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- ポーランド紀行(その2)-「負の世界遺産」“アウシュヴィッツ絶滅収容所”
絶滅収容所は6カ所あり、アウシュヴィッツはビルケナウという第2収容所を合わせ持つ最大規模のもので、ユダヤ人をはじめポーランド人やソ連軍捕虜など150万人以上の人が殺害されたという。今は国立博物館として、有刺鉄線をめぐらす敷地と監獄やガス室を含めた当時の様子を窺い知る建物内部が一般に公開されている。第5棟には殺害された被収容者のメガネ、靴、カバンなどの日用品がうずたかく積み上げられ、第11棟の中庭には銃殺刑が行われた「死の壁」が復元されている。
一方、第2収容所のビルケナウはアウシュヴィッツの8倍以上の規模があり、約9万人の収容者がいた。敷地には強制収容するユダヤ人たちを移送する貨車の引き込み線があり、被収容者は労働不能とみなされると妊婦も子どももその場でガス室へ送られた。そこには人権など全く存在することなく、まるで鳥インフルエンザの殺処分のように人間を無差別に虐殺していたのだ。ホロコーストを描いた映画『シンドラーのリスト』や『戦場のピアニスト』などの背筋が凍るようなシーンを思い出す。
アウシュヴィッツの入口には、「ARBEIT MACHT FREI」(働けば自由になる)と書いてある。絶滅収容所の内情が外部に知れ渡ることはなく、多くの被収容者はユダヤ人強制居住区(ゲットー)への強制移住と同様に思っていたのかもしれない。人々が持参した食器など、多くの日用品がそれを物語っている。しかし、実際には強制収容された人たちは、働ける人だけが劣悪な環境の中で強制労働に就かされ、その他の人々は即刻ガス室送りや銃殺により集団処刑されていたのである。
「負の世界遺産」として人類の過ちを後世に伝える「アウシュヴィッツ絶滅収容所」は、人間の尊厳を剥奪され、存在さえ記憶から消し去られようとしたユダヤ人の「存在の証」であり、「追悼の場」なのだ。アウシュヴィッツは1945年に解放されたばかりで、決して遠い過去の遺産ではない。なぜ、何百万人もの人間が虐殺され続けなければならなかったのか。憎悪を超え、思考停止した人間の『凡庸な悪』*の恐ろしさが、ひしひしと伝わってくるのである。(つづく)
* ドイツ生まれのユダヤ人政治哲学者ハンナ・アーレントが、著書『エルサレムのアイヒマン』の中で提示した概念。
(参考)研究員の眼『ポーランド紀行(その1)~中世の街並みから聞こえる「声」』(2017年10月17日)
土堤内 昭雄
研究・専門分野
(2017年10月24日「研究員の眼」)
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