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取り残される対面型サービス業-新型コロナウイルスの感染者数、死亡者数とワクチンの効果をどうみるか

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎
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● 取り残される対面型サービス業
2021年1月に再発令された緊急事態宣言の影響は、2020年4、5月の緊急事態宣言時と異なり一部の分野にとどまっている。

このように、日本経済は全体としては新型コロナウイルスの打撃から立ち直りつつあるが、営業時間短縮要請や外出自粛などの影響を強く受ける対面型サービス業は完全に取り残されている。
1 各統計の業種分類によって対面型サービス業の範囲は異なる
緊急事態宣言は解除されたものの、一部の地域でまん延防止等重点措置が適用されるなど、対面型サービスを取り巻く環境は依然として厳しい。
日本は諸外国に比べてワクチン接種が遅れている。ワクチン接種が本格化すればソーシャルディスタンスの確保等が不要となり、外食、旅行などの対面型サービス消費が急回復するとの見方もあるが、過度の期待は禁物だ。
今回のワクチンは、極めて短期間で開発されたこともあり、有効性や副反応が未知数ということもあるが、それ以上に日本は欧米と比べて感染者数、死亡者数が圧倒的に少ないため、ワクチン接種によって受けることのできる恩恵が相対的に小さいという問題がある。
現時点では、人口100万人当たりの新型コロナウイルスの累積感染者数は米国の9.3万人に対して日本は0.4万人、累積死亡者数は米国の1,679人に対し、日本は73人である(2021/4/5時点)。累積感染者数、累積死亡者数ともに米国の約4%にすぎない(図表4、5)。
たとえば、ワクチンの有効性2が90%と仮定した場合、ワクチンによって救われる命は米国が1,511人(1,679×0.9)に対して、日本は66人(73×0.9)となる。一方、ワクチンには一定の副反応がある。副反応を考慮した上でワクチン接種に意味があるのは、ワクチンによって命が救われる人がワクチンの副反応によって亡くなる人よりも多い場合である。米国では副反応によって亡くなる人が100万人当たり1,511人未満であれば、ワクチンの効果はネットでプラスとなる。これに対し、日本では亡くなる人が100万人当たり66人未満でなければ、ワクチンの効果はネットでプラスとならない。米国は新型コロナによる死亡者数が多いので、副反応に対する許容度が高いのに対し、もともとの死亡者数が少ない日本では副反応に対する許容度が低いのである。
2 ワクチンの有効性はワクチン接種した人と接種しなかった人の罹患率の比率で求められる。また、副反応は死亡に限らないが、ここでは話しを単純化するために、死亡率を用いて議論する
ワクチンの効果が相対的に小さいことは必ずしも悲観的に考える必要はない。むしろ、ワクチンの効果が小さくなるほど新型コロナウイルスによる被害が小さいことを肯定的に捉えるべきだ。
日本では、新型コロナウイルスの流行前は、インフルエンザで毎年1,000万人以上の感染者が発生していたが、新型コロナウイルスの感染者数は1年以上が経過して約50万人である3(図表6)。死亡者数はインフルエンザの約3,000人に対して、新型コロナウイルスは約9,000人と多いが、これは2020年6月18日に厚生労働省から出された事務連絡4において、新型コロナウイルス感染症の陽性者で、入院中や療養中に亡くなった方については、厳密な死因を問わず、速やかに報告するよう求めていることが影響している可能性がある。たとえば、従来であれば肺炎や癌による死と報告されていた事例であっても、PCR検査で陽性反応が出れば、新型コロナウイルスによる死とされているのである。
新型コロナウイルス感染症は感染者、死者のカウントの仕方が従来と異なるため、その深刻度を把握しにくい。従来と同じ基準で考えるためには、新型コロナウイルスの感染拡大によって全体の死亡者が増えたかどうかを見る必要がある。
日本ではインフルエンザで毎年約1,000万人が感染し、約3,000人が亡くなっていた。それでも学級閉鎖や一時休校などを除いて特別な社会・経済活動の制限が行われなかったのは、一定程度の感染や死が社会的に許容されていたためと考えられる。感染症をゼロにすることは基本的に不可能であり、ワクチン接種の進展が対面型サービスの救世主になるとは限らない。新型コロナウイルスについて、日々の増減に一喜一憂するだけでなく、社会的にどこまで許容されるかを議論すべき時期が来ているように思われる。
3 正確にはインフルエンザの感染者数は推計受診者数、新型コロナウイルスの感染者数は陽性者数
4 「新型コロナウイルス感染症患者の急変及び死亡時の連絡について」https://www.mhlw.go.jp/content/000641629.pdf
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(2022年07月14日「ニッセイ基礎研所報」)

03-3512-1836
- ・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職
・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員
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