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インド経済の見通し~当面は感染爆発で景気が冷え込むものの、ワクチンの普及加速によって再び回復軌道へ(2021年度+9.4%、2022年度+6.6%)

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠
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経済概況:2期連続のプラス成長

1-3月期の実質GDPを需要項目別にみると、民間消費が同+2.7%(前期:同▲2.8%)、政府消費が同+28.3%(前期:同▲1.0%)とプラス転じると共に、総固定資本形成が同+10.9%(前期:同+2.6%)と伸長した。
また外需は、輸出が同+8.8%(前期:同▲3.5%)、輸入が同+12.3%(前期:同▲5.0%)と、それぞれ大幅に増加した結果、純輸出の成長率寄与度は▲1.0%ポイント(前期:+0.4%ポイント)と減少した。
インドは昨年、新型コロナウイルスの感染が拡大し、政府がウイルス封じ込めを目的に3月下旬に全国的な厳格な都市封鎖を実施すると、4-6月期の成長率が前年同期比▲24.4%に急減して7-9月期が同▲7.4%と2期連続のマイナス成長を記録した。しかし10-12月期の成長率(同+0.4%)が小幅ながらプラスに転じると、今年1-3月期(同+1.6%)と上昇して回復傾向が進んでいることが明らかとなった。
1-3月期の景気の持ち直しは、活動制限措置の緩和と感染状況の改善による経済再開が進んだこと、そして昨年実施した都市封鎖による経済活動停止の反動による影響が大きい。
実際、1-3月期の感染状況の改善は封じ込め地区の減少や消費者や企業のマインドの改善などを通じて経済活動の正常化に繋がったとみられる。Googleが提供するCOVID-19コミュニティモビリティレポートによると、1-3月期の小売・娯楽関連施設への移動量はコロナ前の2~3割減の低水準で推移したが、持ち直しの動きが続いた(図表3)。
また昨年の厳しい都市封鎖の影響による反動で今年3月は経済指標が大きく増加した。3月は鉱工業生産指数が前年同月比22.4%、乗用車販売台数が同+115.2%、財貨輸出(通関ベース)が同+56.9%と、それぞれ大幅に増加しており、こうしたベース効果の影響も1-3月期の成長率上昇に繋がったとみられる。

産業部門別に見ると、第一次産業は同3.1%増(前期:同4.5%増)と順調に拡大した。農業部門は前年同期が豊作(同+6.8%)だったことを踏まえると、1-3月期は力強い成長をみせたといえる。
第二次産業は同7.9%増(前期:同2.9%増)と上昇した。製造業が同6.9%増(前期:同1.7%増)と上昇したほか、建設業(同14.5%増)と電気・ガス(同9.1%増)が大幅に増加した。一方、鉱業は同5.7%減(前期:同4.4%減)と低迷した。
第三次産業は同1.5%増(前期:同1.2%減)と、やや持ち直して4期ぶりのプラス成長となった。引き続き対面型サービス業を中心に行動制限の影響が残り、商業・ホテル・運輸・通信が同2.3%減と回復が遅れているものの、金融・不動産(同5.4%増)が順調に増加、行政・国防(同2.3%増)もプラスに転じた。
1 5月31日、インド統計・計画実施省(MOSPI)が2021年1-3月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。 2020-21年度の成長率は前年比7.3%減(2019-20年度:同4.0%増)となり、1979年度以来初のマイナス成長となった。
経済見通し:第二波発生で再び失速、ワクチンの普及に従って回復へ
インド国内では、今年1月16日から新型コロナウイルスワクチンの接種が段階的に開始しており、6月2日時点では1回以上接種済みが約1億7,000万人(人口の12.5%)となっている。ワクチン接種ペースは欧米と比べて遅れており、引き続き感染再拡大の恐れがある。もっとも、足元では英アストラゼネカ開発ワクチンのほかに地場メーカーやロシア、米国が開発したワクチンの緊急使用が次々に認められるようになってきている。またインド政府は今年8月から12月にかけて国内で20億回分を超えるワクチンを製造すると約束しており、年内には全ての成人にワクチンを接種することを目標に掲げている。年内の目標達成は難しいかもしれないが、今後ワクチン接種は一段と加速するものと見込まれ、第三波の発生リスクは徐々に低下していくと予想される。
こうして21年度後半はワクチン接種率の拡大により、これまで回復が遅れていた対面型サービス業が持ち直し、景気回復は安定感が増していくだろう。国内外の需要拡大を受けて製造業が経済成長の牽引役となりそうだ。また政府は財政再建より経済再生を優先して、道路や鉄道、農村開発などのインフラ整備を拡大させているほか、緩和的な金融政策の継続も景気の下支えとなるだろう。もっとも、感染第二波では農村部にまで感染が広がり、雇用環境が悪化して消費が落ち込んでいるため、前回の経済見通しと比べて景気の回復ペースは鈍化しそうだ。
実質GDPは、前年度が低水準だったことによる反動増やワクチン普及による経済正常化などから成長率が前年比+9.4%(20年度の同▲7.3%)に上昇するが、前回見通しの同+10.1%を下回る伸びを予想する(図表6)。
(物価の動向)商品価格上昇と食品価格の安定化により横ばい圏の推移

先行きは、国際商品価格の上昇やワクチン接種による経済回復がインフレ押し上げ要因となる一方、足元の活動制限解除によるサプライチェーンの混乱の緩和や今年の南西モンスーンの降雨量予測が平年並み(長期平均の96~104%)で食品価格の安定が見込まれることはインフレ抑制に繋がるだろう。インフレ率は高水準の続いた20年度の+6.2%から21年度が+4.5%に和らぐものの、物価目標の中央値(+4%)を上回って推移、22年度は景気回復の加速やルピー安によって+4.8%まで上向くと予想する。
(金融政策の動向)年内は金利据え置きを予想

先行きについては、RBIは年内まで政策金利を据え置くと予想する。足元ではインフレ率が目標内に収まると予想され、当面は現行の緩和的な金融政策を維持するだろう。しかし、来年以降は景気回復の加速やルピー安によってインフレ率が再び上向くと予想され、調整的な利上げを実施する展開を予想する。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2021年06月04日「基礎研レター」)
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03-3512-1780
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
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