2018年12月26日

社外取締役への懸念と期待

江木 聡

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1――社外取締役の貢献状況

コーポレートガバナンス・コード(以下、コード)は2018年6月の改訂で、監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であっても、任意の指名委員会および報酬委員会を原則、設置するよう求めた(コード補充原則4-10①)。上場会社(本則市場)には機関設計を問わず、独立社外取締役を主要な構成員とする委員会で指名(社長・CEOの選解任)および報酬(経営陣の評価)を審議することが期待されている1。日本のコーポレートガバナンスにおいて当然とされる内容が、社外取締役を2人以上にすることから、社外取締役による内部の重要事項への関与へ進んだと見ることができる。この段階に至り、本稿では改めて社外取締役の役割について考えてみたい。
 
コード改訂前の経済産業省のアンケートによれば、まず全体として社外取締役の役割の発揮状況を見ると、経営全般の監督や助言と比べ、指名・報酬の貢献は高くない(図表1)。
【図表1】 社外取締役の役割発揮
しかしながら、任意の委員会の有無で比較した場合、設置している会社では、設置していない会社に比べて、社外取締役の貢献度合いが大きく高まる(図表2)。任意とはいえ委員会を設置することは、指名・報酬に対する監督の実効性が高まることが期待できる。
【図表2】 任意の委員会設置別による社外取締役の役割発揮
 
1 東証一部・二部上場企業2,625社の機関設計別の内訳をみると、監査役会設置会社(1,884社、71.8%)と監査等委員会設置会社(678社、25.8%)がほとんど(合計2,562社、97.6%)である。このうち任意の委員会を設置していない会社が1,615社と63.0%を占めており、検討の必要に迫られている企業は少なくない(すべて2018年12月25日付東証開示ベース)。
 

2――社外取締役に対する懸念と期待されること

2――社外取締役に対する懸念と期待されること

任意の委員会ではその権限や運営自体も任意であるだけに、企業としては社外取締役の関与に対し懸念を持っているようだ。実際に、任意の指名委員会において、経営経験のある社外取締役の委員が「次に誰がCEOになるべきかは一時間話せばわかる」と発言するような例もある2。また、経営経験のない社外取締役では期待される役割を果たせないこともある。例えば、経営執行側から提示されたCEO交代の提案に対し、数期連続で最高益を更新しているから交代させる理由がないとして、取締役でしか知りえない社内の基準や情報ではなく、公知の一般的事実のみを理由に却下するようなケースである。その結果もし株価が低迷したとしたら、社外取締役による企業価値破壊となりかねない。
 
社外取締役に求められるのは、指名・報酬という重要事項に対する独立性・客観性のある監督である。その内容は、具体的な個々の人選や報酬額の決定に対する関与ではなく、指名・報酬の体系や過程が妥当であるかを検証し助言することである。社長・CEOの指名についていえば、自社固有の強みを維持拡大できる資質・能力が選定の基準になっているのか、求められる資質・能力を備えた人材の育成・選抜の仕組みになっているのか、などを確認し、必要であれば改善を提案することだろう。そのためには、社外取締役は、少なくとも自社がどのように競争優位を確立あるいは確立しようとしており、その状態を保つ仕組みや方法とは何かを理解していることが必須である3。これこそが企業価値創造の源泉であり、企業が死守しなければならない要素だからである。社外取締役には、こうしたことを十分に理解した上で、企業価値創造というコーポレートガバナンス改革の本来の趣旨に沿った大局的な監督が期待されている。
 
2 北川=神作=杉山=佃=武井「新春座談会 ガバナンスの『実質化』と上場企業としての対応〔下〕」旬刊商事法務2156号(2018)P.42
3 経済産業省「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス ―ESG・非財務情報と無形資産投資―」(2017年)2.ビジネスモデル.02
 
 

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江木 聡

研究・専門分野

(2018年12月26日「基礎研レター」)

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