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女性医療の現状(後編)-骨粗鬆症のリスクを減らすには、どうしたらよいか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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睡眠障害は、不眠症、睡眠時無呼吸症候群などに分かれる。睡眠障害のうち、6~7割は、不眠症が占めている。不眠症は、更年期の女性が有する代表的な症状の1つとされる24。
不眠症は、寝つきが悪い入眠障害。睡眠中に、何度も目が覚めてしまう中途覚醒。眠りが浅く、熟睡した気がしない熟眠障害。早朝に目が覚めてしまい、その後悶々として眠ることができない早朝覚醒に分けられる。高齢になると、中途覚醒や、早朝覚醒が多くなるとされる。
不眠症の他に、過眠症25、概日(がいじつ)リズム睡眠障害26、睡眠呼吸障害27、レストレスレッグス症候群28などの症状を呈する場合もある。
厚生労働省の研究班は、睡眠障害対処のための指針を示している。
24「平成20年患者調査」「平成23年患者調査」のオーダーメード集計 (厚生労働省)によると、睡眠障害の患者中、2008年は70%、2011年は65%が不眠症。なお、不眠症の患者のうち女性が占める割合は、2008年63%、2011年61%となっている。
25 夜眠っているにもかかわらず、日中に強い眠気が生じ、起きているのが困難となる症状。
26 生物体に本来備わっている、概ね1日を単位とする生命現象のリズムを概日リズムという。概日リズム睡眠障害は、昼夜のサイクルと概日リズムが合わないため、自ら望む時間帯や社会的に要求される時間帯に睡眠をとれず、活動に困難をきたす状態を指す。
27 睡眠中に、異常な呼吸となる病態。多くは、睡眠中に何度も呼吸が止まる、閉塞性睡眠時無呼吸症候群となっている。
28 眠ろうと床に就くと、足や腕を動かしたい強い欲求と、足や腕の深部の不快な感覚(むずむず感、痛かゆさなど)が生じ、じっとしていられず、手足を動かしたくなる病態を指す。
2――老年期
1|老年期には、泌尿婦人科の疾患が見られる
老年期には、骨盤臓器脱や尿失禁といった泌尿婦人科の疾患を伴うことがある。
(1)骨盤臓器脱
筋力低下に伴い、骨盤内の臓器の位置に異常が生じる場合がある。子宮、膣、膀胱、小腸、直腸が下垂したり、脱を起こしたりする。骨盤臓器脱の診断には、POP-Q分類29と呼ばれる、ステージ分類の方法がよく用いられる。
(2)尿失禁
患者調査(厚生労働省)をもとに、年齢層別の尿失禁の患者の出現状況を見ると、各年代で患者が出現しており、特に70歳代で高い。尿失禁は、腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁、混合性尿失禁の3つに大別される。このうち、腹圧性尿失禁は女性に多く、切迫性尿失禁は男性に多いとされる。
1) 腹圧性尿失禁
腹圧性尿失禁は、膀胱に尿が溜まった状態で、咳や、くしゃみなどの腹圧のかかる動作がきっかけとなって生じる。女性は、出産や加齢等により、骨盤底筋が緩み、膀胱や尿道が下垂しやすいとされる。この状態で腹圧の急な上昇があると、尿道閉鎖ができず、尿失禁に至ることがある。
腹圧性尿失禁の治療法には、PFMT、薬物療法、手術療法が挙げられる。薬物療法は、PFMTと併用されることもある。手術療法としては、尿道スリング手術36が行われることが多い。
2) 切迫性尿失禁
切迫性尿失禁は、徐々に強まる正常の尿意ではなく、急激に起こる我慢のきかない病的な尿意を伴う。これは、尿意切迫感と呼ばれる。玄関やトイレのドアを開けるときに、尿失禁を起こす「ドアノブ尿失禁」。洗濯、炊事、洗顔が尿失禁の引き金となる「手洗い尿失禁」などが、知られている。昼間・夜間を問わず、排尿回数が増える頻尿の傾向を伴うことも多いとされる。
切迫性尿失禁の治療は、薬物療法が中心となる。
3) 混合性尿失禁
混合性尿失禁は、腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁が混合した症状となる。治療にあたっては、両者の出現の比重を確認する。
29 POP-Qは、Pelvic Organ Prolapse - Quantificationの略。
30 PFMTは、Pelvic Floor Muscle Trainingの略。
31 哺乳類の外部生殖器と肛門との間。(「広辞苑 第六版」(岩波書店)より)
32 周囲から肛門を引き上げて支えるようにはたらく筋。
33 ペッサリーという直径5~8cm程度の細いドーナツ状のリング(塩化ビニル製樹脂などで、弾力性がある)を膣内に入れ、下垂した臓器を元の位置に戻す方法。なお、ペッサリー保存療法は、骨盤臓器脱の根本的な治療法とはならない。
34 ポリプロピレンなどの人工繊維
35 脊柱の下端部すなわち腰部にある二等辺三角形の骨。5個の仙椎の癒合したもので、尾骨と共に骨盤の後壁を作る。(「広辞苑 第六版」(岩波書店)より)
36 特殊なテープで尿道を吊り支え、膀胱(ぼうこう)に腹圧がかかっても尿失禁を起こさないようにするもの。恥骨後方にメッシュテープを留置するTVT(Tension-free Vaginal Tape)法と、TVT法でまれに発生し得る腸管穿刺や大血管損傷などの重大な合併症を避けるために、テープを閉鎖孔に通すTOT(Trans-Obturator Tape)法がある。
2|老年期には、大腸がん・胃がんなどの消化器系のがんの罹患率・死亡率が高くなる
男女を問わず、高齢になると、消化器系のがんが多くなる。大腸がんは、女性の部位別のがん罹患率では第2位、がん死亡率では第1位を占めている。また、胃がんは、罹患率、死亡率とも、第3位となっている。大腸がん、胃がんとも、高齢層ほど、罹患率や死亡率が高い傾向となっている。
大腸がんは、結腸がんと直腸がんが、大半を占める。腫瘍が早期に発見されて、リンパ節への転移がなく、進行度が低ければ、内視鏡治療での根治が可能となっている。一方で、進行度が高い場合は、開腹手術での腸切除を要することもある。直腸がんでは、人工肛門の造設が必要となる場合もある。
胃がんは、かつて女性の部位別がん死亡率で第1位であったが、近年は、低下を続けている。胃がんには、喫煙や飲酒の頻度が影響していると言われる。女性は、これらの頻度が男性に比べて少ないため、胃がんが男性よりも低いとされる。早期のがんで、リンパ節転移等がなければ、内視鏡手術での治療が可能となる。一方、進行度が高いと、開腹手術による胃の部分切除や全摘が必要となる。なお、胃の切除後には、カルシウムの摂取量が減少すると言われている。このため、カルシウム不足に伴う、骨軟化症や骨粗鬆症が生じやすくなる、とされている。
(2017年08月03日「基礎研レポート」)
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保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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