2023年01月13日

貸出・マネタリー統計(22年12月)~銀行貸出は堅調を維持、今後は貸出金利の動向に注目

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向:銀行貸出は堅調維持、今後は貸出金利の動向に注目

(貸出残高)                                                                  
1月12日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、昨年12月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比3.02%と前月(同2.98%)をわずかに上回った。(小数点以下第2位まで見た場合)伸び率の上昇は7ヵ月連続となるが、11月以降は伸び率の拡大が鈍化している(図表1)。従来は、円安の進行による外貨建て貸出の円換算額の増加が伸び率を嵩上げしていたが、11月から円高が進んだことで、嵩上げ部分が縮小しているとみられる。一方、為替の影響を除いた実質的な伸びは引き続き拡大していると推測される。コロナ禍からの経済活動再開や原材料・燃料価格高騰(による仕入れコスト増)などが資金需要の増加を通じて貸出増加に繋がっていると考えられる(図表1・3)。

業態別では、都銀の伸び率が前年比3.09%(前月は3.00%)とやや上昇したが、地銀(第2地銀を含む)の伸び率が同2.97%(前月は2.96%)とほぼ横ばいに留まった(図表2)。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3) ドル円レートの前年比(月次平均)/(図表4)貸出先別貸出金
なお、12月下旬の決定会合において、日銀が長期金利の許容上限を引き上げた結果、10年国債利回り等の市場金利が上昇している。一昨年以降直近(昨年11月分)にかけて、国内銀行の新規貸出平均金利(長期)は概ね0.7%台での横ばい圏で推移してきたが、足元では住宅ローン金利(固定型)の引き上げなど貸出金利引き上げの動きがみられる。1月以降の貸出金利がどれだけ上昇するかという点は、銀行貸出や収益、ひいては日本経済の先行きを考えるうえで注目される(図表5・6)。
(図表5)国内銀行の新規貸出平均金利/(図表6)国内銀行の平均貸出金利(ストック)

2.マネタリーベース:日銀の資金供給量は底入れ

1月5日に発表された12月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比▲6.1%となり、前月(同▲6.4%)からマイナス幅がやや縮小した(図表7)。前年割れは4カ月連続ながら、2カ月連続でマイナス幅が縮小している。

当月の縮小の主因はマネタリーベースの約7割を占める日銀当座預金の伸び率がマイナス幅を縮小した(前月▲8.5%→当月▲8.1%)ことである。12月も日銀の緩和縮小観測を背景とする市場の金利上昇圧力が極めて強く、金利の上昇を抑えるために日銀が指し値オペ等で国債買入れを続けたことを受けて、長期国債買入れ額は16.2兆円と過去最高であった6月の規模にほぼ並んだ(図表8)。また、制度の一部打ち切りに伴うコロナオペの残高減少(当月▲0.4兆円)は既に残高が大きく縮小したことに伴って一服しており、当座預金が減りにくくなっていた面もある。

その他の内訳では、日銀券発行高の伸びが前年比2.7%(前月は2.9%)、貨幣流通高の伸びが前年比▲4.2%(前月は▲3.8%)とそれぞれ低下したことがマネタリーベースの伸び率抑制に働いた(図表7)。貨幣の減少幅拡大については、小口決済のキャッシュレス化進展に加え、銀行等での硬貨預け入れ手数料の広がりによって、家庭での貯金需要が減少しているためとみられる。

なお、12月のマネタリーベースは季節性や月内の動きを除外した季節調整済み系列(平残)で見ると、前月比+6.5兆円(前月は同+8.0兆円)と2カ月連続で増加している(図表10)。マネタリーベースの実勢としては底入れがうかがわれる。
 
コロナオペの残高は昨年3月の86.8兆円をピークとして既に10.4兆円まで減少し、減少余地が縮小していることに加え、日銀の緩和縮小観測が続いて日銀の国債買入れ額が膨らみやすいことから、当面はマネタリーベースの緩やかな増勢(前年比でのマイナス幅縮小)が予想される。
(図表7) マネタリーベースと内訳(平残)/(図表8)日銀の国債買入れ額(月次フロー)/(図表9)マネタリーベース残高の伸び率/(図表10)マネタリーベース残高と前月比の推移

3.マネーストック:市中通貨量の伸びがさらに鈍化

1月13日に発表された昨年12月分のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比2.93%(前月は3.13%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同2.50%(前月は2.66%)と、ともに2カ月ぶりに低下した(図表11)。伸び率の水準はM2、M3ともに2020年2月以来の低水準にあたる。

M3の内訳では、最大の項目である預金通貨(普通預金など・前月5.3%→当月5.0%)の伸び率が大きく低下したほか、CD(譲渡性預金・前月▲1.3%→当月▲5.9%)のマイナス幅が拡大し、全体の伸び率低下に繋がった。一方、準通貨(定期預金など・前月▲1.6%→当月▲1.4%)の伸び率はマイナス幅をやや縮小、現金通貨(前月2.6%→当月2.6%)の伸びは横ばいであった(図表12・13)。
(図表11) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表12) 現金・預金の伸び率
既述の通り、銀行貸出は堅調に増勢を続けており、その分預金も創造されているものの、資源・エネルギー輸入の高止まりによって多額の貿易赤字が続いていることが通貨量の伸び率鈍化に働いているとみられる。
(図表13)投資信託・金銭の信託・準通貨の伸び率 広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率も前年比3.63%(前月は3.85%)とM2やM3と同様に低下した(図表11)。

内訳では、既述の通り、M3の伸びが低下したほか、規模の大きい金銭の信託(前月7.3%→当月7.0%)や投資信託(私募やREITなども含む元本ベース、前月3.6%→当月3.5%)、外債(前月25.6%→当月22.1%・為替変動の影響を含む)の伸び率も低下し、全体の伸び率の押し下げ要因となった。一方、国債(前月5.8%→当月6.4%)、伸びが上昇基調にあり、一定の下支えとなっている。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2023年01月13日「経済・金融フラッシュ」)

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