.S.et al. Beauty and the mask. Plastic and Reconstructive Surgery - Global Open 8(8):p e3048 (https://journals.lww.com/prsgo/fulltext/2020/08000/beauty_and_the_mask.57.aspx, 20250528 accessed)
13 Pazhoohi, F. & Kingstone, A. (2022). Unattractive faces are more attractive when the bottom-half is masked, an effect that reverses when the top-half is concealed. Cogn Res Princ Implic. 24;7(1):6. (https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8785149/, 20250528 accessed)
14 Kamatani, M. et al. (2021). Effects of masks worn to protect against COVID-19 on the perception of facial attractiveness. I-Perception, 12(3). (https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/20416695211027920, 20250528 accessed)
15 Miyazaki, Y. & Kawahara, J. I. (2016). The sanitary‐mask effect on perceived facial attractiveness. Japanese Psychological Research, 58, 261–272. (https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jpr.12116, 20250528 accessed)
16 Takehara, T. et al. (2023). Impact of face masks and sunglasses on attractiveness, trustworthiness, and familiarity, and limited time effect: a Japanese sample. Discov Psychol. 3(1):5. (https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9872742/#CR38, 20250528 accessed)
まず、マスクは着用者の顔の魅力を変化させる可能性があることが、これまでの研究で示されてきている。全体としては、マスクが顔の一部を隠すことは、魅力的でない顔の魅力を向上させる傾向があることが知られている。例えば、米国の研究者らによって行われた実験では、魅力度の高い顔、普通の顔、魅力度の低い顔を比較すると、マスクは魅力度の低い顔の魅力を最も高め、普通の顔の魅力もやや高めた一方、魅力度の高い顔の魅力を高める効果は確認されなかった12。他にも、カナダの研究者らによって行われたオンライン実験でも、マスクは魅力度の低い顔の魅力を高める効果が確認されたが、魅力度の高い顔の魅力への影響は確認されなかった13。興味深いことに同研究では、マスクに代わり顔の下半分の画像を切り取った画像を利用した場合にも同様の傾向を確認したことから、マスクが魅力度の低い顔の魅力を高める効果は、マスク特有のものではなく、顔の下半分が隠れることによるものであることを確認している。他にも、同研究では、顔の上半分を隠した場合には、魅力度の高い顔の魅力が下がり、魅力度の低い顔では魅力は変わらなかったことも報告している。
また、日本で行われた実験では、マスクは魅力度が低い顔の魅力を高める一方で、魅力度が高い顔の魅力を下げる傾向が確認されている14。この研究の研究者らは、この現象を顔が隠れることによる魅力度の平均化を用いて説明している。つまり、顔を隠すことによって、魅力度が低い顔は平均に近づくことで魅力度が高まり、魅力度が高い顔は平均に近づくことで魅力度が低下するということである。この研究はコロナ禍で行われたものであるが、同研究者らは、コロナ禍前にも同様の研究を行っており15、コロナ禍前とコロナ禍での結果の変化についても言及している。同研究者らのコロナ禍前の研究では、魅力度の低い顔の魅力度はマスクによって変化せず、魅力度の高い顔の魅力度のみマスクによって下がっていた。同研究者らは、コロナ禍前には、顔が隠れることによる魅力度の平均化に加えて、マスクが不健康な印象を与えていたためにこうした傾向が見られたのだろうと説明している。つまり、コロナ禍前には、マスクは顔に不健康な印象を与えることで、元々の顔の魅力度の高低に関わらず魅力度を低下させ、魅力度の低い顔では不健康な印象の影響が平均化の効果と相殺されることでマスクによる魅力度への影響が見られず、魅力度の高い顔のみで魅力を低下させる影響が見られたということである。一方、コロナ禍では、皆がマスクを着用するようになってマスクの不健康な印象は取り除かれ、平均化の効果のみが残ったことで、魅力度の低い顔については、マスクによって魅力度が高まる傾向が見られたというわけである。ただ同じく日本で行われた実験で、魅力度が高い顔でも魅力度が低い顔でもマスク着用が魅力度に与える影響が見られなかったことを報告している研究もあること16から、マスク着用の魅力度への影響は常に確認されているわけではないようだ。
12 Patel, V.B.S.et al. Beauty and the mask. Plastic and Reconstructive Surgery - Global Open 8(8):p e3048 (https://journals.lww.com/prsgo/fulltext/2020/08000/beauty_and_the_mask.57.aspx, 20250528 accessed)
13 Pazhoohi, F. & Kingstone, A. (2022). Unattractive faces are more attractive when the bottom-half is masked, an effect that reverses when the top-half is concealed. Cogn Res Princ Implic. 24;7(1):6. (https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8785149/, 20250528 accessed)
14 Kamatani, M. et al. (2021). Effects of masks worn to protect against COVID-19 on the perception of facial attractiveness. I-Perception, 12(3). (https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/20416695211027920, 20250528 accessed)
