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- 最近の訪日外国人消費~旅行者増で消費額増。中国人の「爆買い」は中身が変わるも消費意欲は変わらず。今後はコト消費拡大が鍵。1泊増で+0.4兆円。
最近の訪日外国人消費~旅行者増で消費額増。中国人の「爆買い」は中身が変わるも消費意欲は変わらず。今後はコト消費拡大が鍵。1泊増で+0.4兆円。

生活研究部 上席研究員 久我 尚子
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主要国・地域の消費額の内訳について直近3年間の状況を見ると、いずれもおおむね増加しているが、2016年に中国で「買い物代」が、台湾で「買い物代」と「娯楽サービス費」が減少している(図表4a)。つまり、2016年に全体で「買い物代」が減っていた背景には消費額の多い中国や台湾からの旅行客の「買い物代」が減った影響がある。
なお、内訳が全体に占める割合は、中国や台湾、香港は「買い物代」が最も多く(中国は半数以
上、台湾・香港は4割前後)、次いで「宿泊料」が多い。一方、米国や韓国は「宿泊料」が最も多く(米国は約4割、韓国は約3割)、次いで韓国は「買い物代」が(僅差で次いで「飲食費」)、米国は「飲食費」が多い。また、米国は「交通費」が「買い物代」を上回る。つまり、中国や台湾、香港からの旅行客はモノ消費が、米国や韓国はコト消費(サービス消費)が多いという特徴がある。
なお、1人当たり消費額は必ずしも旅行者数や消費額の多い主要国・地域が上位に入るわけではない。2016年では首位はオーストラリア(24.7万円/人)であり、2位中国(23.2万円/人)、3位スペイン(22.4万円/人)、4位イタリア(19.8万円/人)、5位ロシア(19.1万円/人)の順である。このほかフランス、ベトナム、英国、米国、ドイツが続く。この中で中国やロシア、ベトナムは「買い物代」などモノ消費が、その他は「宿泊料」などコト消費が多い。後者は「宿泊料」や「飲食費」、「交通費」、「娯楽サービス費」では比較的上位にあがるが、「買い物代」の順位は低い傾向がある。
ところで、「買い物代」をはじめとした1人当たり消費額の増減の背景には為替変動の影響があるだろう。2014年後半から2015年にかけては中国元や台湾ドル、韓国ウォン、米ドルなどに対して円安の状況が続いた(図表5)。よって、旅行客の予算、つまり、消費意欲は同様でも、日本円の消費額にすると高額になったことに加え、日本での消費に対する割安感が強まることで消費意欲が高まった可能性もある。一方、2016年は逆に円高に振れたことで、消費意欲は同様でも金額としては伸びにくく、割安感も弱まることで消費意欲が低下したのかもしれない。
消費意欲については、1人当たり消費額を各国通貨に換算すると分かりやすい。消費額の圧倒的な大きさから全体への影響が大きな中国人旅行客について、日本円による消費額と中国元に換算した消費額を、それぞれ2011年の消費額を100として指数化したものを図表6に示す。日本円による指数は、これまでにも述べた通り、2015年までに比較的大きく上昇し、2016年に低下している。一方、中国元による指数は、おおむね横ばいで推移している。円の消費額だけを見ていると、中国人旅行客の消費意欲は、2015年をピークに2016年では弱まったようにも見える。一方、中国人旅行客の消費額を元に換算すると、実は、中国人の消費意欲は2011年以降、おおむね変わっていないことが分かる。最近、中国人の「爆買い」が落ち着いたという報道もあるが、中国人の消費意欲が弱まったわけではなく、購入品の内容が変わったという可能性が高い。
なお、他の主要国・地域についても同様に各国通貨に換算すると、円で見た状況と比べて変化幅は小さく、1人当たり消費額は旅行者の消費意欲というより、為替変動の影響が大きいようだ。
さらに、為替変動の状況を踏まえ、図表4(b)の1人当たり消費額の内訳を見ると、各国の消費志向の違いが見えて興味深い。2015年は各国通貨に対して円安が続いたため、1人当たりの消費総額がおおむね増えたが、内訳を見るとそれぞれ特徴がある。
中国は「買い物代」だけでなく全体的に消費額が増えており、円安による割安感は消費全体に波及している様子がうかがえる。一方で台湾や香港は「買い物代」は増えるが、「買い物代」以外のコト消費額はおおむね変わらず、円安による割安感は買い物に向く傾向がある。米国も「買い物代」以外は大きく変わらないが、もともと「買い物代」などモノ消費が少なくコト消費が多いためか、為替変動による消費額の変化は小さいようだ。なお、米国人の1人当たり消費額を米ドル換算し指数化すると、やや低下・横ばい傾向で推移している。
一方で円高に振れた後も、各主要国・地域とも旅行者数が増え続けていることは注視すべきであり、日本の観光地としての魅力が広く認識されるようになっている様子がうかがえる。
4―おわりに~日本ならではのコト消費拡大が鍵、地方旅行等で1泊増えれば+0.4兆円の効果
現在、北陸新幹線の延伸や北海道新幹線の開業をはじめ、地方への移動手段の充実化が進む。地方へのオプショナルツアー等を充実させることで、1人1泊ずつ増えると、2016年の訪日外国人旅行消費額3.7兆円について、さらに+約0.4兆円の増加、1割程度の押し上げる効果が見込める2。また、地方特産品の魅力も伝えることで、高級ブランドや化粧品などを割安で買えることが魅力の現在のモノ消費だけでなく、日本ならではの文化を楽しむコト消費が花開く可能性もある。
日本国内の消費市場は、少子高齢化による人口減少で今後の拡大は厳しい状況にある。300兆円規模の日本の個人消費と比べると、訪日外国人消費はまだ1%程度でしかない。しかし、これが伸びていくとすれば、日本の消費市場の下支えとなる可能性もある。
2020年の東京五輪開催に向けて、日本への注目がますます高まる中、日本の魅力をアピールする絶好の機会が到来している。五輪終了後も訪日外国人消費を維持・拡大するためには、為替変動による割安感だけではなく、日本の文化や歴史を通じた日本ならではのコト消費やモノ消費に、いかに魅力を感じてもらうかが肝要だ。
2 観光庁「訪日外国人消費動向調査」より、2016年の訪日外国人旅行客の平均泊数は10.1日、消費額は3.7兆円。これを平均11.1日に+1.0日増えた場合の消費額を試算。
(2017年09月25日「ニッセイ景況アンケート」)
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- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
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