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サイバーリスク保険の普及-サイバーリスクは、保険でどこまでカバーできるのか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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4――日米のサイバーリスク保険の動向
1|アメリカでは、今後もサイバー保険への加入が進む見通し
アメリカでは、1997年にAIG社がサイバーリスク保険を販売した。その後、約20年の間に、サイバーリスクの認識が徐々に拡がってきた。近年、この保険の加入率は上昇している。保険仲介大手のMarsh & McLennan社が、アメリカの自社顧客に対して行った調査5によれば、2014~15年にかけて、サイバー保険の顧客が27%増加した。2013~14年にかけての32%、2012~13年にかけての21%に続き、高い増加率を維持している。この結果、保険加入率は、約2割となっている。ただし、これは、まだ8割の顧客が未加入とも言え、今後もサイバー保険への加入の動きが進むものと考えられる。なお、産業別の加入率を見ると、医療・健康分野(55%)、教育分野(41%)などが、高率となっている。
4 なお、保険業界では、保険会社自身が直面するサイバーリスクについて、リスク管理の議論が進められている。例えば、2016年8月には、保険監督者国際機構(IAIS)が、このテーマについて、イシューペーパー‘Issues Paper on Cyber Risk to the Insurance Sector’を公表している。
5 ‘Committee on Homeland Security Subcommittee on Cybersecurity, Infrastructure Protection and Security Technologies“The Role of Cyber Insurance in Risk Management”’ Matthew P. McCabe (Marsh, LLC, March 2016)より。
日本では、サイバーリスク保険の開発がアメリカよりも遅い。2012年に、AIU保険会社が、このリスクに対する保険を発売した。しかし、その後2年以上の間、あまり販売は進まなかった6。
その後、世界的なサイバー犯罪の増加を受けて、2015年に、複数の損保会社で、企業向けのサイバーリスク保険の取り扱いが始まった。これらの保険は、サイバー被害に遭った場合の様々な費用を補償する。サイバーリスクには、国境がないため、海外での損害賠償請求訴訟に関する、賠償金・争訟費用も、補償対象としている点が、これらの保険の特徴といえる。ただし、第2章で見たとおり、日本では、サイバー犯罪は増加しているものの、その損害額は他国に比べて低水準にあり、サイバーリスクについての企業側の認知は、まだ道半ばといえる。今後、海外でビジネスを展開する企業等を中心に、サイバーリスク対策の必要性の認識が高まるに連れて、この保険のニーズも高まるものと思われる。
6 サイバーリスク保険の国内での普及については、「日本でさっぱり売れない『サイバーセキュリティ保険』、普及への壁」清嶋直樹(日経コンピュータ, 2015年3月18日) などで取り上げられている。
5――おわりに (私見)
そのためのツールとして、サイバーリスク保険の活用が考えられる。日本では、この保険の拡販が進められており、そのニーズは高まるものと思われる。また、現在は、保険加入が企業に限られているが、今後は、個人事業主等にも、サイバーリスク保険を提供することが考えられる。
サイバーリスクの動向とともに、それに備える保険の普及の状況についても、引き続き、注目していく必要があろう。
(2016年09月13日「保険・年金フォーカス」)
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保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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