- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 年金 >
- 公的年金 >
- 年金改革ウォッチ 2019年9月号~ポイント解説:オプション試算の年金財政への影響
2019年09月03日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1 ―― 先月までの動き
企業年金・個人年金部会では、個人型確定拠出年金(iDeCo)について企業型確定拠出年金のマッチング拠出との整理も含めて意見交換が行われた。また、年金部会では、2019年財政検証とオプション試算の結果が報告された。今後、来年度の法案提出に向けた具体的な議論が見込まれる。
○社会保障審議会 企業年金・個人年金部会
8月23日(第7回) マッチング拠出、iDeCo等について
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_06331.html (資料)
○社会保障審議会 年金部会
8月27日(第9回) 2019(令和元)年財政検証の結果について(報告)
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212815_00011.html (資料)
○社会保障審議会 企業年金・個人年金部会
8月23日(第7回) マッチング拠出、iDeCo等について
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_06331.html (資料)
○社会保障審議会 年金部会
8月27日(第9回) 2019(令和元)年財政検証の結果について(報告)
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212815_00011.html (資料)
2 ―― ポイント解説:オプション試算の年金財政への影響
先月の年金部会では財政検証結果やオプション試算(制度改正の選択肢の試算)が公表され、新聞等では主に生活者の観点から個人の給付水準への影響などが詳しく解説された。そこで本稿では視点を変え、年金財政の観点からこれらの結果を概観する。
1|前提知識:「機械的に給付調整を進めた場合の給付水準」が財政指標
現在の年金財政では将来にわたって保険料(率)が固定され、その代わりに、少子化等に連動した給付の段階的な調整(抑制)で年金財政をバランスさせる仕組み(マクロ経済スライド)が導入されている。給付の抑制は「ここまで下げれば大丈夫」となったら停止されるため、給付がどの水準で下げ止まるかが、財政状態を表す指標となる*1。
現在の年金財政では将来にわたって保険料(率)が固定され、その代わりに、少子化等に連動した給付の段階的な調整(抑制)で年金財政をバランスさせる仕組み(マクロ経済スライド)が導入されている。給付の抑制は「ここまで下げれば大丈夫」となったら停止されるため、給付がどの水準で下げ止まるかが、財政状態を表す指標となる*1。

*1 給付抑制がいつ停止するか(マクロ経済スライドの停止年度)も指標となる。しかし停止年度は整数で示されており、マクロ経済スライドの停止年度における給付水準の微調整を把握できない(微調整は、将来見通しの最終年度の積立度合を丁度1にするために行われる。微調整により、最終的な給付水準は1%程度変動しうる)。
*2 この点については、記者向けの説明会に不参加のメディア担当者から当方への照会が多かった。基本的な事項であるため、資料のみで数字の意図が理解できるよう、厚生労働省には次回以降の資料の改善を期待したい。

今回示されたオプション試算のうちA(厚生年金の適用拡大)をみると、現行制度での見通しと比べて将来の基礎年金の水準が上昇している(図表2)。これは、適用拡大で基礎年金拠出金の対象者が国民年金財政から厚生年金財政に移っても積立金は移されない影響で、国民年金財政が改善するためである*3。一方で厚生年金財政は悪化して厚生年金の給付水準が低下しているが、モデル世帯全体では給付水準が上昇している。総合的には、適用拡大された個人だけでなく、加入者全体にもメリットが波及していることを示している。
*3 この仕組みは、拙稿「年金改革ウォッチ 2018年10月号~ポイント解説:適用拡大の年金財政への影響」などを参照。

オプションBでは、拠出期間の延長と受給開始の延期(繰下げ受給の年齢上限引上げ)などが試算されている。このうち受給開始の延期(B-4)は、受給期間が平均的に短縮された分だけ年金額を引き上げる仕組みであり、年金財政への影響は基本的に中立である。そのため、給付への影響は示されているが、年金財政への影響が試算されていない。
拠出期間の延長は、モデル世帯では40年間と設定されている拠出期間を延長する案である。個人としては延長分に応じて年金が増えるが、年金財政への影響は、モデル世帯とベースを揃えた40年拠出時の給付水準を見る必要がある*4。結果を見ると、拠出の延長による年金財政の改善は限定的であった。保険料の拠出期間を増やした分が、その個人の給付増に繋がる傾向が読み取れる。また、在職老齢年金(一定以上の給与を得て働くと年金が減額される仕組み)の廃止や緩和による年金財政の悪化も、比較的小幅であった。
*4 今回の公表資料では、資料3-2(オプション試算の詳細結果)に記載されている。
(2019年09月03日「保険・年金フォーカス」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1859
経歴
- 【職歴】
1995年 日本生命保険相互会社入社
2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
(2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)
【社外委員等】
・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)
【加入団体等】
・生活経済学会、日本財政学会、ほか
・博士(経済学)
中嶋 邦夫のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/08 | 基礎年金の底上げ策に伴って厚生年金の補てんを求めるのは妥当か~年金改革ウォッチ 2025年4月号 | 中嶋 邦夫 | 保険・年金フォーカス |
2025/04/07 | SNS時代の年金改革-法案提出を巡る議論の本質は… | 中嶋 邦夫 | 研究員の眼 |
2025/03/11 | 高齢期に働く際の年金減額は、金持ち優遇批判等に配慮しつつ対象縮小へ~年金改革ウォッチ 2025年3月号 | 中嶋 邦夫 | 保険・年金フォーカス |
2025/03/05 | 次期年金改革案(調整期間の一致)を避けた場合に起きる問題 | 中嶋 邦夫 | ニッセイ年金ストラテジー |
新着記事
-
2025年05月02日
金利がある世界での資本コスト -
2025年05月02日
保険型投資商品等の利回りは、良好だったが(~2023 欧州)-4年通算ではインフレ率より低い。(EIOPAの報告書の紹介) -
2025年05月02日
曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その11)-螺旋と渦巻の実例- -
2025年05月02日
ネットでの誹謗中傷-ネット上における許されない発言とは? -
2025年05月02日
雇用関連統計25年3月-失業率、有効求人倍率ともに横ばい圏内の動きが続く
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【年金改革ウォッチ 2019年9月号~ポイント解説:オプション試算の年金財政への影響】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
年金改革ウォッチ 2019年9月号~ポイント解説:オプション試算の年金財政への影響のレポート Topへ