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増え行く単身世帯と消費市場への影響-家計消費は2025年頃をピークに減少、2050年には現在の1割減、うち単身世帯が3割、高齢世帯が半数へ

生活研究部 上席研究員 久我 尚子
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さて、世帯構造が変わることで家計消費に占める各世帯の割合も変わるわけだが、家計消費額全体で見るとどのように推移するのだろうか。下記の手順にて、家計消費額を推計した。
(1) 2023年までは、内閣府「国民経済計算(GDP統計)」の国内家計最終消費支出に対して、図表4で得た世帯類型の割合を乗じて、各世帯の年間消費額を算出する。
(2) 2025年以降は、各世帯について2023年の値を基に世帯数の増減を考慮して推計し、各世帯の年間消費額を算出し、合計値を得る。
その結果、国内家計最終消費支出は2025年頃(316.2兆円)をピークに減少に転じ、2045年(290.0兆円)には300兆円を下回り、2050年(279.5兆円)にはピーク時より約1割減少する。なお、二人以上世帯は2023年(228.7兆円)頃、単身世帯は2035年(93.2兆円)頃、60歳以上の高年齢世帯は2040年(145.0兆円)頃、高年齢の単身世帯は2045年(42.8兆円)をピークに減少していく。
この要因を捉えるために、国内家計最終消費支出の増減について世帯類型別に寄与度分解をすると、2023年頃までは国内家計最終消費支出の増加には二人以上世帯の70歳以上や60歳代、女性の高年齢層を中心とした単身世帯の寄与が大きい傾向がある。一方、2025年以降は、引き続き高年齢の単身世帯は増加に寄与するものの、高年齢の二人以上世帯は減少に寄与するようになる。また、減少には40歳代や50歳代の二人以上世帯の寄与が目立つほか、30歳代や若年男女単身世帯も減少に寄与するようになる。
つまり、これまでは高齢夫婦世帯や単身世帯などの世帯人員の少ない世帯が増えて消費がかさむ効果(世帯人数が少ない方が一人当たりの家賃や食費が高くなり、家計の効率性が低い)が人口減少による消費減少効果を上回ることで、国内家計最終消費支出は増えていた。一方で2025年以降は、世帯当たりの消費額の多い家族世帯(40~50歳代)の減少による消費減少効果が、世帯のコンパクト化によって消費がかさむ効果を上回るようになるとともに、2030年以降は総世帯数自体が減少することで、国内家計最終消費支出は減少していく。
なお、本稿における推計では、各世帯の消費額は2023年並みとして、世帯数の変化のみを考慮している。一方で、2000年以降、世帯当たりの可処分所得は2015年前後を底に足元では増加傾向にあるものの、消費支出は減少している世帯類型が多い状況や、コロナ禍前は若い世代の消費性向の低下が指摘されていたこと3などを考慮すると、国内家計最終消費支出の将来推計値は今回の値より少なく、早い時期から減少に転じる可能性もある。
3 例えば、コロナ禍前は、内閣府「平成29年第5回経済財政諮問会議 資料2-2消費の持続的拡大に向けて」などにおいて、若い世代の消費性向の低下や可処分所得の減少が観測指摘されていた。一方、総務省「家計調査」にて二人以上世帯の世帯主の年齢別の状況を見ると、消費行動の再開などから消費性向は上昇している。
4――おわりに~2050年の家計消費は単身が3割、シニアが半数、世帯構造変化に対応した供給を
家計消費における単身世帯の存在感も増しており、現在は家計消費全体の2割程度だが、2035年頃に3割を超え、2050年には31.5%となる。また、高年齢世帯の存在感も増し、60歳以上の二人以上世帯と単身世帯を合わせた高年齢世帯が家計消費に占める割合は現在では約4割だが、2050年には45.9%となる。
さらに、国内家計最終消費支出を世帯類型別に分解して将来推計を行うと、2025年頃(316.2兆円)までは世帯のコンパクト化で消費がかさむために国内家計最終消費支出は増えていくが、その後は世帯当たりの消費額が多い壮年世帯が減ることを主因に減少に転じ、2050年(279.5兆円)にはピーク時より約1割減少する。なお、2023年では単身世帯は85.6兆円、60歳以上の高年齢世帯は133.3兆円だが、単身世帯は2035年(93.2兆円)頃、高年齢世帯は2040年(145.0兆円)頃まで増え続ける。
つまり、これまでは高齢夫婦世帯や単身世帯などの世帯人員の少ない世帯が増えて消費がかさむ効果(世帯人数が少ない方が家賃や食費がかさみ家計の効率性が低い)が人口減少による消費減少効果を上回ることで、国内家計最終消費支出は増えていた。一方で2025年以降は、世帯当たりの消費額の多い40~50歳代などの家族世帯の減少による消費減少効果が、世帯のコンパクト化によって消費がかさむ効果を上回るようになるとともに、2030年以降は総世帯数自体が減少することで、国内家計最終消費支出は減少していく。なお、この推計では消費額は2023年並みとし、世帯数の変化のみを考慮したものであるため、実際にはより少ない値となり、より早い時期から減少に転じる可能性もある。
日本の消費市場の縮小に歯止めをかけるには、図表9に示したように、可処分所得は一時期より増えているものの消費支出が減少している状況に加えて、今後とも増え行く単身世帯像を丁寧に捉え、単身世帯ならではのニーズに合う商品・サービスを拡充することが有効だ。
ひと昔前は、単身世帯と言えば若い男女のひとり暮らしの印象が強かっただろうが、現在は高齢女性と壮年男性が半数を占め、将来的には高齢男女が増えていく。今後、単身世帯の消費市場を考える際、まずは多くが高齢者であるという量的な感覚を押さえる必要がある。また、単身世帯で共通の消費志向に加えて、性年代などの属性による違いに留意した商品・サービスを提供することが肝要だ。次稿では単身世帯の具体的な消費内容を分析する予定である。
(2024年06月12日「基礎研レポート」)
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- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
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