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2020年02月03日
EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(3)-EIOPAの2019年報告書の概要報告-
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1―はじめに
前回のレポートでは、EIOPA(欧州保険年金監督局)が2019年12月17日に公表した「長期保証措置と株式リスク措置に関する報告書2019(Report on long-term guarantees measures and measures on equity risk 2019)」1の第3のセクションから、UFR(Ultimate Forward Rate:終局フォワードレート)及びMA(マッチング調整)について、その国別の適用状況やSCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件)比率への影響等を報告した。
今回のレポートでは、EIOPAの報告書の第3のセクションから、VA(ボラティリティ調整)について、その国別の適用状況やSCR比率への影響等を報告する2,3。
1 News
https://eiopa.europa.eu/Pages/News/EIOPA-publishes-its-fourth-annual-analysis-on-the-use-and-impact-of-long-term-guarantees-measures-and-measures-on-eq-ri.aspx
報告書
https://eiopa.europa.eu/Publications/Reports/LTG%20Report%202019.pdf
2 前回のレポートで述べたように、以下の図表及び図表の数値は、特に断りが無い限り、EIOPAの「長期保証措置と株式リスクに対する措置に関する報告書2019」からの抜粋によるものであり、必要に応じて、筆者による分析数値を加えたり、表の項目の順番を変更する等の修正を行っている。
3 LTG措置や株式リスク措置の具体的説明については、「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの2019年報告書の概要報告-」を参照していただきたい。
今回のレポートでは、EIOPAの報告書の第3のセクションから、VA(ボラティリティ調整)について、その国別の適用状況やSCR比率への影響等を報告する2,3。
1 News
https://eiopa.europa.eu/Pages/News/EIOPA-publishes-its-fourth-annual-analysis-on-the-use-and-impact-of-long-term-guarantees-measures-and-measures-on-eq-ri.aspx
報告書
https://eiopa.europa.eu/Publications/Reports/LTG%20Report%202019.pdf
2 前回のレポートで述べたように、以下の図表及び図表の数値は、特に断りが無い限り、EIOPAの「長期保証措置と株式リスクに対する措置に関する報告書2019」からの抜粋によるものであり、必要に応じて、筆者による分析数値を加えたり、表の項目の順番を変更する等の修正を行っている。
3 LTG措置や株式リスク措置の具体的説明については、「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの2019年報告書の概要報告-」を参照していただきたい。
2―措置毎の国別の適用状況(適用会社及びSCR比率への影響等)-VA-
なお、ノルウェー、フィンランドのようないくつかの国においてはTTPの適用とVAの適用の間には大きな重複がある。
また、VAを適用しているグループ数は142で、前回の報告書と同じである。
また、VAを適用しているグループ数は142で、前回の報告書と同じである。
2|SCR比率への影響
VAを適用しなかった場合のSCR比率への影響については、次ページの上の図表の通りである。
EEA全体の平均では242%から207%に34%ポイント(図表の数値に基づく、以下同様)低下する。
国別では、オランダは199%から120%に80%ポイント低下し、絶対水準でも影響度割合でも最も影響が大きい。デンマークが291%から222%に68%ポイント低下し、ドイツが373%から313%に60%ポイント低下で続いている。これは、これらの国々においては、VA非適用によりSCRが大きく増加(オランダは40.9%、デンマークは25.0%、ドイツは17.5%)することによっている。
一方で、主要国では、MA適用会社の多い英国とスペインでの影響は、英国が4%ポイント、スペインが9%ポイント、と低くなっている。また、フランスは33%ポイント、イタリアは20%ポイントの影響となっている。
いずれにしても、前回の報告書と比較して、VAを非適用とすることによる平均的な影響が大きく増加している。
以下の下の図表が、VAを適用している会社の適用前後の状況を示している。
VAを適用している会社の91%の絶対的な影響は0%から100%の範囲内となっている。また、11%の会社がVAを適用しない場合、SCR比率が100%未満となる。なお、VAを適用しない場合、適格自己資本がマイナスになる会社はない。
VAを適用しなかった場合のSCR比率への影響については、次ページの上の図表の通りである。
