2018年10月25日

イタリア19年度予算案の波紋 -初の暫定予算案差し戻しのその先-

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

■要旨
  1. 10月23日、欧州委員会が、イタリア政府の19年度暫定予算案の差し戻し、3週間以内の再提出を求めた。
     
  2. 欧州委員会は、構造的財政収支の改善目標や歳出ルール、債務削減ルールが求める目標からの乖離が大きいこと、さらに独立財政監視機関による承認というEU規則が求める要件を満たしていないことを問題視している。他方、イタリア政府は、目標からの乖離は、経済成長を通じた問題解決に必要という立場をとる。
     
  3. イタリア政府が、向こう3週間で問題を修正しない場合、欧州委員会は、歳出ルール、構造的財政収支の改善目標からの乖離を理由とする「深刻な乖離是正手続き」か、債務削減ルールへの非適合を理由とする「過剰な財政赤字是正手続き(EDP)」の開始を求めることになる。発動されれば、イタリアが初のケースとなるが、即効性を欠くため、財政危機の未然防止効果には疑問が残る。市場の圧力の方がより有効だろう。
     
  4. 暫定予算案を巡るイタリア政府とEUの対立は勝者なき戦いだ。EUはEU懐疑主義を煽る格好の材料を与えることになりかねず、イタリアは資金調達コスト上昇、金融システムからの資本流出を招きかねない。
     
  5. 市場の監視が働くことで、本格的な財政危機に発展する可能性は低いと見ているが、世界経済が不透明な時期だけに警戒は怠れない。
ユーロ参加国の政府債務残高と財政収支対GDP比(2017年実績)
Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴
  • ・ 1987年 日本興業銀行入行
    ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
    ・ 2023年7月から現職

    ・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
    ・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
    ・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
    ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
    ・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
    ・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
               「欧州政策パネル」メンバー
    ・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
    ・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
    ・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【イタリア19年度予算案の波紋 -初の暫定予算案差し戻しのその先-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

イタリア19年度予算案の波紋 -初の暫定予算案差し戻しのその先-のレポート Topへ