15 Miyazaki, Y. & Kawahara, J. I. (2016). The sanitary‐mask effect on perceived facial attractiveness. Japanese Psychological Research, 58, 261–272. (https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jpr.12116, 20250528 accessed)
16 Takehara, T. et al. (2023). Impact of face masks and sunglasses on attractiveness, trustworthiness, and familiarity, and limited time effect: a Japanese sample. Discov Psychol. 3(1):5. (https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9872742/#CR38, 20250528 accessed)
2|マスク着用の信頼感への影響
また、世界各国の実験では、マスク着用が信頼感に与える影響について、正負両方の影響が報告されている17。こうした正負両方の影響が見られる理由として、社会規範の変化が指摘されている。実際に、オーストラリアで2020年から2023年にかけて3回の継続調査を行った研究では、マスク非着用の顔については、2020年から2023年の間に信頼感に変化が無かったが、マスクを着用した顔については、2020年にはマスク非着用の顔よりも信頼感が高く評価されていた。一方、2022年と2023年の調査では、マスクを着用した顔と非着用の顔の間で評価される信頼感に違いは見られなかった。これらの結果から、この論文の著者らは、コロナ禍では社会的な規範によって、マスク着用は信頼感を高める傾向が見られたのではないかと分析している17。
一方、社会規範への意識が強いと思われる日本で、コロナ禍の2020年と2022年に行われた実験において、マスクは信頼感を下げる影響があったという報告もある16。同研究では、サングラスの影響も検証されており、サングラスが信頼感を下げる影響は、マスクの影響よりもさらに大きかった。他にも、2021年にシンガポールの研究者らで行われた実験では、大人の異性を見た際には、マスクが信頼感を下げる影響があったことを報告している18。また、ドイツでコロナ禍に行われた実験でも、マスクが信頼感を下げる影響が確認されたことが報告されている19。こうした結果は、コロナ禍での社会的規範以外の要素によっても、マスクの影響が変化する可能性を示唆するものである。こうした要素には、マスクが顔の魅力に与える影響と同様に、平均化の効果が存在する可能性がある。実際に、中国で行われた実験では、信頼感が元々高い顔の人について、マスクをした時に信頼感が下がる傾向が確認されている20。
17 Oldmeadow, J. A., & Gogan, T. (2024). Masks wearing off: Changing effects of face masks on trustworthiness over time. Perception, 53(5-6), 343-355. (https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/03010066241237430?icid=int.sj-full-text.similar-articles.9#bibr15-03010066241237430, 20250528 accessed)
18 Gabrieli, G. & Esposito, G. (2021). Reduced perceived trustworthiness during face mask wearing. Eur. J. Investig. Health Psychol. Educ. 11, 1474-1484. (https://www.mdpi.com/2254-9625/11/4/105, 20250528 accessed)
19 Biermann, M. et al. (2021). Trustworthiness appraisals of faces wearing a surgical mask during the Covid-19 pandemic in Germany: An experimental study. PLoS ONE 16(5): e0251393. (https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0251393, 20250528 accessed)
20 Wang, W. et al. (2024). Influence of protective clothing and masks on facial trustworthiness in an investment game: insights from a Chinese population study. Cogn. Research 9, 36. (https://cognitiveresearchjournal.springeropen.com/articles/10.1186/s41235-024-00565-7, 20250528 accessed)
また、世界各国の実験では、マスク着用が信頼感に与える影響について、正負両方の影響が報告されている17。こうした正負両方の影響が見られる理由として、社会規範の変化が指摘されている。実際に、オーストラリアで2020年から2023年にかけて3回の継続調査を行った研究では、マスク非着用の顔については、2020年から2023年の間に信頼感に変化が無かったが、マスクを着用した顔については、2020年にはマスク非着用の顔よりも信頼感が高く評価されていた。一方、2022年と2023年の調査では、マスクを着用した顔と非着用の顔の間で評価される信頼感に違いは見られなかった。これらの結果から、この論文の著者らは、コロナ禍では社会的な規範によって、マスク着用は信頼感を高める傾向が見られたのではないかと分析している17。
一方、社会規範への意識が強いと思われる日本で、コロナ禍の2020年と2022年に行われた実験において、マスクは信頼感を下げる影響があったという報告もある16。同研究では、サングラスの影響も検証されており、サングラスが信頼感を下げる影響は、マスクの影響よりもさらに大きかった。他にも、2021年にシンガポールの研究者らで行われた実験では、大人の異性を見た際には、マスクが信頼感を下げる影響があったことを報告している18。また、ドイツでコロナ禍に行われた実験でも、マスクが信頼感を下げる影響が確認されたことが報告されている19。こうした結果は、コロナ禍での社会的規範以外の要素によっても、マスクの影響が変化する可能性を示唆するものである。こうした要素には、マスクが顔の魅力に与える影響と同様に、平均化の効果が存在する可能性がある。実際に、中国で行われた実験では、信頼感が元々高い顔の人について、マスクをした時に信頼感が下がる傾向が確認されている20。
17 Oldmeadow, J. A., & Gogan, T. (2024). Masks wearing off: Changing effects of face masks on trustworthiness over time. Perception, 53(5-6), 343-355. (https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/03010066241237430?icid=int.sj-full-text.similar-articles.9#bibr15-03010066241237430, 20250528 accessed)
