2017年07月04日

救急搬送と救急救命のあり方

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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4|救急医療チームとして、DMATやJMATなどが整備されている
近年、救急医療チームの整備が進んでいる。災害発生時には、DMAT、JMAT、DPATが結成され、被災地に派遣されている。

(1)DMAT
DMAT40は、2005年に発足したもので、主に災害拠点病院に置かれた医療チームである。災害拠点病院は、1つないし数チームのDMATを有しており、災害時には、被災地に派遣する。(次章で、詳述。)

(2)JMAT
一方、JMAT41は、日本医師会が統括する災害医療チームで、災害発生から72時間が経過して、DMATが退去する際に、入れ替わって災害現場に入り、避難所や救護所で、現地の医療体制が回復するまで、地域医療を支える役割を担っている。被災地の在宅患者の医療や健康管理も行う。JMATは、2010年に日本医師会より創設の提言が出され、準備を進めていた。2011年の東日本大震災発生時に、それまでの検討をもとに結成され、被災地に派遣された。医師1名、看護師2名、事務職員(運転手)1名の、4名で1つのチームが編成される。日本医師会の会員以外の参加も、可能とされている。このため、JMATの隊員は、多くの医師を含む、豊富な医療職からなることが多い。JMATは、被災地の医療復興の中核的存在となっている。

(3)DPAT
更に、大規模災害などで被災した精神科病院の患者への対応や、被災者のPTSD等の精神疾患発症の予防などを支援するために、都道府県・政令指定都市によって、DPAT42が結成・派遣される。DPATは、精神科医、看護師、業務調整員等の数名で1つのチームが編成される。災害発生から72時間以内に、先遣隊が被災地に入り、1週間を目処に、活動するチームが交代する。
 
40 DMATはDisaster Medical Assistance Teamの略。
41 JMATはJapan Medical Association Teamの略。
42 DPATは、Disaster Psychiatric Assistance Teamの略。東日本大震災では、自治体や医療機関から、精神科医を中心とする「こころのケアチーム」が派遣された。その後、このチームを参考に、厚生労働省が、DPATの名称や、活動内容を全国統一的に定めた。
 

9――災害派遣医療チームの編成

9――災害派遣医療チームの編成

1|災害発生時には、災害派遣医療チーム (DMAT) が編成される
日本では、災害発生時、急性期に、災害現場での医療活動を可能とする、機動性のある自己完結型チームとして、災害派遣医療チーム(DMAT)が編成される。DMATの任務は、被災地域内での医療情報収集・伝達、傷病者の搬送・診療、医療機関の支援・強化である。災害時に、医師1名、看護師2名、業務調整員1名の、4名で1つのチームが編成される。業務調整員は、医療物資の手配等を担当する。災害発生後48時間以内に災害現場に行き、負傷者の救出・救助、トリアージ、治療・搬送などを手がける。DMATは、災害発生から72時間経過時までの救急医療期を中心に、活動する。

2|大規模災害時には、広域医療搬送を行うDMATも編成される
大規模災害においては被災地内で、医療が完結しない場合がある。このため、傷病者を被災地外へ、広域医療搬送する必要が生じる。その場合、航空機の広域航空搬送基地が設置される。その基地で、臨時医療施設として、ステージングケアユニット(Staging Care Unit, SCU)が設けられる。大規模災害時には、被災地の近隣地域だけではなく、遠隔地域のDMATも参集して、広域医療搬送にあたる。
 
図表31. DMATの活動 (イメージ)

SCUは、一時的な治療室であり、医師5名、看護師10名、業務調整員5名からなる医療チームとして立ち上げられる。医療チームは、ヘリコプター43等での広域航空搬送の待機拠点として、SCUで診療を行うほか、チームの一部は搬送する航空機に同乗して、搬送中に、傷病者の治療を行うこととなる。
 
43 搬送のための航空機として、ドクターヘリが用いられることも一般的。

3|DMATの拡充が期待される
DMATは、災害医療専従のチームではない。災害発生時に、出動要請があってから編成される。このため、要請と同時に出動するドクターヘリやドクターカーに比べると、出動のタイミングは遅くなる。

DMATは、阪神・淡路大震災での災害医療救護体制不備への反省をきっかけに、創設の検討が進められた。この震災では、災害医療の訓練を積んだ医療チームが、救出・救助チームに帯同していなかったため、初期医療体制が遅れたと考えられている。後に、平時の救急医療レベルの医療が提供されていれば、救命できたと考えられる「避けられた災害死」が500名存在した可能性があった、と報告されている44

