2021年07月01日

日銀短観(6月調査)~製造業の景況感は大幅改善の一方、非製造業は伸び悩み、先行きの見方は総じて慎重

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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4.売上・利益計画: 2021年度収益は上方修正

2020年度収益計画(全規模全産業・実績)は、売上高が前年比7.8%減(前回は8.2%減)、経常利益が同20.1%減(前回は30.3%減)と大幅な減収減益ながら、それぞれ上方修正された。前回時点の計画がやや保守的な水準に維持されていたため、今回実績が反映するに当たって上方修正されたと考えられる。

なお、2020年度の想定ドル円レート(全規模全産業ベース)は106.82円と前回(106.66円)からやや円安方向へ修正されている。ドル円レートの年度実績は106円近辺(106.06円)であったため、最終的に想定レートとのズレがやや残った形となった。
 
また、2021年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比2.8%増(前回は2.4%増)、経常利益が同9.1%増(前回は8.6%増)とそれぞれ上昇修正され、増収増益計画が維持されている。なお、2020年度分の下方修正を考慮した実額ベースでは、経常利益は15.2%の上方修正となる。
 
例年、経常利益計画は初回の3月調査時点で保守的に見積もられ、前年比で小幅なマイナス圏でスタートした後、6月調査ではさらに伸び率がやや下方修正される傾向が強い。しかし、今年度は3月調査時点で増益計画が示され、今回6月調査でさらに上方修正されており、異例の展開と言える。最近の海外経済の順調な回復に加え、今後のワクチン普及に伴う景気回復期待が一部反映されていると推測される。ただし、比較対象となる2020年度の利益水準が極めて低いことも増益計画に寄与している点には留意が必要だ。実際、今回の今年度利益計画は、2019年度との比較では未だ12.8%低いレベルに留まっている。

なお、2021年度の想定ドル円レート(全規模・全産業ベース)は106.71円(上期106.70円、下期106.71円)と、前回調査時点(106.07円)からやや円安方向に修正されたが、足下の実勢(111円台)よりはかなり円高水準に設定されている。今後、米金融緩和が縮小に向かい、ドル円が堅調に推移すれば、想定レートが円安方向に修正されて収益計画が上振れる要因になる。
(図表6) 売上高計画
(図表7) 経常利益計画
(図表8) 経常利益計画(全規模・全産業)

5.設備投資・雇用

5.設備投資・雇用:設備投資計画は上方修正だが、慎重姿勢も残る

生産・営業用設備判断DI(「過剰」-「不足」)は、全規模全産業で前回から2ポイント低下の2となった。低下は3期連続となる。厳しい経営環境が続く対面サービス業を含む非製造業が横ばいに留まる一方、生産活動が回復基調にある製造業が4ポイント低下し、全体としては過剰感がやや緩和した。しかし、依然として小幅なプラス圏(「過剰」との回答が優勢)にある。

また、雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)も前回から2ポイント低下の▲14となった。こちらも低下は3期連続となる。厳しい経営環境が続く対面サービス業を含む非製造業では2ポイント上昇したが、生産活動が回復基調にある製造業が5ポイント低下し、全体としては人手不足感がやや強まった形だ。コロナ禍前のレベルに比べると依然不足感が和らいだ状況にあるものの、じわりと強まりつつある。

上記の結果、需給ギャップの代理変数とされる「短観加重平均DI」(設備・雇用の各DIを加重平均して算出)は前回から2ポイント低下の▲8.1となり、不足超過度合いが強まった。
 
先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断DIが2ポイントの低下、雇用判断DIが3ポイントの低下となった。ワクチン普及に伴う内外での景気回復が一部織り込まれているとみられる。この結果、「短観加重平均DI」も▲10.7と2.6ポイント低下する見込みとなっている。
(図表9) 生産・営業用設備判断と雇用人員判断DI(全規模・全産業)/(図表10) 短観加重平均DI
2020年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比8.5%減(前回調査時点では同5.5%減)へと下方修正された。

例年6月調査(実績)では、中小企業において計画の具体化に伴って上方修正が入るものの、大企業においてより大幅な下方修正が入ることで、全体としては小幅に下方修正される傾向がある1。今回も同様のパターンだが、下方修正幅はやや大きめとなっている。
 
また、2021年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比7.1%増(前回調査時点では同0.5%増)へ上方修正された。例年、6月調査では計画の具体化に伴って上方修正される傾向が極めて強いうえ、企業収益が持ち直して投資余力が回復したことや、生産の回復を受けて設備の過剰感が緩和していることが上方修正の理由になったと考えられる。前年度比7.1%増という伸び率は6月調査としては2018年度(7.9%)に次ぐ過去2番目の高水準にあたるうえ、3月調査からの上方修正幅(6.6%ポイント)も近年の平均値2をやや上回っている。

今回、設備投資計画が上方修正されたことで企業の設備投資意欲の持ち直しが確認されたものの伸び率の高さについては、前年度の設備投資が大幅に減少して比較のハードルが下がったうえ、今年度に繰り越された計画が押し上げに繋がった面も相当あったとみられる。また、設備投資計画の金額は2019年度実績を未だ2.0%下回っている。従って、企業の慎重姿勢が未だ残っていることが垣間見える結果と言えるだろう。
 
なお、2020年度設備投資計画(全規模全産業で前年比8.5%減)は市場予想(QUICK 集計6.3%減、当社予想は6.9%減)を下回る結果であった。一方、2021年度設備投資計画(全規模全産業で前年比7.1%増)は市場予想(QUICK 集計3.9%増、当社予想は3.7%増)を明確に上回る結果であった。
(図表11) 設備投資計画と研究開発投資計画
(図表12) 設備投資計画(全規模・全産業)/(図表13) 設備投資計画(大企業・全産業)
 
1 直近10年間(2010~2019年度)における6月調査(実績)での平均修正幅は▲1.3%ポイント
2 直近10年間(2011~2020年度)における6月調査での平均修正幅は5.2%ポイント
 

6.企業金融

6.企業金融:企業の資金繰りはやや改善

企業の資金繰り判断DI(「楽である」-「苦しい」)は大企業が15と前回比1ポイント上昇、中小企業が8と前回比で2ポイント上昇した。生産が持ち直し、収益・キャッシュフローが持ち直したことが資金繰りの改善に寄与したと考えられる。

ただし、DIの水準は未だコロナ禍前には戻っていない。コロナ禍が未だ終息していないなかで「民間金融機関による実質無利子無担保融資」の受付が3月末で終了したうえ、一部企業ではコロナ関連融資の返済が始まっているとみられる。業種別の状況は未公表(明日公表の調査全容に掲載)だが、業況の厳しい対面サービス業を中心に厳しい資金繰りが続いている可能性が高い。
 
企業サイドから見た金融機関の貸出態度判断D.I.(「緩い」-「厳しい」)については、大企業が16、中小企業が19とともに前回から横ばい、依然として大幅なプラス圏(「緩い」が優勢)にあり、リーマンショック後に比べて貸出態度はかなり緩和した水準にある。

しかし、金融機関が殆ど信用リスクを取らなくて済んでいた信用保証協会保証付きの「民間金融機関による実質無利子無担保融資」制度は既述の通り既に終了している。中小企業向けに信用リスクを取る形のプロパー融資で臨むことになった金融機関が、今後貸出態度を厳格化させる可能性があり、動向が注目される。
(図表14)資金繰り判断DI(全産業)/(図表15) 金融機関の貸出態度判断DI(全産業)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2021年07月01日「Weekly エコノミスト・レター」)

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