2023年06月07日

FSOC(金融安定監督評議会)がノンバンクSIFI指定に関する解釈ガイダンスの改定等を提案-ノンバンクSIFIの指定復活の動き-

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1―はじめに

米国のFSOC(Financial Stability Oversight Council:金融安定監督評議会)は、4月21日に「金融安定性リスクに関する分析フレームワーク」の提案、及び「ノンバンク金融会社の決定に関する解釈ガイダンス」の新たな提案をパブリックコメントのために公表している。

これは、2019 年のトランプ政権下で行われたノンバンク金融会社に対するSIFIs(systemically important financial institutions:システム上重要な金融機関) 指定のフレームワークに加えられた変更の主要項目を撤回し、2019年以降、実質的に廃止されていたノンバンクSIFI指定の復活を求める提案となっている。なお、パブリックコメント期間は、連邦公報による公開後60日間ということで6月27日までとなっている。

今回のレポートでは、これらの提案の概要等について、報告する。

2―FSOCによるノンバンクSIFI指定を巡るこれまでの経緯

2―FSOCによるノンバンクSIFI指定を巡るこれまでの経緯

ここでは、まずは今回のFSOCの提案に至るまでの、ノンバンクSIFI指定を巡るこれまでの経緯やノンバンクを巡る規制強化を巡る背景等について、簡単に紹介してお1
 
1 米国におけるFSOCによるノンバンクSIFI指定を巡る状況については、これまで例えば、保険年金フォーカス「PrudentialがSIFI指定解除され、米国におけるノンバンクSIFIがゼロに-FSOCの公表内容と関係者の反応等―」(2018.10.22)、保険年金フォーカス「FSOC(金融安定監督評議会)が新たなノンバンクSIFI指定ガイダンスを提案-FSOCの提案内容と関係者の反応―」(2019.4.19)や保険年金フォーカス「FSOC(金融安定監督評議会)が新たなノンバンクSIFI指定最終ガイダンスを発行-ガイダンスの概要と関係者の反応―」(2019.12.17)等で報告してきている。
1|ドッド・フランク法によるFSOCの設立とSIFIの指定
ドッド・フランク・ウォール街改革及び消費者保護法(ドッド・フランク法)は、ノンバンク金融会社の重大な財務的苦境又は会社の性質、範囲、規模、スケール、集中度、相互関連性、又は活動の組み合わせが、米国の金融の安定性に脅威をもたらす可能性があると決定した場合に、評議会がノンバンク金融会社をFRB(連邦制度準備理事会)の監督及び健全性基準のために指定する権限を与えている。

2007年から2009年の金融危機の際、金融危機は全体として複雑で、相互関連性が高く、レバレッジが高く、規制が不十分であったノンバンク金融会社が金融システムを壊滅させた。議会は、この金融危機の際に明らかになった規制のギャップを埋めるために、2010年にSIFIの指定機関であるFSOCを設立した。

2012 年、評議会はノンバンク金融会社の指定に対する評議会の手順(procedures)とアプローチを説明した最終の規則と解釈ガイダンスを発行した。

これを受けて、FSOCは、AIG、MetLife、Prudential Financialの3つの保険会社をSIFIに指定したが、その後の各社の指定解除や指定取消に向けた動き等を受けて、2018年までに3社のSIFI指定の解除や取消が行われた2
 