2005年に、厚生労働省は、日本DMATを発足させた。近年、DMATの注目度は、徐々に高まっている。DMAT隊員になるためには、4日間の研修を受けて登録することが必要とされている。登録後は、隊員資格の更新が、5年ごとに行われる。DMAT隊員数は、9,328人(2015年3月現在)となっており、徐々に拡充が進んでいる。
 
図表32. DMAT隊員登録者数の推移
 
44 「DMATとは?」(DMAT事務局ホームページ, (アドレス) http://www.dmat.jp/DMAT.html) より。
 

10――災害医療の教育・訓練

10――災害医療の教育・訓練

災害医療においては、防災教育や防災訓練が欠かせない。特に、後述するトリアージについては、訓練を通じて、課題を明らかにし、その是正を図ることが、災害時の的確な判断につながるとされている。ここでは、災害医療の教育・訓練について見てみよう。

1|防災訓練を通じて、防災・減災意識の高まりが期待される
災害医療においては、医療をいかにマネジメントして実践するか、が重要である。イギリスでは、大規模災害時の医療について教育・訓練をするために、MIMMS45という、少人数向け教育システムが設けられている。これは、医療関係者、救急救命士、消防、警察等、災害医療に関わる幅広い職種を対象としている。MIMMSは、日本には、2003年に紹介された。それ以来、DMATの養成研修テキストに組み込まれるなど、国内の災害医療従事者の間で、急速に広まった。

MIMMSでは、大規模災害に体系的に対応するために、CSCATTTと呼ばれる7項目が、基本的な項目として掲げられている。即ち、災害時に、トリアージ、治療、搬送のTTT(3T)を実践するためには、その前提として、CSCAのマネジメントを確立させておくことが重要とされている。
 
図表33. CSCATTT


災害医療では、平時から、CSCATTTのAにあたる防災訓練を行い、搬送や医療の体制の確認、課題の抽出などを行うことが有効である。近年、全国の防災訓練の実施回数は、増加している。訓練を通じて、災害に対する備えを啓発する中で、一般住民の防災・減災意識が高まっていくことが期待されている。
 
図表34. 防災訓練の実施回数
 
 
45 MIMMSは、Major Incident Medical Management and Supportの略。Advanced Life Support Group (ALSG) という、イギリスの独立した慈善団体によって、運営されている。MIMMSコースに基づく研修は、イギリスのみならず、オーストラリア、ニュージーランド、オランダ、南アフリカなど、多くの国で行われている。


2|トリアージの実施には、教育・訓練が欠かせない
次章以下で詳述するように、トリアージは、一時に発生した多数の傷病者を、重症度・緊急度に応じて区分し、搬送や治療の優先順位付けをするという、災害医療に特有のものである。実際に、災害が発生したときに、切迫した状況下で、的確な判断を下すためには、平時におけるトリアージの教育や訓練が欠かせないものとされている。

(1)トリアージ教育
トリアージの教育研修コースは、標準化が進められてきた。これにより、医師、看護師、救急救命士、消防、警察等、多職種・多機関の間での連携が、可能となってきた。

DMATなどの集合研修では、トリアージについての講義と演習が行われる。講義では、講師と受講生の間で、ディスカッションを行い、知識やスキルの定着が図られる。演習では、ホワイトボードで、傷病者をマグネットに見立てて行う机上演習や、模擬患者を使い、災害現場を想定する実働演習などが行われる。

(2)トリアージ訓練
トリアージは、災害発生時に行われるもので、広域での事前訓練が重要となる。例えば、ある病院の医療スタッフ全員に対して、訓練が行われる。その際、多数の模擬患者の発生を想定する。災害時に生じやすい、異常事態、突発事象を織り込みながら、訓練が行われることもある。

また、住民も参加して、地域全体で訓練を行う場合もある。その場合は、消防、医療間の情報連携や、搬送等の訓練が行われる。併せて、地域住民に対して、トリアージについて周知する機会にもなり、一般市民の防災・減災や、自助意識の醸成につながるものと期待されている。
 
図表35. 応急対策訓練の例


以上、見てきたように、災害医療では、一時に、多数の死傷者が出現し、時間の経過とともに、求められる医療の内容が変化する。このため、災害医療体制を整備し、DMAT等の救急医療チームを拡充させることが必要となる。これに併せて、トリアージの枠組みを確立することも、不可欠となる。

次章以降では、トリアージについて、見ていくこととしたい。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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