2017年08月25日

米住宅市場の動向-雇用不安の後退や低金利継続が住宅需要を下支え。今後は住宅供給の増加が鍵。

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.はじめに

17年4-6月期の実質GDP(速報値)における住宅投資は、前期比年率▲6.8%と3期ぶりにマイナスに転じた。前の2期が高い伸びとなった反動に加え、住宅着工件数や先行指標である住宅着工許可件数ともに回復のモメンタムが低下していたことから、マイナスに転じたこと自体は想定通りと言える。

米住宅市場は、金融危機後に大幅な落ち込みを示したものの、その後は息の長い成長が続いている。労働市場の回復や住宅ローン金利の低下など住宅市場を取り巻く環境が良好で、住宅需要を支えてきた面が大きい。

一方、住宅市場の回復に伴って、足元では建設現場での人手不足感が非常に強まっており、住宅供給の制約となるとの懸念がでてきた。また、米国内で重要な位置を占める中古住宅販売では手頃な価格帯の住宅在庫の減少が顕著となる中で、新築住宅に比べて中古住宅の価格上昇が顕著となっている。このため、住宅の初回購入層や低所得者の住宅取得に影響する可能性がある。

本稿では、足元の住宅市場の動向について説明しているほか、住宅供給が住宅市場の回復に与える影響についても整理した。結論から言えば、当面住宅需要は堅調が見込まれるため、足元の住宅投資の落ち込みは一時的とみられるものの、今後の回復ペースは住宅供給面の影響を受けるというものだ。
 

2.住宅市場の動向

2.住宅市場の動向

(1)住宅着工・許可件数:金融危機前となる07年の水準に回復も、モメンタムは低下
17年4-6月期の実質GDPにおける住宅投資は、前期比年率▲6.8%(前期:+11.1%)と3期ぶりにマイナスに転じた(図表1)。その前2期が高い伸びとなっていたほか、住宅着工件数(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)が、6月に年率で▲21.4%と大幅に落込んでいたことから、マイナスに転じることは予想されていた。
(図表1)住宅着工件数と実質住宅投資の伸び率 住宅着工の先行指標である許可件数(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は、5月に▲13.0%の落ち込みとなったあと、マイナス幅は縮小しているものの、直近7月でも同▲4.4%と減少が続いており、住宅投資は7-9月期に入っても回復がもたついている。

一方、住宅着工、許可件数(3ヵ月移動平均)の水準をみると、住宅着工件数が116万件台、許可件数が122万件台と、05年から06年にかけてつけたピーク(214万件、223万件)からは大幅に低い水準に留まっているものの、金融危機前となる07年12月以来の水準に回復していることが分かる(図表2、図表3)。
(図表2)住宅着工件数/(図表3)住宅着工許可件数
もっとも、ここに来て住宅着工件数の回復を妨げる要因として、住宅建設関連の労働力不足が指摘されている。住宅建設関連の雇用者数は、09年の200万人割れから、足元では270万人程度まで回復している(図表4)。もっとも、こちらも05年につけた340万人台のピークからは70万人程度低い水準である。

米労働統計局(BLS)によれば、6月の住宅以外も含めた建設業雇用者690万人に対して、求人数は22.5万人となっており、建設業界で求人意欲は強い。

実際、全米住宅建設業協会(NAHB)が7月に発表した、建設業者を対象とした労働力不足に関する特別調査では、熟練労働者が不足しているとの回答が12年以降に増加しており、足元では6割超と、住宅着工がピークをつけた05年の水準を超えている(図表5)。住宅建設業界には、労働力不足が住宅建設の制約条件になっているとの危機感が非常に強くなっているようだ。
(図表4)住宅建設関連雇用者数および住宅着工件数/(図表5)住宅着工件数および労働力不足感
(2)住宅販売・価格:中古住宅在庫が不足、住宅価格の上昇要因に
新築住宅販売件数(3ヵ月移動平均)は、08年以来となる年率60万件台まで回復している(図表6)。しかしながら、伸び(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は、7月に年率▲5.1%(前月:▲3.0%)と、6ヵ月ぶりにマイナスに転じた6月から2ヵ月連続でマイナスとなっており、回復のモメンタムは低下している。

次に、新築住宅販売在庫(3ヵ月移動平均)は年率27.3万件と、16年9月以降は増加が続いている。また、販売額と比べた在庫月数も5.4ヵ月と、16年3月以来の水準まで増加した。もっとも、幾分増加したとは言え、在庫月数は過去との比較では依然として低い水準となっている。
(図表6)新築住宅販売および在庫/(図表7)住宅市場指数(項目別)
一方、足元のモメンタムの低下にも拘らず、建設業者の新築販売に対するセンチメントは強い。住宅市場指数は直近8月が68と、17年3月(71)からは小幅に低下しているものの、昨年より高い水準を維持している(図表7)。とくに、今後6ヵ月の新築住宅販売見込みは、78と05年以来の高さとなっており、新築住宅販売に対する強気の見方が維持されていることが分かる。
 
次に、新築住宅販売件数のおよそ9倍の規模である中古住宅販売件数(3ヵ月移動平均)をみると、7月は07年前半以来の水準となる550万件超となったものの、17年5月(560万件台)をピークに低下している(図表8)。この結果、7月の伸び(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は▲3.8%となった。

一方、中古住宅在庫は、中古住宅販売が拡大する中で減少傾向が続いている。この結果、在庫月数は7月に4.2ヵ月と、金融危機前後の水準を大幅に下回っているほか、7月としては82年の統計開始以来最低となっており、住宅在庫の不足が顕著である。

また、中古住宅在庫について、販売価格によって3分類した階層別にみると、価格上位の件数が3分位中最大となっているものの、13年以降は安定している一方、中位および下位の在庫減少が大きいことが分かる(図表9)。住宅の初回購入層は中低価格の物件を購入することが多いとみられることから、これらの価格帯の在庫物件の減少は初回購入者の住宅取得に影響する可能性がある。
(図表8)中古住宅販売および在庫/(図表9)住宅在庫件数(価格階層別)
次に、住宅価格をみると、米国連邦住宅金融局(FHFA)の住宅価格指数と、ケース・シラー住宅価格指数ともに足元で最高水準となったものの、価格上昇率(前年比)では14年以降概ね4~6%台の伸びとなっている(図表10)。これは2%を下回る物価水準を大幅に上回っているが、足元で住宅価格の顕著な加速は、みられていないと言える。
(図表10)住宅価格(前年同月比)/(図表11)新築、中古住宅販売価格比較
一方、中古住宅と新築住宅の販売価格(中央値)を比較すると、新築、中古住宅ともに最高値を更新する一方、新築住宅の中古住宅価格に対する比率は15年半ば以降に低下基調が鮮明となっている(図表11)。これは、中古住宅価格の上昇が新築住宅に比べて顕著となっていることを示しているが、中古住宅在庫の不足を反映したものだろう。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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