18 Gabrieli, G. & Esposito, G. (2021). Reduced perceived trustworthiness during face mask wearing. Eur. J. Investig. Health Psychol. Educ. 11, 1474-1484. (https://www.mdpi.com/2254-9625/11/4/105, 20250528 accessed)
19 Biermann, M. et al. (2021). Trustworthiness appraisals of faces wearing a surgical mask during the Covid-19 pandemic in Germany: An experimental study. PLoS ONE 16(5): e0251393. (https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0251393, 20250528 accessed)
20 Wang, W. et al. (2024). Influence of protective clothing and masks on facial trustworthiness in an investment game: insights from a Chinese population study. Cogn. Research 9, 36. (https://cognitiveresearchjournal.springeropen.com/articles/10.1186/s41235-024-00565-7, 20250528 accessed)
3|マスク着用の親近感への影響
マスク着用の親近感への影響についても、世界各国で、正負の両方の報告がある。例えば、ドイツ人を対象に行われた実験では、マスク着用の信頼感や好ましさへの影響は確認されなかったが、親近感を下げる影響が見られた21。また、日本で行われた実験でも、コロナ禍がはじまったばかりの2020年の段階では、マスクは親近感を低下させる影響が確認されたものの、2022年に行われた同様の実験では、マスクが親近感を低下させる影響は確認されなかった16。一方、英国の研究者たちによって行われたオンライン実験や、ドイツの研究者によって行われたオンライン実験では、マスク着用は、親近感を高める影響が確認された22,23。さらに、フランス人を対象とした実験には、コロナ禍でのマスクの着用は、対人距離を縮めることを示した研究もある24。
21 Grundmann, F. et al. (2021). Face masks reduce emotion-recognition accuracy and perceived closeness. PLoS ONE 16(4): e0249792. (https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0249792, 20250528 accessed)
22 Guo, K. et al. (2022). Impact of face masks and viewers' anxiety on ratings of first impressions from faces. Perception. 51(1):37-50. (https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8772253/#:~:text=The%20results%20revealed%20that%20face,participants%20with%20higher%20trait%20anxiety., 20250528 accessed)
23 Lau, W. K. (2021). Face masks bolsters the characteristics from looking at a face even when facial expressions are impaired. Front. Psychol. 12:704916. (https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2021.704916/full, 20250528 accessed)
24 Cartaud, A. et al. (2020). Wearing a face mask against Covid-19 results in a reduction of social distancing. PLoS ONE 15(12): e0243023. (https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0243023, 20250528 accessed)
マスク着用の親近感への影響についても、世界各国で、正負の両方の報告がある。例えば、ドイツ人を対象に行われた実験では、マスク着用の信頼感や好ましさへの影響は確認されなかったが、親近感を下げる影響が見られた21。また、日本で行われた実験でも、コロナ禍がはじまったばかりの2020年の段階では、マスクは親近感を低下させる影響が確認されたものの、2022年に行われた同様の実験では、マスクが親近感を低下させる影響は確認されなかった16。一方、英国の研究者たちによって行われたオンライン実験や、ドイツの研究者によって行われたオンライン実験では、マスク着用は、親近感を高める影響が確認された22,23。さらに、フランス人を対象とした実験には、コロナ禍でのマスクの着用は、対人距離を縮めることを示した研究もある24。
21 Grundmann, F. et al. (2021). Face masks reduce emotion-recognition accuracy and perceived closeness. PLoS ONE 16(4): e0249792. (https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0249792, 20250528 accessed)
22 Guo, K. et al. (2022). Impact of face masks and viewers' anxiety on ratings of first impressions from faces. Perception. 51(1):37-50. (https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8772253/#:~:text=The%20results%20revealed%20that%20face,participants%20with%20higher%20trait%20anxiety., 20250528 accessed)
23 Lau, W. K. (2021). Face masks bolsters the characteristics from looking at a face even when facial expressions are impaired. Front. Psychol. 12:704916. (https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2021.704916/full, 20250528 accessed)