2 AIGは、2013年7月に指定、2017年9月に指定解除、Prudential Financialは2013年9月に指定、2018年10月に指定解除、MetLifeは2014年12月に指定されたが、これに対する異議申し立て裁判を経て、最終的にはFSOCとMetlifeが和解して、2018年1月に指定の取消が確定した。なお、ノンバンク金融会社としては、GE Capitalも2013年7月に指定されたが、金融資産売却等の事業再編により、2016年6月に指定解除されている。
2|2019年のSIFI指定の解釈ガイダンスの改訂
一方で、FSOCは、2019 年に、保険会社等のノンバンク金融会社のシステミックリスクを監視する活動ベースのアプローチを導入し、2012 年の解釈ガイダンスを修正した。この解釈ガイダンスにより、特定の会社が提示するリスクを優先させるのではなくて、特定の事業活動がもたらすリスクや業界全体がどのようにリスクをもたらすのかという観点からのアプローチに焦点が当てられるようになった。また、特定の会社をSIFIに指定するためには、厳密な費用収益分析等やより効率的で効果的な指定プロセスを通じて、より高い信頼性、確実性、透明性を持って、FSOCが説明していくことが求められてくることになった。従って、そのハードルは相当に高くなったことから、保険会社を含めたノンバンク金融会社に対するSIFIの指定は、実質的に難しい状況になっていた。
3|ノンバンク金融会社を巡る最近の状況
こうした状況に対して、規制当局や議員、さらには格付会社等からは、問題視する意見も見られていた。例えば、民主党のElizabeth Warren上院議員は、2008年の金融危機を引き起こしたのは、リーマン・ブラザーズやAIG等のいくつかのノンバンクであり、これらのノンバンクをSIFIに指定し、銀行等と同様に監視していくべきだったのに、2019年の修正はノンバンクを監督するFSOCの権限を弱体化させた、として非難していた。また、格付け会社は、米国においていまだ正式なグループ資本規制がない中での巨大な保険会社等に対するFRBによる監督の有益性を述べていた。

こうした中で、FRBが毎年公表している金融安定性報告書3では、長く続いた低金利環境下で、生命保険会社における流動性の低い資産やリスク性の高い資産の割合が高まり、その流動性リスクやレバレッジが高まってきていることが指摘されていた。例えば、2023年5月の金融安定性報告書4によれば、過去10年間に、生命保険会社の資産流動性は着実に低下(流動性の低い社債、オルタナティブ投資等の割合が増加)し、負債流動性は緩やかに上昇(非伝統的負債の割合が増加)してきたため、生命保険会社は保険金の請求や解約の急増に対応することが難しくなってきている可能性がある、ということが指摘されていた。

また、PE(プライベート・エクイティ)所有の保険会社が買収やバックブック取引等を通じて増加する中で、PEファンドは従来の保険会社よりもリスクの高い戦略を採用していることも指摘されてきた。

(保険会社に限らず、ヘッジファンド等の)ノンバンク金融会社の位置付けが高まってきている中にあって、流動性リスクやレバレッジが高まっているノンバンクが、急激な金利上昇局面で脆弱になっている可能性があるとして、これらのノンバンク金融会社に対する規制強化を求める声が高まってきていた。

(参考)米国におけるPE保有の保険会社を巡る動向
米国では、低金利環境の長期化で、予測可能で安定的な保険料収入等が得られることから、PEが、特に生命保険事業や年金事業に魅力を感じて、保険会社の合併・買収を積極化させてきた。これらのPEが保有する保険会社は、より高いリターンを求めて、より高いリスク、より不安定な流動性の低い資産にシフトしてきたとされている。

NAIC(全米保険監督官協会)もPEが保有する保険会社の増加等に伴い、これらの会社が有する特徴的な資産配分や利害関係等のビジネスモデルから発生するマクロプルーデンスや会社の健全性等の懸念される諸課題に対応するために、これらの保険会社に適用される (ただし排他的ではない) 13の規制上の考慮事項のリストを作成し、これらに対処する作業計画を進めている。
4|今回の解釈ガイダンスの修正提案
今回新たに提案された解釈ガイダンスは、2019 年のガイダンスを改訂及び更新するものである。提案されたガイダンスが最終決定されれば、12 CFR 13105の付録 A にある 2019 年のガイダンスが置き換えられることになるが、12 CFR 1310.1-.23 の評議会規則は変更されない。この提案された解釈ガイダンスにより、評議会はドッド・フランク法第 113 条に基づくノンバンク金融会社の指定のための永続的なプロセスの確立を目指している。
 
