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都道府県と市町村の連携は可能か-医療・介護の切れ目のない提供体制に向けて

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳
6――行政学的な整理からの考察
一方、都道府県の機能としては「広域にわたるもの」「統一的な処理を必要とするもの」「市町村に関する連絡調整に関するもの」「一般の市町村が処理することが不適当であると認められる程度の規模のもの」を挙げており、この条文を引き合いに出しつつ、都道府県の機能を「広域」「連絡調整」「補完」「支援」の4つに分類する意見がある24。
2番目の「連絡調整」で言うと、市町村同士の連携を図ることで、2次医療圏単位での医療提供体制構築を図る必要性が考えられる。先に触れた通り、同じ2次医療圏に所属する市町村の間で極端に対応の差が生まれてしまうと、退院支援や在宅医療・介護連携などがスムーズに行かなくなり、患者や専門職が立ち往生する危険性がある。
3番目の「補完」では「一定規模以上の市町村は処理しているが、それに満たない市町村の区域では都道府県が処理しているケース」などとされており、医療・介護の場合は保健所、福祉事務所が該当する。保健所を設置できるのは原則として都道府県であり、市町村では政令指定都市や中核市などが例外的に設置している。福祉事務所についても都道府県と市に設置義務が課されているが、町村は持つことができる規定にとどまっている。こうした事務では小規模市町村に対し、都道府県が補完機能を果たすことが必要となる。
最後に「支援」では、市町村との接点が少ない地元医師会との関係構築支援、レセプトの提供・分析、人材育成・研修などが該当するであろう。いずれも市町村単独では困難な面があり、都道府県が支援できる余地は大きいと考えられる。
一方、地方自治法では都道府県と市町村が相互に競合しないことも求めており、医療行政に関する都道府県の役割が大きくなる中、市町村が医療行政に関与すると、二重行政が生じて非効率となる可能性がある。
しかし、市町村が在宅医療や医療・介護連携に取り組む必要性や、一部の市町村が医療行政に力点を置きつつあることは既に論じた通りである。さらに、岩手県藤沢町(現一関市)や広島県御調町(現尾道市)など国民健康保険が運営する病院や診療所を中心にしつつ、日常的なケガ・疾病に対応するプライマリ・ケアに取り組む市町村が古くから存在する25ことを考えると、生活に身近な医療について、市町村が取り組む価値は大きいと思われる。
むしろ、都道府県に当てはまらない業務、例えば住民の相談窓口設置や専門職同士の連携支援、住民向け啓発といった事務については、住民の生活に身近な市町村が主体的に担うべきであり、在宅ケアや医療・介護連携に向けた市町村の主体的な取り組みが都道府県との連携を図る上での基盤となる。
24 市川喜崇(2011)「都道府県の性格と機能」新川達郎編『公的ガバナンスの動態研究』ミネルヴァ書房。
25 大久保圭二(1998)『希望のケルン』ぎょうせい、山口昇(1992)『寝たきり老人ゼロ作戦』家の光協会などを参照。
7――高齢者住宅の事例
他の分野で参考になる事例としては、高齢者住宅が挙げられる。具体的には、高齢者向け賃貸住宅である「サービス付き高齢者住宅」26の登録と、「高齢者居住安定確保計画」の策定を都道府県が担っている一方、介護保険制度は市町村が運営しており、以前から両者の連携の必要性が問われていた。
そこで、サービス付き高齢者住宅を所管する国土交通省は「まちづくりや介護行政等の主体である市町村が高齢者居住安定確保計画や高齢者向け住宅の供給方針を策定できるように制度化を進める」という考え方27の下、高齢者の居住安定確保に向けた市町村の計画策定を認める制度改正を2016年に実施した。
この点で言えば、在宅医療やプライマリ・ケア、医療・介護連携などについて、市町村が医療計画を策定すれば、市町村が医療行政に主体的に関与することとなり、都道府県と市町村の連携についての実効性は高まると思われる。
26 介護・医療と連携しつつ高齢者の居住安定化を図る賃貸住宅。原則25㎡以上の床面積、バリアフリー設備、安否確認や生活相談などのサービスを提供が条件で、2011年度に制度化された。住宅を建設した事業者が都道府県に登録する。
27 2016年5月24日、国土交通省「サービス付き高齢者向け住宅の整備等の あり方に関する検討会とりまとめ」。
8――おわりに~都道府県と市町村の連携を~
しかし、「医療=都道府県、介護=市町村」という役割分担が明確になると、その間の在宅ケアに関する両者の連携が問われることになる。そこで本レポートでは、現行制度における取り組みを紹介しつつ、市町村が医療行政に関わる必要性を指摘したほか、在宅医療やプライマリ・ケアの整備、医療・介護連携など身近な医療政策について、市町村に計画の策定を義務付ける制度改正を提案した。
確かに市町村職員からは「在宅医療に回せるほど、人も時間も余裕はない」という意見が聞かれ、特に人員が増えない中、小規模市町村では相次ぐ制度改正や権限移譲への対応を余儀なくされていることで、「制度改正疲れ」といった状況が見受けられるのも事実であり、小規模市町村への配慮は欠かせない。
しかし、在宅ケアを受けたい住民にとって、都道府県と市町村の「縄張り」など本来どうでも良い問題である。そして現場で連携しなければ、都道府県や市町村に付与された権限や責任は「無用の長物」と化す。切れ目のない提供体制の構築に向けて、都道府県と市町村の積極姿勢と、それを支える国の支援や制度改正が望まれる。
(2018年02月23日「基礎研レポート」)

03-3512-1798
- プロフィール
【職歴】
1995年4月~ 時事通信社
2011年4月~ 東京財団研究員
2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
2023年7月から現職
【加入団体等】
・社会政策学会
・日本財政学会
・日本地方財政学会
・自治体学会
・日本ケアマネジメント学会
【講演等】
・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)
【主な著書・寄稿など】
・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数
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