24 Cartaud, A. et al. (2020). Wearing a face mask against Covid-19 results in a reduction of social distancing. PLoS ONE 15(12): e0243023. (https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0243023, 20250528 accessed)
3――おわりに
本項では、周りの人々の感情や印象といった、広い意味でのコミュニケーションへのマスク着用の影響について、コロナ禍を経た研究蓄積から示されてきたことを紹介した。前項で紹介した個人識別や感情認識、音声認識といったコミュニケーションに直接的に関わる側面に比べると、本項で紹介した側面のマスクの影響については、研究蓄積も少なく、報告されている研究の正負のばらつきが大きい印象を受ける。コロナ禍前に行われた実験では、マスク/帽子/サングラスの着用は、コミュニケーション全体への影響はほぼ確認されなかったことを報告した研究もある25。このように正負様々な影響が確認されることからは、これまで解明されていないなんらかの要因によって、マスクの影響が変化する可能性が示唆される。この要因には、コロナ禍でのマスク着用に対する社会規範の変化、マスクが物理的に顔を隠すことの影響、不健康さ等マスク自体の印象による影響、マスク着用による感染拡大予防効果に対する個々人の認識の違い等様々な点が考えられるだろう。
マスクは個人識別、感情識別、音声識別を難しくする可能性があり、実際にマスクのコミュニケーションへの影響は、人々のストレスになるものとして報告されることが多い26。しかし、マスクが感情の伝達に与える影響についてはまだわかっていない点も多く、マスク着用が個々人に与える印象については、正の報告も珍しくない。さらに、顔のみの静止画を使った実験でマスクがコミュニケーションを妨げる傾向が確認されたとしても、人物全体を見たり、動画を使ったりした実験では、そうした影響が軽減されている報告もあり、実社会でコミュニケーションを妨げる影響は大きくない可能性が示唆される。そのため、マスクは必ずしもコミュニケーションに悪影響を与えるものとして性急に結論づけられるものではないという指摘もなされている23。個々人が自分にとって心地よい選択をし、お互いの選択を尊重していくことが重要といえるだろう。
25 Crandall, C. S. et al. (2022). Do masks affect social interaction? J Appl Soc Psychol. 6:10.1111/jasp.12918. (https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/jasp.12918, 20250528 accessed)
26 Galvin, K. L. et al. (2022). Effects of widespread community use of face masks on communication, participation, and quality of life in Australia during the COVID-19 pandemic. Cogn. Research 7, 88. (https://cognitiveresearchjournal.springeropen.com/articles/10.1186/s41235-022-00436-z, 20250528 accessed)
マスクは個人識別、感情識別、音声識別を難しくする可能性があり、実際にマスクのコミュニケーションへの影響は、人々のストレスになるものとして報告されることが多い26。しかし、マスクが感情の伝達に与える影響についてはまだわかっていない点も多く、マスク着用が個々人に与える印象については、正の報告も珍しくない。さらに、顔のみの静止画を使った実験でマスクがコミュニケーションを妨げる傾向が確認されたとしても、人物全体を見たり、動画を使ったりした実験では、そうした影響が軽減されている報告もあり、実社会でコミュニケーションを妨げる影響は大きくない可能性が示唆される。そのため、マスクは必ずしもコミュニケーションに悪影響を与えるものとして性急に結論づけられるものではないという指摘もなされている23。個々人が自分にとって心地よい選択をし、お互いの選択を尊重していくことが重要といえるだろう。
25 Crandall, C. S. et al. (2022). Do masks affect social interaction? J Appl Soc Psychol. 6:10.1111/jasp.12918. (https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/jasp.12918, 20250528 accessed)
26 Galvin, K. L. et al. (2022). Effects of widespread community use of face masks on communication, participation, and quality of life in Australia during the COVID-19 pandemic. Cogn. Research 7, 88. (https://cognitiveresearchjournal.springeropen.com/articles/10.1186/s41235-022-00436-z, 20250528 accessed)
(2025年06月26日「基礎研レター」)
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経歴
- 【職歴】
2010年 株式会社 三井住友銀行
2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
2021年7月より現職
【加入団体等】
日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
博士(国際貢献、東京大学)
2022年 東北学院大学非常勤講師
2020年 茨城大学非常勤講師
岩﨑 敬子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/06/26 | マスク着用のコミュニケーションへの影響(2)-コロナ禍の研究を経て分かっていること/いないこと | 岩﨑 敬子 | 基礎研レター |
2025/06/23 | マスク着用のコミュニケーションへの影響(1)-コロナ禍の研究を経て分かっていること/いないこと | 岩﨑 敬子 | 基礎研レター |
2025/06/19 | マスク着用のメンタルヘルスへの影響(2)-コロナ禍の研究を経て分かっていること/いないこと | 岩﨑 敬子 | 基礎研レター |
2025/06/16 | マスク着用のメンタルヘルスへの影響(1)-コロナ禍の研究を経て分かっていること/いないこと | 岩﨑 敬子 | 基礎研レター |
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