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人は時に合理的である-ふるさと納税シリーズ(3)ふるさと納税の変遷が教えてくれる

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 高岡 和佳子
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3――寄附者の合理的行動
2章では、寄附者を軸に集計されたデータを用いて、寄附者一人当たりふるさと納税額と利用者数の推移を確認した。そして、推移を参考にふるさと納税利用者層の変遷とその変化の引き金について論じた。この章では、寄附受領者である自治体から集計されたデータを用いて、寄附一件当たり寄附額の推移を確認する(図表2)。平成20年度の15.2万円から平成24年度の8.5万円まで徐々に低下してはいたが、注目すべきはふるさと納税に対する返礼品に対する認知度が高まり始めた平成25年度に急減している点だ。そして、集計時期が多少異なるが、図表1の同時期の寄附者一人当たりふるさと納税額と比較すると寄附者の行動変化がよく分かる。平成24年度までは、一件当たり寄附額(平成24年度:8.5万円)は寄附者一人当たりふるさと納税額(平成24年:12.2万円)の3分の2程度であったが、平成25年度は3分の1、平成26年度に至っては4分の1程度に低下している。これは、返礼品目的の寄附が急増したことと、当時主流だった返礼品の送付方針に起因するものだ。

総務省が平成25年9月に公表した「ふるさと納税に関する調査結果」によると、特産品を送付することについて、「積極的に実施すべき」と回答した自治体が13%、「特に、問題はない」と回答した自治体が55%で、返礼品の送付に否定的な自治体は一部に限られていた(図表3)。そして、自治体が返礼品の送付に好意的な理由として、PR効果や感謝の気持ちを伝える手段を挙げる自治体が大多数を占めている。
PR効果や感謝の気持ちを伝える手段であったことから、返礼品の送付方針は「一定額以上の寄附者に対して、同じ特産品等を送付」が42%、「全ての寄附者に対して同じ特産品等を送付」が14%となっていた(図表4)。つまり、一定額以上寄附すれば、寄附金額と返礼品の量や質は無関係とする自治体が半数以上を占めていた。なお、「寄附金額に応じて特産品等の内容を変更」が44%あるが、筆者は、「寄附額が高額な場合に、牛一頭分の牛肉等の特別な特産品が用意されている事例があった程度で、返礼品の量や質が寄附金額に比例してはいなかった」と記憶している。
以上のことから、一部の高額納税者を除き、自己負担下限額以上に負担しない限り、特別な特産品に手が届かなかった。また、同一の自治体に一定額を超えて寄附しても、返礼品の量や質が良くなることもなかった。これより、返礼品目当ての寄附者における最適寄附行動は明らかである。一つの自治体に対する寄付金額は、特産品に手が届く最小限(1万円が一般的)に留め、実質負担額が自己負担下限額に収まる範囲内でより多くの自治体に寄附するのが最も合理的だ。つまり、図表2が示す平成25年以降の一件当たり寄附額の急減は、寄附者の合理的行動の結実に他ならない。
(2016年08月19日「基礎研レター」)
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03-3512-1851
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
高岡 和佳子のレポート
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