5 Code of Federal Regulations Title12 Part1310(特定のノンバンク金融会社の監督と規制を世給する権限)の付録A(ノンバンク金融会社決定のためのFSOCガイダンス)
 eCFR :: 12 CFR Part 1310 -- Authority to Require Supervision and Regulation of Certain Nonbank Financial Companies

3―今回のFSOCによる提案の概要

3―今回のFSOCによる提案の概要

FSOCのプレスリリース資料6によれば、今回の提案の概要は、以下の通りとなっている。
1|金融安定リスクの分析フレームワーク7
この新しいフレームワークは、リスクが活動又は企業に起因するかどうかに関係なく、評議会が金融の安定性に対する潜在的なリスクをどのように特定、評価、及び対処するかについて、より高い透明性を一般に提供することを目的としている。
2|ノンバンク金融会社の決定に関する解釈ガイダンス8
FRBの監督及び強化された健全性基準のためにノンバンク金融会社を指定するための評議会の手続きに関する新しく提案された解釈ガイダンスは、評議会の既存のガイダンスに取って代わるものであり、ノンバンク金融会社を指定するかどうかを検討する際に評議会がとる手続き上のステップを説明している。
3|財務長官のコメント
Janet L. Yellen財務長官は、以下のように述べている。

「本日の提案は、評議会が金融システムへのリスクを特定、評価、対処するための厳格なアプローチを確保するために重要だ。」「評議会は、その作業に関する公共の透明性に引き続きコミットしており、今日の提案により、金融システムに対するリスクが活動又は企業から発生するかどうかにかかわらず、より適切に対処できるようになるだろう。」

また、FSOCにおける発言9の中で、以下のように述べている。

「私たちは、ノンバンク指定権限の利用を困難にしている評議会の既存のガイダンスの特定の要素の修正を提案している。2019年に発行された既存のガイダンスでは、指定プロセスの一環として不適切なハードルが設けられていた。これらの追加手順は、ドッド・フランク法によって法的に義務付けられていない。また、それらは役に立たず、実現可能でもない。金融危機がどのように始まるのか、また金融危機が引き起こすコストについては、誤った見方に基づいているものもある。これらの手順を伴う指定プロセスが完了するまでに 6 年かかる可能性があると推定されている。これは非現実的なスケジュールであり、評議会が手遅れになる前に金融安定に対する新たなリスクに対処する行動をとれない可能性がある。」
4|評議会の提案
評議会が提案した行動は、次の通りである。
 

・金融安定性リスクに対処する評議会の能力を強化する。金融システムは進化を続けており、過去の危機は、金融システムが不安定化する前に、金融の安定性に対するリスクに対処するために果断に行動できることが重要であることを示している。新たに提案されたガイダンスは、リスクの原因が何であれ、理事会が米国の金融安定性に対するリスクに対処するために、法定権限の全てを適切に活用できるようにするのに役立つ。

・評議会がその職務をどのように遂行するのかについて国民に透明性を提供する。評議会は初めて、米国の金融安定性に対する潜在的なリスク(そのリスクが活動や個別の企業などに起因するものであるかどうか)をどのように特定し、評価し、対応するかを広範に説明するフレームワークを発行することを提案している。このフレームワークは、金融システムを通じてショックが発生し伝播す る可能性がある一般的な脆弱性と伝播経路を概説している。また、評議会がこれらのリスクに対処するために使用するツールをどのように検討しているかについても説明している。

・厳格かつ透明性のある指定プロセスを確保する。提案されているノンバンク金融会社解釈ガイダンス案は、審査対象の会社との重要な双方向関与を含む強力なプロセスを引き続き提供することになる。これらのプロセスは、審査対象の企業の管理上の負担を最小限に抑えながら、評議会の分析を聞いて理解する十分な機会を提供する。さらに、別の提案された分析フレームワークは、ノンバンク金融会社の指定が金融安定性リスクの監視と軽減に対する評議会の広範なアプローチにどのように適合するかを説明している。

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中村 亮一

研究・専門分野

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