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- 中国経済の強みと弱み~SWOT分析と今後の展開
2019年10月31日
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                                                                        また、国際特許出願も急増している。世界知的所有権機関(WIPO)の統計によると、2017年に中国からは4万8875件の出願があり、日本の4万8206件を上回った。日本からの出願も増加傾向にはあるが、中国でからの出願はそれを大きく上回るスピードで増加している(図表-9)。
一方、個々の産業に目を向けると、中国企業の躍進が目立つようになってきた。一例として挙げられるのがスマートフォンである。2018年の世界シェアを見ると、第1位は韓国のサムスン電子で20.8%、第2位は米国のアップルで14.9%だが、第3位には華為技術(ファーウェイ)、第4位には小米科技、第5位にはOPPOと中国企業が入っており、そのシェアを合わせると31.4%で、サムスン電子を上回る。さらに、第4次産業革命でカギを握る次世代移動通信規格「第5世代(5G)」では、その標準必須特許の15.1%をファーウェイが保有しており、ZTE(中興通訊)が持つ11.7%を合わせると、中国企業が世界の四分の一を占める(図表-10)。こうした動きがさまざまな分野に広がれば、前述の構造問題が足かせになったとしても、新しい成長モデルが経済成長を牽引し始める可能性がある。
            一方、個々の産業に目を向けると、中国企業の躍進が目立つようになってきた。一例として挙げられるのがスマートフォンである。2018年の世界シェアを見ると、第1位は韓国のサムスン電子で20.8%、第2位は米国のアップルで14.9%だが、第3位には華為技術(ファーウェイ)、第4位には小米科技、第5位にはOPPOと中国企業が入っており、そのシェアを合わせると31.4%で、サムスン電子を上回る。さらに、第4次産業革命でカギを握る次世代移動通信規格「第5世代(5G)」では、その標準必須特許の15.1%をファーウェイが保有しており、ZTE(中興通訊)が持つ11.7%を合わせると、中国企業が世界の四分の一を占める(図表-10)。こうした動きがさまざまな分野に広がれば、前述の構造問題が足かせになったとしても、新しい成長モデルが経済成長を牽引し始める可能性がある。
4――中国経済のSWOT分析
 まず、中国経済の「Strength(強み)」としては、約14億人に及ぶ巨大な国内市場が挙げられる。米国(約3.3億人)、EU(約5.1億人)、日本(約1.3億人)の合計よりも多い人口がもたらす巨大な市場規模は、大量生産によるコスト削減に有利に働くのに加えて、欧米先進国企業がグローバル・スタンダードを握る上でもカギを握る。また、購買力平価(PPP)の半分程度とされる割安な人民元レートも国際競争力を保つ上での強みとなっており、「大衆創業、万衆創新」を合言葉とする中国政府の強力な後押しを背景に新興企業を育てるビジネス生態系(Ecosystem)が出来上がりつつあることも強みといえる。特に先日視察した深圳では、いわゆる「パクリ(Imitation)」は恥ずかしいこととの認識が定着しつつある。深圳生粋のスタートアップ企業の中にも、その発明を元にビジネス展開すると間も無く、同業者による「パクリ」の嵐にあって競争力を失い、ビジネスが破綻に追い込まれて、その発展の芽が摘まれるという事象が目に付くようになってきたからだ。そして、知的財産権を守る戦略の重要性や保護の必要性を再認識するとともに、「パクリ+α(Emulation)」や「創新(Innovation)」を目指す風土が醸成されてきている(図表-12)。
                                                        まず、中国経済の「Strength(強み)」としては、約14億人に及ぶ巨大な国内市場が挙げられる。米国(約3.3億人)、EU(約5.1億人)、日本(約1.3億人)の合計よりも多い人口がもたらす巨大な市場規模は、大量生産によるコスト削減に有利に働くのに加えて、欧米先進国企業がグローバル・スタンダードを握る上でもカギを握る。また、購買力平価(PPP)の半分程度とされる割安な人民元レートも国際競争力を保つ上での強みとなっており、「大衆創業、万衆創新」を合言葉とする中国政府の強力な後押しを背景に新興企業を育てるビジネス生態系(Ecosystem)が出来上がりつつあることも強みといえる。特に先日視察した深圳では、いわゆる「パクリ(Imitation)」は恥ずかしいこととの認識が定着しつつある。深圳生粋のスタートアップ企業の中にも、その発明を元にビジネス展開すると間も無く、同業者による「パクリ」の嵐にあって競争力を失い、ビジネスが破綻に追い込まれて、その発展の芽が摘まれるという事象が目に付くようになってきたからだ。そして、知的財産権を守る戦略の重要性や保護の必要性を再認識するとともに、「パクリ+α(Emulation)」や「創新(Innovation)」を目指す風土が醸成されてきている(図表-12)。他方、「Weakness(弱み)」としては、第2章で挙げた少子高齢化に伴う人口オーナスや過剰設備・債務問題、それに目覚ましい発展を遂げている科学技術力に関しても、まだ発展途上で米国には遠く及ばない点は弱みといえる。
