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医師の偏在是正はどこまで可能か-政府内で高まる対策強化論議の可能性と選択肢

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳
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医師の偏在是正を巡る議論が政府内で盛り上がりを見せている。これまでも医学部の教育プロセスから偏在是正に努める制度として、都道府県による「医師確保計画」が2020年度から本格的にスタートするなど、国・自治体の施策が展開されていた。
しかし、2024年4月のNHK番組で、厚生労働相だった武見敬三氏が地域ごとの医師数の割り当てなど、「規制的手法」の必要性に言及したことで、関係者の注目を集めた。その後、武見氏の考え方が反映された「近未来健康活躍社会戦略」が2024年8月に公表され、(1)医師確保計画の深化、(2)医師の確保・育成、(3)実効的な医師配置――を柱とする偏在是正策の方向性が示された。今後、これを基に2024年末までに政策パッケージが示されることになっている。
しかし、そもそも医師偏在問題は「古くて新しい問題」であり、クリアカットな解決策は存在しない。しかも、営業の自由を保障した憲法との整合性が問われるほか、様々な利害対立が起きるため、関係者の合意形成も難しい。本稿では医師の偏在是正を巡る議論とか、これまでの施策を整理した上で、今後の制度改正に向けた論点や選択肢をいくつか検討する。
具体的には、営業の自由との関係など規制的手法や、財政支援など経済的インセンティブの論点を整理するとともに、その限界も指摘する。さらに、パソコンの画面越しに医師が患者を診断するオンライン診療も含めて、都道府県が大学医学部や地区医師会、市町村などと連携しつつ、様々な手立てを有効に活用する重要性も論じる。このほか、中長期的な選択肢として、人口が減っても医療サービスを持続的に提供できるような地域別報酬の可能性を検討するとともに、その利害得失も整理する。
■目次
1――はじめに
2――「偏在」という言葉の意味
3――これまでの医師偏在是正策
1|国民皆保険が確立すると……
2|医学部定員の臨時増加
3|2008年度の地域枠創設
4|医学教育からの関与を目指した2018年の法改正
5|外来医療計画による開業時の要請
6|専門研修制度におけるシーリング
7|医学部定員を削減しつつ、偏在是正を目指す動き
8|地方勤務経験の要件化など、その他の施策
9|自治体独自の対策
4――偏在是正策の評価
5――医師偏在を巡る最近の動向(1)~武見氏の唐突な発言~
6――医師偏在を巡る最近の動向(2)~財務省の提案~
1|地域別診療報酬制度の活用を要請
2|財務省提案に対する反応
7――医師偏在を巡る最近の動向(3)~骨太方針策定までの動き~
8――医師偏在を巡る最近の動向(4)~武見氏のプランと推進本部の設置~
1|近未来戦略の公表
2|推進本部の設置
9――検討組織で示された制度改正の論点と方向性
10――厚生労働省の案に対する反応
1|6項目に及ぶ日医の提案
2|日医の提案と近未来戦略などとの共通点
3|経済的なインセンティブと規制的手法を巡るせめぎ合い
4|地域間の潜在的な利害対立
5|管理者要件の拡大などの論点
11――今後の選択肢を考える
1|規制的手法を巡る論点
2|経済的インセンティブを巡る論点
3|中堅医師のリカレント、マッチングなど、その他の施策案を巡る論点
4|オンライン診療の活用など
5|人口減少を見据えた中長期的な対策
12――おわりに
(2024年11月11日「基礎研レポート」)
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- プロフィール
【職歴】
1995年4月~ 時事通信社
2011年4月~ 東京財団研究員
2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
2023年7月から現職
【加入団体等】
・社会政策学会
・日本財政学会
・日本地方財政学会
・自治体学会
・日本ケアマネジメント学会
【講演等】
・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)
【主な著書・寄稿など】
・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数
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