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2024年12月24日
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はじめに
2024年の衆議院選挙では、「手取りを増やす。」を政策に掲げた国民民主党が躍進した。同党では、「給料が上がったけど、税金や社会保険料が高くなって、結局手取りが増えない」といった声を取り上げつつ、手取りを増やして消費拡大につなげることが重要だと訴えている1。
本稿では、日本の手取りはどうなっているのかについて、主にマクロ統計を利用し、また適宜他国の状況についても調査した。
1 国民民主党の政策2024(2024年12月23日アクセス)。
本稿では、日本の手取りはどうなっているのかについて、主にマクロ統計を利用し、また適宜他国の状況についても調査した。
1 国民民主党の政策2024(2024年12月23日アクセス)。
国民移転勘定(NTA)
労働収入と消費の関係を見ると、図表1や図表5からも分かるように現役世代(男性)の消費は労働収入の範囲内でなされているが、若年世代や高齢世代においては、労働収入を上回る消費がされている(NTAでは労働収入を上回る消費部分を「ライフサイクル不足」と呼んでいる)。特に高齢世代の消費額は、労働収入を得られる現役世代と比較しても多いほどである。若年世代でも時期によっては現役世代の消費額を上回る。これらは、主に現役世代からの移転や年金、貯蓄の取り崩しなどで補填される3。
なお、NTAの消費には、個人が実際に金銭を支払っていない財・サービスの消費も含まれる。例えば、教育や医療(いずれも自己負担しない部分)、公共サービスや防衛などが該当する4。これらは、財・サービスに対して本人が直接には金銭的な負担をしていないため、消費していると感じる人は少ないかもしれない5。しかし、いずれも個人が便益を享受するものであり、NTAではその金額が消費として計上されている6。
消費の内訳を見ると分かるように、若年世代は主に保育や教育への支出、高齢世代は医療や介護への支出が一定割合を占める(表紙図表2・図表6)7。これらは、前述したように必ずしも本人が金銭的な負担をしているわけではなく、税や社会保険などを通じて主に現役世代に負担が移転されている8。もちろん、若年世代や高齢世代は、こうした公的サービスのほかにも衣食住をはじめとした一般の財・サービスに金銭を支払って消費している。これらは、若年世代であれば親の負担、高齢世代であれば年金や貯蓄の取り崩しといった形で賄われている9(もちろん、図表の数値は年齢層内での1人あたりの平均値であり、個別には消費を上回る労働収入を得ている高齢世代も存在する)。
こうした状況は海外でも同様である。やや古いデータになるが10、アメリカ、ドイツ、フランス、スウェーデンの状況を各国のNTAの推計データから確認すると、金額の多寡は異なるが、年齢別の労働収入と消費の関係は類似しており、若年世代や高齢世代は消費に占める公的サービスの割合が多い傾向にある(図表7-10)。
なお、NTAの消費には、個人が実際に金銭を支払っていない財・サービスの消費も含まれる。例えば、教育や医療(いずれも自己負担しない部分)、公共サービスや防衛などが該当する4。これらは、財・サービスに対して本人が直接には金銭的な負担をしていないため、消費していると感じる人は少ないかもしれない5。しかし、いずれも個人が便益を享受するものであり、NTAではその金額が消費として計上されている6。
消費の内訳を見ると分かるように、若年世代は主に保育や教育への支出、高齢世代は医療や介護への支出が一定割合を占める(表紙図表2・図表6)7。これらは、前述したように必ずしも本人が金銭的な負担をしているわけではなく、税や社会保険などを通じて主に現役世代に負担が移転されている8。もちろん、若年世代や高齢世代は、こうした公的サービスのほかにも衣食住をはじめとした一般の財・サービスに金銭を支払って消費している。これらは、若年世代であれば親の負担、高齢世代であれば年金や貯蓄の取り崩しといった形で賄われている9(もちろん、図表の数値は年齢層内での1人あたりの平均値であり、個別には消費を上回る労働収入を得ている高齢世代も存在する)。
こうした状況は海外でも同様である。やや古いデータになるが10、アメリカ、ドイツ、フランス、スウェーデンの状況を各国のNTAの推計データから確認すると、金額の多寡は異なるが、年齢別の労働収入と消費の関係は類似しており、若年世代や高齢世代は消費に占める公的サービスの割合が多い傾向にある(図表7-10)。
2 国民移転勘定(NTA)プロジェクト。以下、日本のNTA関連のデータは国立社会保障・人口問題研究所「日本の国民移転勘定(NTA)データ」(https://www.ipss.go.jp/projects/NTA/index.html (2024年11月22日ダウンロード))を利用している。2019年の国民移転勘定の詳細は、国立社会保障・人口問題研究所一般会計プロジェクト(2024)「平成 26(2014)/令和元(2019)年度の
国民移転勘定(NTA)の結果」『国民移転勘定(NTA)プロジェクト 令和 5(2023)年度 研究報告書』を参照。
3 NTAでは、「ライフサイクル不足(余剰)」は「移転」と「資産再配分」を通じて融通されると捉えられている。移転は税や社会保障等を通じた現金・現物の融通、資産再配分は資産収入と貯蓄から構成されている(NTAでは企業の利益(営業余剰)も株を通じて資産収入となり個人に融通されているとみなされている)。
