2019年10月08日

2019・2020年度経済見通し

基礎研REPORT(冊子版)10月号[vol.271]

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―3四半期連続のプラス成長

2019年4-6月期の実質GDPは、前期比0.3%(前期比年率1.3%)と3四半期連続のプラス成長となった。海外経済の減速や世界的なIT需要の落ち込みを背景に輸出が前期比▲0.0%と低迷を続ける中、輸入が前期比1.7%の増加となったことから、外需寄与度は前期比▲0.3%と成長率を押し下げた。一方、民間需要(民間消費、設備投資等)、公的需要(政府消費、公的固定資本形成等)がともに堅調に推移し、国内需要の伸びが1-3月期の前期比0.1%から同0.6%へと加速した。

外需のマイナスを国内需要のプラスが大きく上回ったことにより日本経済は3四半期連続で1%程度とされる潜在成長率を上回る高成長となった。

ただ、低調に推移する鉱工業生産、景気動向指数、企業や家計の景況感など他の景気関連指標に比べて、2019年入り後のGDPはやや強すぎる印象がある。GDP統計は各種の基礎統計を利用して推計する加工統計であり、事後的に大きく改定される場合もある。景気の基調はGDP統計が示すほど強くないと考えるのが妥当だろう。

2―消費税率引き上げの影響

2019年10月に予定されている消費税率引き上げ(8%→10%)による経済への影響は、(1)物価上昇による実質所得の減少が個人消費を中心とした国内需要を下押しする効果、(2)税率引き上げ前の駆け込み需要と税率引き上げ後の反動減、に分けて考えられる。

当研究所のマクロモデルによるシミュレーションでは、消費税率を1%引き上げた場合、物価上昇による実質所得低下の影響で、実質GDPは1年間で▲0.24%、実質民間消費は1年間で▲0.37%低下する。

今回は、前回(2014年4月:5%→8%)よりも税率の引き上げ幅が小さいこと、飲食料品(酒類と外食を除く)及び新聞に対する軽減税率、教育無償化、年金生活者支援給付金、キャッシュレス決済時のポイント還元、プレミアム商品券などの増税対策が講じられることから、景気への悪影響は前回よりも小さくなる公算が大きい。増税対策を考慮した消費税率引き上げによる実質GDPの押し下げ幅は▲0.2%程度、実質民間消費の押し下げ幅は▲0.4%程度と試算される。今回の消費増税は2019年度下期からとなるため、2019年度の影響はこの半分となる。実質GDP成長率への影響は2019、2020年度ともに▲0.1%程度、実質民間消費(前年比)への影響は2019、2020年度ともに▲0.2%程度である。

駆け込み需要とその反動の規模も前回増税時を大きく下回るだろう。駆け込み需要が早めに顕在化する耐久消費財、住宅着工戸数の動きを確認すると、耐久消費財については一部に駆け込み需要とみられる動きがあるが、前回増税時に比べれば盛り上がりは限定的となっている。また、住宅着工戸数は持家で駆け込み需要がみられるものの、全体では一進一退の動きにとどまっている[図表1]。
[図表1]消費増税前後の住宅着工数

3―前回増税前より消費の基調は弱い

消費増税自体の影響は前回よりも小さくなる公算が大きいが、問題は景気の実勢が前回増税前よりも弱いことである。

輸出、生産が低迷する一方、国内需要は底堅さを維持している。ただし、その勢いは前回の増税前に比べると弱く、特に民間消費は2019年4-6月期には一部で駆け込み需要が発生したこともあり前期比0.6%と高めの伸びとなったが、それまでほぼ横ばいの動きとなっていた。民間消費については、消費増税前は駆け込み需要によって押し上げられるため基調が読み取りにくくなるが、駆け込み需要が本格化する前の段階で比較しても今回の消費の基調は明らかに弱い。消費税率引き上げ3年前から半年前までの民間消費の伸び率は前回増税前が年平均2.5%だったのに対し、今回は年平均0.7%にとどまっている[図表2]。
[図表2]消費増税前後の民間消費
また、高水準の企業収益を背景に設備投資は堅調を維持しているが、ここにきて変調の兆しも見られる。2019年4-6月期の法人企業統計の設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比1.9%と11四半期連続で増加したが、1-3月期の同6.1%から伸びが低下した。非製造業は前年比7.0%と1-3月期の同5.0%から伸びを高めたが、製造業が前年比▲6.9%と8四半期ぶりに減少した。

非製造業は、国内需要の底堅さを背景に企業収益が高水準を維持していることから、設備投資も増加が続いている。一方、製造業は輸出の減少に伴う企業収益の悪化を反映し、設備投資の減少基調が鮮明となっている。

人手不足対応の省力化投資など景気循環に左右されにくい需要は引き続き旺盛であるため、設備投資が大崩れする可能性は低い。ただし、米中貿易摩擦の激化などもあり輸出の回復が当分見込めない中、製造業の収益、設備投資は先行きも悪化傾向が続くことが予想される。

4―厳しい外部環境

輸出は2018年後半以降、低迷が続いている。前回増税前も輸出は低調だったが、消費税率が引き上げられた2014年度入り後に急回復した[図表3]。その背景には世界経済が緩やかに回復していたことに加え、日本銀行の異次元緩和の効果などから為替が大きく円安に振れたことがある。2014年度の外需寄与度は前年比0.6%のプラスとなり、内需の落ち込み(前年比・寄与度▲1.0%)を一定程度カバーした。
[図表3]消費増税前後の輸出(財貨・サービス)
しかし、足もとの輸出環境は前回増税時に比べて非常に厳しい。まず、世界経済が製造業を中心に調整局面に入っていることもあり、世界の貿易取引は縮小している。オランダ経済政策分析局が作成している世界貿易量は2017年中には前年比4~5%程度の高い伸びとなっていたが、2018年後半以降伸び率が急低下し、足もとではマイナスに転じている[図表4]。

また、ドル円レートは一進一退の動きが続いているが、米国の金融政策が利下げ局面に入る一方、日銀の追加緩和余地が限られることもあり、大幅な円高が進行するリスクがある。為替が輸出の追い風となることは当面期待できないだろう。
[図表4]世界貿易量の推移

5―実質GDP成長率の見通し

消費増税による経済への悪影響は比較的小さいが、民間消費を中心に国内需要が一定程度落ち込むことは避けられない。現時点では、世界的なITサイクルの調整が2019年末までには終了し、日本の輸出も情報関連財を中心に2019年度末にかけて持ち直すことを見込んでいる。ただし、ITサイクルの底打ち時期については不確実性が高いこと、米中貿易摩擦の激化により世界の貿易取引がさらに縮小する可能性があることなどから、輸出の低迷は長期化するリスクがある。輸出の回復が遅れれば、2019年度後半の日本経済は内外需ともに悪化し景気の牽引役を失う恐れがある。

2020年度は東京オリンピック・パラリンピックが開催される7-9月期までは高めの成長となるが、オリンピック終了後の2020年度後半は、押し上げ効果の剥落から景気の停滞色が強まることは避けられない。消費増税対策の効果一巡がオリンピック終了と重なることで、景気の落ち込みを増幅するリスクがあることには注意が必要だろう。特に、キャッシュレス決済時のポイント還元については、制度終了(2020年6月)前後に駆け込み需要と反動減が発生する可能性がある。

実質GDP成長率は2019年度が0.6%、2020年度が0.7%と予想する。

(2019年10月08日「基礎研マンスリー」)

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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