コラム
2017年03月21日

親と子どもの「結婚希望時期のズレ」の壁-未婚化・少子化社会データ検証:子の希望に立ちはだかる親の意識

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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子どもより親の方がのんびりとした結婚意識

子どもたちの希望を結婚の実態と照合すると、厚生労働省によれば2015年の平均初婚年齢は夫31.1 歳、妻29.4 歳であるため、未婚女性の約6割の「20代後半までに」希望とは実態がぎりぎり近い数値、未婚男性の約5割の「20代後半までに」希望には実態が乖離する数値となっていることがわかる。

そして、上記の親と子どもの結婚希望時期の調査結果からは、子どもよりも親の方が結婚適齢期の感覚が遅い傾向が見て取れる(図表1)。

娘の場合、子どもの約6割が20代での結婚を希望しているのに対し、父親は約5割・母親は約4割と親の方の希望時期が子どもよりも遅い傾向にある。そして母親の方がよりのんびりと構えていることもわかる。

また息子の場合も、約5割が20代後半までに結婚したいと本人は考えているにも関わらず、父親は約4割、母親の希望は約3割となっており、息子の希望より遅い結婚を両親が希望しているようである。こちらも母親の方がよりのんびりと結婚時期を考えており、子どもの希望との乖離幅が顕著である(図表1)。
【図表1】20代後半までに結婚したい(親:して欲しい)割合比較表(%)

母親の息子の結婚年齢の第一希望「30代前半まで」がもつリスク

中学生から29歳までの子どもを持つ母親は、「息子の結婚は30代前半まで」希望が最も多い約4割(父親は約3割)であると民間大規模調査データからは示された。

このことは何を意味しているだろうか。

2015年に実施された最新の国勢調査結果のデータを見てみよう(図表2)。
【図表2】年齢階級別の結婚状況 国勢調査最新結果
日本では結婚希望者が未婚男女とも約9割で推移しているにも関わらず3、特に男性未婚率が急増している。今や50代前半において、女性のおよそ倍の割合の20.1%、死別も離別も経験していない男性未婚者が存在する(図表2)。
 
母親たちが息子に最も希望するリミット時期である「30代前半における男女の結婚状況」では、すでに女性の約6割が既婚であり、死別離別経験者も含めると約7割が結婚経験者となっている。その一方で男性は約半数が未婚のままである。

年の差婚希望のコラム4で示したように、34歳までの未婚男性の約6割が2歳年下までの「同じくらいの年齢の女性と結婚したい」(4歳年下希望まで含めると約7割)と望んでいる。

息子たちは同じくらいの年齢の女性との結婚を希望しているにもかかわら ず、彼らが30代前半になってからそういった女性との結婚を希望した場合には、
30代前半の結婚未経験女性
20代前半では約9割が未婚である結婚相手女性のマーケットが、20代後半では3分の2の約6割、30代前半では3分の1の約3割にまで縮小してゆくことを、息子をもつ母親たちは認識しているだろうか。
 
ここで、30歳を過ぎた息子が「では未婚女性が沢山いる20代女性を狙えばいいのではないか」という議論が頭に浮かぶだろう。

しかし、年の差婚希望のコラム5で示したように、現在は未婚女性側も同じくらいの年の男性を希望(4歳上まで希望で約8割)しているため、この議論は「お相手の女性の気持ちを無視した一方的な息子親の期待」となるだろうことをデータは示している。また、実際の結婚が、近年では年上夫婚が約半分にまで激減し、同年齢婚や年上妻婚が増加しているトレンドからも、トレンドと逆行した一昔前の結婚形態への期待であることが指摘出来る。
 
息子が、お相手が誰でもいいのではなく「希望の相手との出会い」を叶えようとするならば、結婚の時期を遅らせる、ということは母親が想像するよりもかなりシビアな状況を息子に迫ることとなる、ということを親は認識しておくべきである、といえるだろう。
 

子どもの希望を叶える結婚支援にむけた、親の意識改革を

データからは、「子どもの希望にそった」結婚の夢を叶えるためには、子どもの意識もさることながら、親の意識の改革が必要であるのではないか、という議論の可能性が浮かび上がってきた。
  • その多くが20代後半で結婚したいと願いながらも、実際は30代前半の結婚となりつつある未婚男女。
  • 両親、とくに息子に対する母親が、子どもよりもその結婚適齢期をのんびりと捉えている。
  • 年々急増する日本における男性の生涯未婚率。

上記の全てのデータが示しているベクトルは、同じことを指し示し、提案しているように筆者には思えてならない。

「子どもたちの結婚希望時期と現実の結婚時期の乖離をうみだす壁」を他ならぬ私たち親が作っているようなことがないか、今一度、親としての意識・言動を見直してみることが必要なのではないだろうか。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2017年03月21日「研究員の眼」)

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