EEA全体の平均では242%から207%に34%ポイント(図表の数値に基づく、以下同様)低下する。
国別では、オランダは199%から120%に80%ポイント低下し、絶対水準でも影響度割合でも最も影響が大きい。デンマークが291%から222%に68%ポイント低下し、ドイツが373%から313%に60%ポイント低下で続いている。これは、これらの国々においては、VA非適用によりSCRが大きく増加(オランダは40.9%、デンマークは25.0%、ドイツは17.5%)することによっている。
一方で、主要国では、MA適用会社の多い英国とスペインでの影響は、英国が4%ポイント、スペインが9%ポイント、と低くなっている。また、フランスは33%ポイント、イタリアは20%ポイントの影響となっている。
いずれにしても、前回の報告書と比較して、VAを非適用とすることによる平均的な影響が大きく増加している。
以下の下の図表が、VAを適用している会社の適用前後の状況を示している。
VAを適用している会社の91%の絶対的な影響は0%から100%の範囲内となっている。また、11%の会社がVAを適用しない場合、SCR比率が100%未満となる。なお、VAを適用しない場合、適格自己資本がマイナスになる会社はない。
4|VAの水準
ユーロの2018年末現在のVAの水準は24 bpsであり、2017年末の4bpsから増加している。これまで報告したように、VA非適用がソルベンシーポジションに与える影響が多くの国でかなりのものであることが示されている。
なお、数値の比較は、分析に組み込まれている一部の内部モデル使用者のVAの動的モデリングによって影響を受けることに注意が必要である。
ユーロの2018年末現在のVAの水準は24 bpsであり、2017年末の4bpsから増加している。これまで報告したように、VA非適用がソルベンシーポジションに与える影響が多くの国でかなりのものであることが示されている。
なお、数値の比較は、分析に組み込まれている一部の内部モデル使用者のVAの動的モデリングによって影響を受けることに注意が必要である。
5|内部モデルにおけるVAの取扱
SCRを計算するために内部モデルが使用される場合、VAについて2つの異なる取扱が行われている。
いくつかの内部モデルでは、VAは次の12ヶ月間変化しない(固定VA)とみなされる。このアプローチは、SCR計算のための標準式におけるVAの取扱と同じである。
他の内部モデルでは、今後12ヶ月間のVAの変化の可能性を考慮(動的VA、ダイナミックVA)している。
VA計算の基礎となる市場指標のスプレッドが変化したり、VAへのリスク修正が変化するため、VAは時間とともに変化する。さらには、VA計算で適用される代表資産ポートフォリオの年次更新に反映される形で保険及び再保険会社の投資行動が変化することにより、VAは変化する。
VAが会社の資産のスプレッドに沿って動く場合、動的VAのモデリングは、保険会社の自己資本に対するスプレッドの拡大及び縮小の効果を減少させる。スプレッドの拡大によって生じる資産価値の減少は部分的に又は完全にVAの変化による技術的準備金の減少によって補填される。同様に、より狭いスプレッドによって生じる資産価値の増加が補填される。その結果、動的VAモデルが使用されている場合、固定VAが使用されている場合よりもスプレッド拡大のリスクに対する資本要件が、通常、より低くなる。
(1)動的VA適用会社数
以下の図表は、国ごとの動的VAモデリングを使用した会社の数と会社の種類を示している。
ドイツ、フランス、オランダで多くの会社が動的VAを適用している。
なお、会社の種類別では、生命保険会社や生損保兼営会社だけでなく、損害保険会社も同様に動的VAを適用している。
SCRを計算するために内部モデルが使用される場合、VAについて2つの異なる取扱が行われている。
いくつかの内部モデルでは、VAは次の12ヶ月間変化しない(固定VA)とみなされる。このアプローチは、SCR計算のための標準式におけるVAの取扱と同じである。
他の内部モデルでは、今後12ヶ月間のVAの変化の可能性を考慮(動的VA、ダイナミックVA)している。
VA計算の基礎となる市場指標のスプレッドが変化したり、VAへのリスク修正が変化するため、VAは時間とともに変化する。さらには、VA計算で適用される代表資産ポートフォリオの年次更新に反映される形で保険及び再保険会社の投資行動が変化することにより、VAは変化する。
VAが会社の資産のスプレッドに沿って動く場合、動的VAのモデリングは、保険会社の自己資本に対するスプレッドの拡大及び縮小の効果を減少させる。スプレッドの拡大によって生じる資産価値の減少は部分的に又は完全にVAの変化による技術的準備金の減少によって補填される。同様に、より狭いスプレッドによって生じる資産価値の増加が補填される。その結果、動的VAモデルが使用されている場合、固定VAが使用されている場合よりもスプレッド拡大のリスクに対する資本要件が、通常、より低くなる。
(1)動的VA適用会社数
以下の図表は、国ごとの動的VAモデリングを使用した会社の数と会社の種類を示している。
ドイツ、フランス、オランダで多くの会社が動的VAを適用している。
なお、会社の種類別では、生命保険会社や生損保兼営会社だけでなく、損害保険会社も同様に動的VAを適用している。
(2020年02月03日「保険・年金フォーカス」)
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中村 亮一のレポート
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