一方、外部環境面の「Threat(脅威)」としては、香港などで起きている民主化要求が中国本土に波及する脅威を抱えている点や、米国による中国封じ込めの動きが西側先進国全体に波及して科学技術力の発展に水を差す脅威を抱えている点を挙げた。また、「Opportunity(機会)」としては、内陸部・農村部にはまだ開発余地が大きく残る点(特に金融包摂による経済発展)や、後発新興国の多い一帯一路に大きな開発余地がある点を挙げている。
中国経済は過剰設備・債務問題という大きな「Weakness(弱み)」があり、世界の先行事例を見ても新たな成長モデルは従来の成長モデルよりもスピードが遅いため、今後も経済成長の勢いは減速傾向を辿りそうである。但し、「Threat(脅威)」を抑制し、「Opportunity(機会)」を生かして、「Strength(強み)」を十分に発揮することができれば、その減速ペースは緩やかなものになると考えられる。
5――今後の展望
                                            以上の分析を踏まえて今後の中国経済を展望してみた。
まず、2020年までは、第13次5ヵ年計画(2016-20年)で「6.5%以上」とした目標を達成するには6%強の成長率を維持する必要がある。また2020年は党大会(18大)で打ち出した所得倍増計画の目標年でもあるため、その目標を達成して中国共産党創設100周年(2021年)を迎えるためにも、6%強の成長率を維持する運営が求められる。従って、2020年までは米中対立による景気下押し圧力を緩和するため、財政・金融の両面で景気を押し上げる政策が取られる可能性が高いだろう。
            まず、2020年までは、第13次5ヵ年計画(2016-20年)で「6.5%以上」とした目標を達成するには6%強の成長率を維持する必要がある。また2020年は党大会(18大)で打ち出した所得倍増計画の目標年でもあるため、その目標を達成して中国共産党創設100周年(2021年)を迎えるためにも、6%強の成長率を維持する運営が求められる。従って、2020年までは米中対立による景気下押し圧力を緩和するため、財政・金融の両面で景気を押し上げる政策が取られる可能性が高いだろう。
 一方、そうした財政・金融に頼った経済運営は持続できる可能性が低いため、第14次5ヵ年計画(2021-25年)に入る2021年以降は、高齢化に伴う将来の財政負担増に備えて財政赤字を減らし、最大のリスクである過剰設備・債務問題の解消に向けて債務圧縮(デレバレッジ)を推進すべく、成長率目標を大幅に引き下げざるを得なくなるだろう。但し、イノベーションによる成長力向上が期待できるため、第14次5ヵ年計画(2021-25年)の成長率目標は「5%前後」にすると予想している。さらに、第15次5ヵ年計画(2026-30年)に入る頃には、一人当たりGDPが2万5千ドルと現在の台湾並みに上昇する見込みであるため、欧米先進国との競争が激しさを増して、イノベーションの勢いは鈍化してくるだろう。従って、成長率目標は「3.5%前後」へ引き下げざるを得なくなると予想している(図表-13)。
                                                        一方、そうした財政・金融に頼った経済運営は持続できる可能性が低いため、第14次5ヵ年計画(2021-25年)に入る2021年以降は、高齢化に伴う将来の財政負担増に備えて財政赤字を減らし、最大のリスクである過剰設備・債務問題の解消に向けて債務圧縮(デレバレッジ)を推進すべく、成長率目標を大幅に引き下げざるを得なくなるだろう。但し、イノベーションによる成長力向上が期待できるため、第14次5ヵ年計画(2021-25年)の成長率目標は「5%前後」にすると予想している。さらに、第15次5ヵ年計画(2026-30年)に入る頃には、一人当たりGDPが2万5千ドルと現在の台湾並みに上昇する見込みであるため、欧米先進国との競争が激しさを増して、イノベーションの勢いは鈍化してくるだろう。従って、成長率目標は「3.5%前後」へ引き下げざるを得なくなると予想している(図表-13)。
                                                            (お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2019年10月31日「基礎研レポート」)
三尾 幸吉郎
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