2017年08月25日

米住宅市場の動向-雇用不安の後退や低金利継続が住宅需要を下支え。今後は住宅供給の増加が鍵。

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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(3)住宅需要:雇用不安の後退や低金利などを背景に住宅購入意欲は強い
需要面で住宅市場を取り巻く環境は、依然として住宅市場に追い風となっている。住宅ローン金利(30年固定)は、3%台後半から昨年11月の大統領選挙以降に急上昇し、17年初には一時4%半ばをつけたものの、その後は緩やかに低下し、足元では4%台前半で推移している(図表12)。これは16年初に近く、過去に比べて充分低い水準と言える。実際、米抵当銀行協会(MBA)が発表する住宅ローン購入指数は底堅く推移しており、昨年から今年にみられた金利急上昇の影響は限定的である。
(図表12)住宅ローン購入指数および住宅ローン金利/(図表13)住宅取得能力指数
また、中古住宅を取得する際の、住宅ローン返済額と所得を比べた住宅取得能力指数をみると、主に中古住宅価格の上昇によって、13年をピークに足元まで低下基調が持続しており、住宅取得にはネガティブな状況となっている(図表13)。しかしながら、同指数は145程度の水準と、未だに所得が住宅ローン返済額を50%近く上回っているほか、金融危機前も上回っていることから、現状では住宅価格の上昇が住宅取得に与える影響は限定的と判断できる。
(図表14)住宅購入センチメント指数/(図表15)住宅取得に関する意識調査(年齢階層別)
実際、連邦住宅抵当公庫(ファニーメイ)が発表している住宅購入センチメント指数は、7月が86.8と10年の統計開始以来最高となった前月(88.3)からは小幅に低下したものの、高い水準を維持しており、購入意欲の高さが伺える(図表14)。

また、同指数の要因別寄与度をみると、失業懸念後退が大きく購入意欲を高めているほか、足元の住宅価格上昇を背景に、将来の価格上昇懸念や、今が売り時との見方も購入意欲を支えていることが分かる。一方、将来の金利低下観測が後退することにより、購入意欲を低下させているが、住宅ローン金利が落ち着いていることもあって、全体を押下げるほどの影響はでていない。

最後に、ミレニアム世代(18-34歳)の動向について触れたい。同世代では3割超が両親と同居する1など、住宅取得に対する意欲が低いと思われてきた。しかしながら、住宅関連の情報提供サイトを運営するZILLOW社の調査では、良い人生を過ごすためや、最良の長期投資として住宅を取得したいと考えている割合が、実は65歳以上に次いで高いことが示されている(図表15)。また、同居割合は高いものの、所得環境の改善や結婚のために両親から独立する動きが加速しているとの分析2もあり、住宅初回購入年齢(平均20代後半~30代前半)に差し掛かっているミレニアム世代の独立が加速することで住宅需要の拡大が期待できる。
 
1 センサス局“The Changing Economic and Demographics of Young Adulthood: 1975-2016” (17年4月) https://www.census.gov/content/dam/Census/library/publications/2017/demo/p20-579.pdf
2 ファニーメイ” Starting to Launch: Millennial Are Leaving Mom and Dad’s Basement” (17年4月)
http://www.fanniemae.com/resources/file/research/datanotes/pdf/housing-insights-042717.pdf
(4)住宅ローン:クレジットは安定、貸出基準の緩和が持続
住宅ローン債権の質(クレジット)は安定している。住宅ローンの延滞率は低下基調が持続しており、17年4-6月期の90日以上延滞率が1.23%、全体の延滞率でも4.24%と、90日延滞率は07年4-6月期、全体では00年4-6月期以来の水準に改善している(図表16)。

また、FRBによる融資担当者調査では、住宅ローンの貸出基準が、回答数が少ないために公表されなかったサブプライムローンを除いて、すべてのカテゴリーで融資基準が緩和されていることが示されている(図表17)。このため、住宅ローンクレジットや貸出基準からは、住宅ローンが住宅市場回復の制約要因になる可能性は低い。
(図表16)住宅ローン延滞、差押え率/(図表17)住宅ローン貸出基準

3.まとめ

3.まとめ

これまでみたように、労働市場の回復や、低い住宅ローン金利などを追い風に住宅需要は非常に強い。住宅価格の上昇は続いているものの、現状では住宅需要を減退させるほどの影響はないと判断できる。

一方、住宅関連の熟練労働者の不足が深刻化しているほか、中古住宅在庫の不足やそれに伴う住宅価格上昇の影響も一部でみられており、住宅供給面の制約が住宅市場回復に水を指す可能性がでてきた。

17年4-6月期の住宅投資は3期ぶりにマイナスに転じたものの、当面は労働市場の回復持続、住宅ローンの低金利継続から、強い住宅需要を背景に、住宅投資の落ち込みは一時的で住宅市場の回復基調は持続しよう。もっとも、熟練労働者の確保など供給面の制約要因について早期の解消は難しいことから、回復ペースは緩やかに留まろう。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2017年08月25日「Weekly エコノミスト・レター」)

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