2018年01月26日

2018年の中国経済の注目点~過剰債務、中国IT企業、一帯一路、金融政策の4点

三尾 幸吉郎

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1.17年の中国経済の振り返り

(図表-1)中国の実質成長率と消費者物価 1GDP統計
中国国家統計局が1月18日に公表した2017年の国内総生産(GDP)は82兆7122億元(日本円換算では約1372兆円)となった。実質成長率は前年比6.9%増と16年の同6.7%増を0.2ポイント上回った。2011年以降6年連続で前年の伸びを下回る状況が続いていたが、7年ぶりに前年の伸びを上回ることとなった。また、17年の消費者物価は前年比1.6%上昇と16年の同2.0%上昇を0.4ポイント下回った(図表-1)。
(図表-2)中国の実質成長率(産業別) 経済構造の変化も静かに進んでいる。

産業別に見ると、17年の第1次産業の実質成長率は前年比3.9%増と16年の同3.3%増を0.6ポイント上回った。第1次産業としては極めて高い伸びを実現したが、その維持は徐々に難しくなるだろう。第2次産業の実質成長率は同6.1%増と16年の同6.3%増を0.2ポイント下回った。2010年の同12.7%増をピークに伸びが鈍化、15年の株価急落時には景気減速の主因となったが、16年には同6.3%増、17年には同6.1%増とほぼ横ばいの伸びを維持している。また、第3次産業の実質成長率は同8.0%増と16年の同7.7%増を0.3ポイント上回った。5年連続で第3次産業の実質成長率が第2次産業を上回ることとなり、中国経済の牽引役は第3次産業へと移行してきた(図表-2)。
(図表-3)中国の実質成長率(需要別) 一方、需要別に見ると、最終消費は4.1ポイントのプラス寄与と16年の4.3ポイントをやや下回った。但し、成長率への寄与率は58.8%と4年連続で最大のプラス要因となった。また、総資本形成は2.2ポイントのプラス寄与と16年の2.8ポイントを0.6ポイント下回った。2009年の8.1ポイントをピークに低下傾向が続いている。このように最終消費と総資本形成が寄与度を下げるなか、実質成長率を押し上げたのは純輸出だった。17年の純輸出は0.6ポイントのプラス寄与と16年の▲0.5ポイントからプラスに転じた(図表-3)。
2供給面
工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の動きを見ると、17年は前年比6.6%増と16年の同6.0%増を0.6ポイント上回った。2011年以降、工業生産は6年連続で前年の伸びを下回ってきたが、その鈍化傾向には歯止めが掛かった(図表-4)。また、業種別の内訳を見ると、鉱業が前年比1.5%減、鉄精錬加工が同0.3%増と全体を押し下げる要因となった一方、コンピュータ・通信・その他電子設備は同13.8%増、自動車は同12.2%増と全体を押し上げる要因となった(図表-5)。過剰生産設備を抱える石炭や鉄鋼などが引き続き足かせとなっているものの、情報通信や自動車などが新たな牽引役となってきており、今後もこの傾向が持続するのか注目される。
(図表-4)工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移/(図表-5)工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上、2017年)
また、製造業PMIの動きを見ると、16年上期までは景気下振れ懸念が強く、拡張・収縮の境界となる50%を挟んで一進一退の動きだった。しかし、16年10月以降は51%台へ水準を切り上げ、17年9月には一旦52%台に乗せ、その後は51%台でほぼ横ばいで推移している(図表-6)。一方、非製造業の商務活動指数を見ると、ここもとやや振れが大きいものの、概ね55%前後の高水準で推移している。同予想指数も60%台の高水準を維持しており、非製造業は堅調である(図表-7)。
(図表-6)製造業PMI/(図表-7)非製造業(商務活動指数)
(図表-8)小売売上高の推移 3需要面
消費の代表指標である小売売上高を見ると、17年は前年比10.2%増と2桁の高い伸びを維持した。自動車は小型車減税の縮小で前年比5.6%増と16年の同10.1%増を大きく下回ったものの、電子商取引(EC、商品とサービス)が同32.2%増と高い伸びを維持して消費を刺激したほか、化粧品は同13.5%増と16年の同8.3%増を5.2ポイント上回り、家具類も同12.8%増と前年並みの高い伸びを維持した。但し、17年秋以降、商品販売価格指数が徐々に上昇率を高める中で、実質ベースで見た小売売上高の伸びは鈍化し始めている(図表-8)。
(図表-9)固定資産投資(除く農家の投資)の推移 投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)を見ると、17年は前年比7.2%増と16年の同8.1%増を0.9ポイント下回った。インフラ投資は前年比19.0%増と16年の伸びを1.6ポイント上回り、不動産開発投資も同7.0%増と16年の伸びをやや上回ったものの、石炭など採掘業が同10.0%減、鉄精錬加工業も同7.1%減と大きく落ち込んだことなどから、全体の伸びは小幅に低下した。また、17は固定資産投資価格指数が徐々に上昇率を高める中で、実質ベースで見た固定資産投資の伸びは大きく鈍化した。ニッセイ基礎研究所の推計値では前年比1.4%増に留まる(図表-9)。
(図表-10)輸出入額(ドルベース)の推移 海外需要の代表指標である輸出額(ドルベース)を見ると、17年は前年比7.9%増と16年の同7.7%減からプラスに転じた。世界経済の回復が続く中で、米国、欧州、日本など先進国向けの輸出が増えたほか、「一帯一路」沿線国向けも輸出増に寄与した。また、輸出の先行指標となる新規輸出受注(製造業PMI)や貿易輸出先行指数が高水準を維持していることから、今後もしばらくは堅調を維持すると見られる。なお、17年は輸入額(ドルベース)も大きく増加、前年比15.9%増と16年の同5.5%減からプラスに転じている(図表-10)。
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三尾 幸吉郎

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