2016年10月31日

インドの生命保険会社の状況-2015年度の決算数値を踏まえての成長性・効率性・収益性・健全性等の動向-

中村 亮一

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1―はじめに

インドの生命保険市場全体の状況については、2015年12月から2016年1月にかけての基礎研レター1において、市場全体の一般的な状況、保険監督規制を巡る状況について、特に財務関係を中心に、その動向を報告した。併せて、インドの主要な生命保険会社の経営効率や収益性・健全性等の状況についても、2014年度決算数値に基づいて、その概要を報告した。

今回のレポートでは、2015年度決算数値を踏まえて、昨今のインドの生命保険会社の成長性・効率性・収益性・健全性等の状況について報告するとともに、外資系保険会社を中心とした最近の動向について触れることとする。
 
 
1 基礎研レター「インドの生命保険市場(1)~(6)」(2015.11 30~2016.1.18)
 

2―販売業績の状況-収入保険料

2―販売業績の状況-収入保険料

2015年度の生命保険会社の収入保険料は、対前年4.4%増加して、328,101.14 crore(千万)ルピー(1ルピー=1.68円とすると、約5.5兆円)となった。

収入保険料の過去からの推移を、国営で最大の生命保険会社であるLIC(Life Insurance Corporation of India)とLIC以外の民間との内訳別に見てみると、次ページ左図の通りとなっている。2000年8月に市場が民間保険会社に開放されて以降、2010年まで保険料は急速に増加してきていたが、2010年9月のユニット・リンク保険商品(ULIPs)に対する規制の見直し等を受けて、その後2年程は保険料の伸びが鈍化していた。ただし、2013年度以降は、再び保険料を増加させ、成長軌道に乗せている。具体的には、収入保険料の年平均増加率は、2000年から2010年の10年間においては23.7%であったのに対して、その後2年間で▲0.8%となり、2013年からの2年間では6.9%となっている。

またLICとLIC以外の収入保険料シェアの推移を見た場合、次ページの右図の通り、LICのシェアは、2010年までは徐々に低下してきていたが、民間保険会社においてウェイトが高いユニット・リンク保険が監督規制の影響等で販売が低迷したことから、ここ数年は若干上昇していた。ただし、2014年度以降、経済環境の改善を受けた好調な株式市場や各社の新商品の投入等により、ユニット・リンク保険の販売が回復したこともあり、民間保険会社のシェアが再び上昇し、LICのシェアは低下してきている2
収入保険料の推移(億ルピー)/LICとLIC以外の収入保険料シェア(%)の推移
 
2 LICは、商品ガイドラインの改訂後、2015年8月になって初めて、改訂後のユニット・リンク保険を発売している。
 

3―経営効率の状況

3―経営効率の状況

以下においては、LICと民間の外資系生命保険会社のうち収入保険料で上位の5社3について、2015年度決算(2016年3月末)ベースの各社のPublic Disclosures資料の数値に基づいて報告する(なお、以前の基礎研レターでも触れたが、各社の報告数値のベースが、必ずしも統一されていないことや、例えば有効数字の取り方も会社によって異なっている(小数点以下の有効数字について、0桁、1桁、2桁の会社が混在している)点は、ご理解いただきたい)。

1|継続率
保険契約の13月目と25月目の継続率(年換算保険料ベース)の過去5年間の推移は、次ページの図表の通りである。継続率は、商品・販売チャネル等によっても、大きく異なるが、これらの合計数値として、会社全体の数値が示されている。さらには、各社の算出ベースも、必ずしも統一されているとは限らない。従って、会社間で水準を比較する場合には注意が必要となる。 

ただし、これらを考慮した上でも、全体数値としては、1社を除いては、概ね13月目継続率が70%~80%、25月目継続率が60%~70%の水準となっている。

各社とも、継続率の改善は大きな課題であり、監督当局であるIRDAI(Insurance Regulatory and Development Authority of India)も注視しているが、これらの全体数値を見る限りにおいては、未だ大きな改善が見られるという状況にはなっていない模様である。
継続率(13月目)年換算保険料ベース/継続率(25月目)年換算保険料ベース
 
3 なお、HDFC StandardとMax Lifeは合併して、インド最大の民間生命保険会社になる交渉を開始したことを公表しているが、以下では、あくまでも2015年度末の状況に基づいて、2つの会社の数値をそれぞれ報告している。
2|事業費効率
事業費効率の推移は、以下の図表の通りである。基本的には、民間保険会社については、規模の拡大に伴い、事業費率が低下していくことが期待されているが、実績もほぼそれを裏付ける形になっている。また、手数料(コミッション)率についても、各種の規制の影響等により、低下傾向が見られる。
総事業費率(対保険料)/手数料(コミッション)率(対保険料)/事業費率(対保険料)
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中村 亮一

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