4 SNA(GDP統計)の政府最終消費支出に相当する部分。NTAでは公的消費と呼ばれている。
5 SNA(GDP統計)ではいずれも政府が財・サービスを購入するという形になっている。
6 なお、NTAでは公共サービスや防衛など国民が等しくサービスを受けていると考えられるものは、年齢にかかわらず均等に消費されていると仮定されている。
7 図表における「現物」標記は、政府からの金銭的な給付金ではなく、財・サービスの現物を直接給付するという意味。いずれも本人は直接の金銭負担をしていない。
8 消費税など現役世代だけでなく、幅広く国民が負担するものもあるが、全体でみると現役世代から若年・高齢世代に補填されている。
9 NTAでは、親の負担は「私的移転(世帯間移転や世帯内移転)」、年金は公的年金であれば「公的移転(年金)」、(個人の)貯蓄の取り崩しは「私的資産再配分(私的貯蓄)」に分類される。
10 米国のデータはNational Transfer Accounts (NTA) project、欧州のデータはIstenič, T., Hammer, B., Šeme, A., Lotrič Dolinar, A., & Sambt, J. (2016). European National Transfer Accountsから取得した。
「天引き」と「手取り」
いわゆる「手取り」といった場合、給与所得者が得る給与のうち、所得税や社会保険料といった金額が「天引き」された後の収入を指す。手取りは給与所得者にとっては、労働の対価として目に見える形で受け取ることができる金銭と言える。
マクロ統計では、GDP統計をはじめとする国民経済計算(SNA:System of National Accounts)において労働の対価として「雇用者報酬」の金額が集計されている。ただし、雇用者報酬には事業者が支払う社会保険料の負担が含まれ、これは事業者が負担する「人件費」に相当する(なお、NTAにおける労働収入には雇用者報酬に加え自営業者の労働収入も含まれている)。ここから事業者が支払う社会保険料等(SNAでは「雇主の社会負担」と呼ばれている)を除いた金額がいわゆる「額面」となる。この額面からさらに本人が負担する社会保険料や所得税の源泉徴収分などが除かれたものが直接受け取ることができる「手取り」となる。
SNAでは手取りに近い概念として「可処分所得」(現物社会移転以外の再分配後の所得)が集計されているが、この数値は国全体での合計されており、現役世代の支払(負担)と若年・高齢世代の受取(現金での給付)が相殺されている11。
そこで、本稿では現役世代の手取りを、NTAの労働収入(自営業者の労働収入を含む)をベースに、事業者の社会保険料負担(雇主の社会負担)、個人所得税12、健康保険13・介護保険14・年金15・雇用保険の保険料(いずれも本人負担)などを控除16して試算した(表紙図表3、図表11(男女別)、なお図表11では参考として主に現金で給付される移転も記載した17)。なお、税は天引きされる所得税と住民税のみ考慮している。所得税は給与所得以外にも課されるが、ベースとなる雇用者報酬には資産収入などは含まれないため、手取りの計算においては所得税のうち給与所得にかかる源泉徴収分等を簡易的に試算している(社会保障の財源としては消費税(付加価値型税)や相続税(資本税)などその他の税も考える必要があるが、天引きされる性質がないことから考慮していない)。また、自営業者には天引きや手取りの概念がないが、給与所得者における手取り計算を参考にしつつ社会保険料のみ除いた金額としている18。
マクロ統計では、GDP統計をはじめとする国民経済計算(SNA:System of National Accounts)において労働の対価として「雇用者報酬」の金額が集計されている。ただし、雇用者報酬には事業者が支払う社会保険料の負担が含まれ、これは事業者が負担する「人件費」に相当する(なお、NTAにおける労働収入には雇用者報酬に加え自営業者の労働収入も含まれている)。ここから事業者が支払う社会保険料等(SNAでは「雇主の社会負担」と呼ばれている)を除いた金額がいわゆる「額面」となる。この額面からさらに本人が負担する社会保険料や所得税の源泉徴収分などが除かれたものが直接受け取ることができる「手取り」となる。
SNAでは手取りに近い概念として「可処分所得」(現物社会移転以外の再分配後の所得)が集計されているが、この数値は国全体での合計されており、現役世代の支払(負担)と若年・高齢世代の受取(現金での給付)が相殺されている11。
そこで、本稿では現役世代の手取りを、NTAの労働収入(自営業者の労働収入を含む)をベースに、事業者の社会保険料負担(雇主の社会負担)、個人所得税12、健康保険13・介護保険14・年金15・雇用保険の保険料(いずれも本人負担)などを控除16して試算した(表紙図表3、図表11(男女別)、なお図表11では参考として主に現金で給付される移転も記載した17)。なお、税は天引きされる所得税と住民税のみ考慮している。所得税は給与所得以外にも課されるが、ベースとなる雇用者報酬には資産収入などは含まれないため、手取りの計算においては所得税のうち給与所得にかかる源泉徴収分等を簡易的に試算している(社会保障の財源としては消費税(付加価値型税)や相続税(資本税)などその他の税も考える必要があるが、天引きされる性質がないことから考慮していない)。また、自営業者には天引きや手取りの概念がないが、給与所得者における手取り計算を参考にしつつ社会保険料のみ除いた金額としている18。
