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- 補助金政策の問題点-高所得者ほど負担軽減額が大きくなる
2023年11月08日
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円安、原油高が再び進んでいることを受けて、政府は2023年9月までとしていた激変緩和措置(電気代、都市ガス代、ガソリン、灯油等の価格抑制策)を年末まで延長することを決定した。補助金を使った政府の対策は、物価高による家計の負担を和らげる効果がある一方で、様々な問題がある。
例としては、特定産業だけが救済されるという不公平が生じる(電力・ガス会社、石油元売り会社と同様にコスト増の影響を受けている食品会社には補助金が出ない等)、やめるタイミングが難しい、市場価格がゆがめられる、財政負担が膨らむ、などが挙げられる。
家計の立場から考えると、特定の品目に対して補助金を投入すると、それを使う人と使わない人の間に不公平が生じるという問題がある。たとえば、日常的に自動車に乗っている人はガソリン使用量が多いため、補助金による負担軽減額が大きくなるが、自動車を使わない人にとっては全く恩恵がない。補助金は政府部門から民間部門への所得移転を意味するが、その所得を稼ぐのは最終的には民間部門である。したがって、ある品目を対象にした補助金政策はそれを使用していない人から使用している人への所得移転をもたらしているにすぎないという見方もできる。
総務省統計局の「家計調査」によれば、電気代、都市ガス代、ガソリン、灯油の購入世帯割合はそれぞれ87%*1、44%、60%、14%である(2022年1~12月の平均)[図表1]。都市ガス代、灯油については半数以上の世帯が全く使っていない。
例としては、特定産業だけが救済されるという不公平が生じる(電力・ガス会社、石油元売り会社と同様にコスト増の影響を受けている食品会社には補助金が出ない等)、やめるタイミングが難しい、市場価格がゆがめられる、財政負担が膨らむ、などが挙げられる。
家計の立場から考えると、特定の品目に対して補助金を投入すると、それを使う人と使わない人の間に不公平が生じるという問題がある。たとえば、日常的に自動車に乗っている人はガソリン使用量が多いため、補助金による負担軽減額が大きくなるが、自動車を使わない人にとっては全く恩恵がない。補助金は政府部門から民間部門への所得移転を意味するが、その所得を稼ぐのは最終的には民間部門である。したがって、ある品目を対象にした補助金政策はそれを使用していない人から使用している人への所得移転をもたらしているにすぎないという見方もできる。
総務省統計局の「家計調査」によれば、電気代、都市ガス代、ガソリン、灯油の購入世帯割合はそれぞれ87%*1、44%、60%、14%である(2022年1~12月の平均)[図表1]。都市ガス代、灯油については半数以上の世帯が全く使っていない。
たとえば、ガソリンの支出額は所得が最も高い第V階級(年間収入1207万円)と所得が最も低い第I階級(年間収入259万円)では2倍以上の開きがある。激変緩和措置における補助率は一定なので、支出金額が多い世帯ほど負担軽減策の恩恵を受けることになる。
ガソリン補助金は2022年1月下旬から、電気・都市ガス代の補助金は2023年1月使用分(2月検針分)から実施されている。家計調査を用いて、世帯当たり(二人以上世帯)の負担軽減額を所得階級別に試算すると、平均的な世帯の負担軽減額(2022年1月~2023年8月)は4.4万円(うち電気代2.2万円、ガソリン1.4万円、都市ガス代0.4万円、灯油0.4万円)となった。所得階級別には、第V階級の負担軽減額が5.2万円と最も大きく、第I階級の負担軽減額が3.6万円と最も小さくなっている[図表3]。
ガソリン補助金は2022年1月下旬から、電気・都市ガス代の補助金は2023年1月使用分(2月検針分)から実施されている。家計調査を用いて、世帯当たり(二人以上世帯)の負担軽減額を所得階級別に試算すると、平均的な世帯の負担軽減額(2022年1月~2023年8月)は4.4万円(うち電気代2.2万円、ガソリン1.4万円、都市ガス代0.4万円、灯油0.4万円)となった。所得階級別には、第V階級の負担軽減額が5.2万円と最も大きく、第I階級の負担軽減額が3.6万円と最も小さくなっている[図表3]。
このように、現在行われている補助金政策には高所得者ほどその恩恵が大きくなるという問題がある。今回の物価上昇局面では、食料品の伸びが特に高く、その支出割合が高い低所得者層により厳しいものとなっている。こうした状況への対応として補助金政策は必ずしもふさわしいとは言えない。低所得者層により手厚い支援が可能な所得制限付きの給付金支給のほうが適切な政策と考えられる。
*1 ほとんどの世帯が電気を利用していると考えられるが、家計簿に電気代の記入をしていない世帯があること、家賃等に電気代が含まれている世帯があること、自家発電の世帯があることなどから、購入世帯割合は100%を大きく割り込んでいる。
*1 ほとんどの世帯が電気を利用していると考えられるが、家計簿に電気代の記入をしていない世帯があること、家賃等に電気代が含まれている世帯があること、自家発電の世帯があることなどから、購入世帯割合は100%を大きく割り込んでいる。
(2023年11月08日「基礎研マンスリー」)

03-3512-1836
経歴
- ・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職
・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員
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