表紙図表3を見ると、50代中盤にかけて1人あたり労働収入が増加、それにあわせて雇主の社会負担や天引きが増加していくことが分かる。手取り金額も労働収入と同じように増加するものの、ピーク年齢では労働収入(企業の負担する人件費)515万円に対して額面は439万円(労働収入比85%)、労働者が受け取る手取りは368万円(労働収入比71%、額面比84%)となり、実際に受け取る金額は、企業の人件費負担額の約7割となっている19。男女別に見ても、天引きなどは異なるが、平均的には人件費の15%程度が事業者の支払う社会保険料、10%強が天引きとなっている(図表11・12)。これは、男女別や主に労働収入を得る層(22才(4年制大学卒業相当)から65才(定年相当))に限って見ても同様である(図表12)。
11 なお、現物給付も含めた所得は「調整可処分所得」(現物社会移転を含む再分配後の所得)という項目で集計されている。
12 国税庁「第145回 国税庁統計年報 令和元年度版」を参考に源泉徴収分(個人住民税の特別徴収分を含む)を個人所得税の57%として試算。
13 国民健康保険および被用者保険の本人負担。
14 NTAでは本人負担分の推計値は公表されていないが、「2022年度(令和4年度)国民経済計算年次推計」を参考に本人負担を77%として試算。
15 国民年金および厚生年金・共済組合年金の本人負担。
16 これらの他の企業が独自で天引きしている項目(社宅費や企業独自の積立金など)は考慮していない。
17 現金給付として年金、労災保険、雇用保険、児童手当などを含めた。保険医療や介護などは現物給付のため含めていない。
18 NTAでは年齢別人口のみ公表されており、年齢別の雇用者数データは推計されていないため、雇用者1人あたりの金額は直接計算できない。本稿では、1人あたりの手取りを算出する上で、自営業者についても手取り相当額を試算した上で人口1人あたりの金額を計算するという方法を用いた(この方法とは別に、年齢別の自営業者を除いた雇用者数を推計した上で、雇用者1人あたりの手取りを計算する方法も考えられる)。
19 NTAについては、本稿執筆時点では時系列データが公表されていないが、1984年から2014年までのNTAの変遷を分析した論文が公表されている。Fukai, T., Fukuda, S., Ichimura, H. et al. National Transfer Accounts (NTA) in Japan: 1984−2014. JER 75, 779–821 (2024)。この論文では、23-39才の年齢層では他の年齢層と比較して(1人あたりの)労働収入の伸びが高いものの、公的移転の負担が重いために当該年齢層の2004年以降の(1人あたりの)消費の伸びは、他の年齢層と比較して最も低いことなどを指摘している。
11 なお、現物給付も含めた所得は「調整可処分所得」(現物社会移転を含む再分配後の所得)という項目で集計されている。
12 国税庁「第145回 国税庁統計年報 令和元年度版」を参考に源泉徴収分(個人住民税の特別徴収分を含む)を個人所得税の57%として試算。
13 国民健康保険および被用者保険の本人負担。
14 NTAでは本人負担分の推計値は公表されていないが、「2022年度(令和4年度)国民経済計算年次推計」を参考に本人負担を77%として試算。
15 国民年金および厚生年金・共済組合年金の本人負担。
16 これらの他の企業が独自で天引きしている項目(社宅費や企業独自の積立金など)は考慮していない。
17 現金給付として年金、労災保険、雇用保険、児童手当などを含めた。保険医療や介護などは現物給付のため含めていない。
18 NTAでは年齢別人口のみ公表されており、年齢別の雇用者数データは推計されていないため、雇用者1人あたりの金額は直接計算できない。本稿では、1人あたりの手取りを算出する上で、自営業者についても手取り相当額を試算した上で人口1人あたりの金額を計算するという方法を用いた(この方法とは別に、年齢別の自営業者を除いた雇用者数を推計した上で、雇用者1人あたりの手取りを計算する方法も考えられる)。
19 NTAについては、本稿執筆時点では時系列データが公表されていないが、1984年から2014年までのNTAの変遷を分析した論文が公表されている。Fukai, T., Fukuda, S., Ichimura, H. et al. National Transfer Accounts (NTA) in Japan: 1984−2014. JER 75, 779–821 (2024)。この論文では、23-39才の年齢層では他の年齢層と比較して(1人あたりの)労働収入の伸びが高いものの、公的移転の負担が重いために当該年齢層の2004年以降の(1人あたりの)消費の伸びは、他の年齢層と比較して最も低いことなどを指摘している。
(2024年12月24日「Weekly エコノミスト・レター」)
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03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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